自分がより自分らしくいられるための香りを|nahes イ・セハン
映像作品の展示会のための香りの創作が<nahes>の始まり
— <nahes>を立ち上げたのはいつですか。
セハン:2025年の10月です。
— 日本で初めてお披露目する場所が伊勢丹新宿店に決まった際、率直にどう思いましたか。
セハン:まだ1年も経っていないブランドが伊勢丹新宿店で展開できると思わなかったので、うれしかったと同時に驚きでした。ありがたいことにすごく大きな展開スペースを用意してもらって、ブランドとして次のステップに必ずつながると思っています。
— 日本初上陸ということなので、<nahes>というブランドについて教えてもらえますか。
セハン:<nahes>がフレグランスで表現したいのは「ありのままのセクシーさ」です。なので、ブランドとして追求しているのもユニセックスでありセクシーな香りです。
— フレグランスには「いつもとは違う自分になる」という効果もあると思いますが、「ありのまま」というコンセプトにはどのような想いが込められているのでしょうか。
セハン:<nahes>の香りを纏って特別な誰かに変身してほしいわけではありません。「いつものあなたの魅力をそのまま表現してほしい」という想いがあるので「ありのままのセクシーさ」というのをブランドとして掲げているんです。
— <nahes>は準備期間として4年を費やしたそうですが、立ち上げまでにそれだけの長い時間がかかったのは何か理由があったのでしょうか。
セハン:それだけの時間がかかってしまったという以外に理由はないです(笑)。手元に十分な資金もありませんでしたからね。
— セハンさんはモデルとしても活動されていますが、フレグランスブランドを立ち上げたきっかけはなんだったのでしょうか。
セハン:モデル活動の拠点にしていたニューヨークで映像作品などの展示会を企画したのですが、その時に「香りが呼び起こす記憶」というのをテーマにしたんです。
— 確かに香りは記憶と深い結びつきがあるものだと思います。
セハン:僕の場合は香りの原風景として母親に抱っこされていた時の匂いというものがあります。ニューヨークでも韓国では体感したことのような