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手術みたいな緊張感で描いている|Tomoya Shireiインタビュー

Nov 26, 2019
ファッションメディア『QUI』が初となるルックブックを、2019年11月にリリースした。アートワークを手掛けたのは、点描からペインティング、デジタルまで幅広いグラフィック技法で独自の表現を追求するアーティストTomoya Shirei(志礼知也)。今回の提供作品を中心に、制作スタイルや現在の活動について話を聞いた。

手術みたいな緊張感で描いている|Tomoya Shireiインタビュー

Nov 26, 2019 - FEATURE
ファッションメディア『QUI』が初となるルックブックを、2019年11月にリリースした。アートワークを手掛けたのは、点描からペインティング、デジタルまで幅広いグラフィック技法で独自の表現を追求するアーティストTomoya Shirei(志礼知也)。今回の提供作品を中心に、制作スタイルや現在の活動について話を聞いた。
Profile
Tomoya Shirei(志礼知也)
ペン画、精密画家

世の中の不条理(BAD CODING)をテーマに、偶発的な”形”(forme)と不自然な”質感”(Texture)により構成されたモチーフを製作している。その他、ファッションブランドのディレクションや製作、パッケージデザイン、CDアートワーク、壁画など国内外問わず活動中。現在、言語表現を用いずに、サウンドトラックと描写のみで展開される精密マンガ(zine)を製作中。近日アメリカ、日本にて発売予定。

Instagram(@tomoyashirei

ダークなところが思いっきりでちゃいました

— 今回、QUIのルックブックに提供していただいたグラフィックのテーマは?

ORDINARY(普通の)とかTEMPTATION(誘惑)とかREJECTION(拒絶)とか……QUIからもらった12のキーワードを、自分の中でそれぞれ解釈しながらグラフィックにしていきました。

Tomoya Shirei

— 表紙も合わせて計13ページ。けっこうな点数ですよね。

キツかったっす(笑)。

— 制作期間は?

だいたい2カ月ぐらい。主にサンフランシスコの友人宅で。朝起きて夕方までは庭でペイント。そこからお昼寝して、夜は中でペン画描いてってのを毎日ルーティンでやっててめっちゃ楽しかった!最高の環境でした。

— 作品をよく見ると精緻な描き込みに圧倒されます。どんな技法で描かれているんですか?

アナログな部分はふだんやってるペン画で、インクを使って点描で濃淡を出したり、場所によってはデジタルで作ったり、いろいろ混ぜながら。アナログで描いている部分はデジタルと差が出ないようにクオリティを上げています。

制作中の画像を一部拡大

— 黒い部分もただ塗りつぶすんじゃなくて、細かな白抜きがあったり。

わざと残しています。たとえばデジタルの画像をプリントすると割れたり、ノイズが入ったりするんですけど、それをそのまま直さずに描いてるんです。そういうのがちっちゃなこだわりですね。

— あがってきたグラフィックは想像を超えるクオリティで驚きました。

うれしいです。みなさんがいっちゃえいっちゃえって言ってくれたんで、リミッターなしでやりたいことをやらせてもらおうかなと思って描きました。もともと描いている絵がダークな感じに見られるんですけど、それが思いっきりでちゃったなって(笑)。

— チャレンジングな部分、見どころは?

意識したのは1ページでも完結しつつ、並べたら物語性が感じられるということ。黒の強いページがいくつかあって、それと対照的に白いスペースがある絵も織りまぜたり。1ページ1ページをじっくり見て、最後に全体を俯瞰的に見て欲しいなって。

— お気に入りのページは?

これっすね。

— これは獣の牙でしょうか?どんなところが気に入ってますか?

いやもうかっこいい。自分で描いててなんですけど。でも全部同じ好き度で作ったつもりです。なんで単純に思い出に残ってるって意味で。

— 牙モチーフは他の作品でもよく使っていますよね?

そうですね。グロテスクというかリアリティのある描写や質感が好きで。いまは抽象的な部分(モチーフ)とリアリティ(質感)の混じり合った表現を追求しています。

— ページによってはコラージュのような印象も受けます。

一番最初の段階はコラージュに近い感じで構成を決めて、その後アナログでやるところとデジタルでやるところを決めて描いていきました。一見デジタルっぽい部分でも、実際はアナログで描いてたりします。

 

どうやったら死ぬまで描き続けられるのか

— アーティストとして影響を受けたことは?

何かに影響されているというのは意識的にはあまりなくて。クロームとかメタルとか、細胞のゼリー状の感じとか、いまはそういう質感が好きってのが強い。

— それはフェティシズム的な?

フェチに近いかもしれません。

— 絵を描き始めたきっかけは?

物心ついたときから絵を描くのが好きという感覚はあったんで。父親が趣味で点描画をやってたんですけど、というのも父は海洋学系の学校を出てて、細胞などの模写では点描がよく使われるんですね。そういうのが身近にあったことが、多少はきっかけになったかもしれません。
小4ぐらいの自由研究は古代の生物を点描で描いてたんで、それぐらいからペン画には馴染みがあったかな。

— 早熟ですね。その後、美術教育は受けましたか?

デザインはちょっと勉強したんですけど、ファインアートというか表現に関しては誰にも介入されることなくあたためてきました。18で「今後何で生きていこうかな」って考えたときに、誰にも一度も教えてもらってなくて、18年間ずっと一人でやり続けて1回もつまんないって思ったことがないのってラクガキだったんです。それにハッと気づいて、本格的に絵を始めて今年、来年ぐらいで10年になります。でもやっぱ10年描いてもこんな感じか、先は長そうだなって(笑)。

— 目指すところはありますか?

どうやったら死ぬまで描き続けられるか、生き抜けるかってことが重要で。何かの理由でやめちゃったり、オーバーにいうとウデがなくなっちゃったり、それでも描き続けるために自分の生活やメンタリティをバランスよく保つかってことをいつも考えてて。

— 初期の作品から変化を感じている?

でもまあ、共通してるものはあります。ドロドロしてたりエグかったり。ペイントとかもするんですけど、やっぱペン画に取り憑かれてますね。なんかずっと緊張して描いてるんですよ。ペン画って。

制作の様子

— 肩こりとかやばそう……!

すごい痛いです(笑)。それぐらい神経使って1枚1枚描いてるから。ペン画は手術みたいというか、ミスできない緊張感があって、手も汚れてたら紙についちゃうとかすごい気を使いながら描いてて、なんでひとつの作品に対するウエイトが、自分の中ですごく重い。

— ランナーズハイのような感覚も?

近いかもしれない。僕の作業スタイルって最低6時間とかぶっ続けで描き続けるんですね。3日間寝ずに描き続けたとかもあって、それは仕事だったんですけど。最近はだいぶ自分の性格もわかってきて、長時間ひとつのことをやり続けることが得意なんで、ペン画に合っているなって。

 

「モチーフ」と「質感」の組み合わせで表現する

— 以前、QUIのステッカーも作っていただきました。

このステッカーは僕の中ではデザインに近いです。キャラクターもイチから描いてるんですけど(今回のルックルブックとは)だいぶ違う感じですよね。

QUIオリジナルステッカー

— QUIの文字をモチーフにしたグラフィックが独特ですよね。

最近だと2つの要素だけなんですよ。モチーフと質感。モチーフも「犬」とか具体的なものじゃなくて、たとえばこういうパイプみたいなただのカタチにクロームの質感をつける。その組み合わせだけで面を作るのに最近はまってて。でも色があるとやっぱかわいいですね。

— モノクロだとシックな感じになりそうです。

そうですね。これは全部デジタルで作ってて。ペンタブを使って描いています。

— デジタルとアナログ、どっちが好きですか?

うーん……両方良いところはあるんですけど、やってて楽しいのはアナログかな。

— 最近の活動は?

つい先週までニューヨークで、フォトグラファーの方と一緒に展示をさせていただきました。次はその展示を日本に持ってきてやろうかっていう話もしてて。でも年内はとりあえずこもって絵を描きたいな。来年は全国4カ所ぐらいまわって個展をできたらと思っています。今回ルックブックのために描いた作品も来年の展示で出す予定です。

— 原画だと印象も変わりそうですね。

実物は生ものって感じがするんで、デジタルに変換してから見るのとは情報量がまったく違うんですよ。ペンの筆跡だったり塗り残しだったり、点の甘さだったり、そういうのが生っぽく感じる。実際に原画を見ると生々しくておもしろいと思います。

あといま漫画を描いてて。描写だけでワードが一切ない漫画。向こうで描き進めて、でもまだ8ページぐらいなんですけど。帰国してこの後の構成を考えて、だいたい固まったんで。そっちのほうも近い将来出せるんじゃないかな。

— ZINEとして発表するんですか?

アメコミっぽい感じで再生紙を綴じたり、パッケージングをちゃんとやりたいんですよ。作ってみて調子よかったら、どっかの出版社とデラックス版みたいのをちゃんと作るみたいな、ってところまでいけたらおもしろいですね。

 

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ファッションはカスタマイズするのが楽しい

— 話が変わるんですが先日原宿の洋服屋でtomoyaさんの作品を発見しました。なんて店だっけ……プロペラ?

……FAN(ファン)ですか?

— ああそうだ(笑)。

FANは仲良くさせていただいているお店で、あそこはめちゃくちゃイケてます。前の展示のときに絵を買っていただいて、お店に飾ってくれています。

— そうだったんですね。Tomoyaさんはいつもおしゃれだし、服好きですよね?

たしなませていただいております(笑)。最近は古着ばっかりですね。新しいのも買うんですけど、古着をタイダイ染めしたり、シルクスクリーンをしたり。良い服もいっぱい欲しいんですけど、そういう遊びも最近楽しいなって。

— 洋服の販売はしないんですか?

いまはあんまり考えてないです。イベントでシルクスクリーン1発500円で相談しながら刷って、そのままみんなそれ着て踊ってるって絵面がすごいよくて。現場がめちゃくちゃ楽しい。

実は昔6年間ぐらい洋服作ってたんですよ。デザインとディレクションっていうんですかね、工場やメーカーとやりとりして、わりとちゃんと。でも燃え尽きたわけじゃないけど限界を感じて。世の中にはいいものがいっぱいあるし、量産するよりも一点物を作るほうが自分には合ってるなって、いまは思っています。

  • Text : Yusuke Takayama
  • Photography : Miyuki Kuchiishi

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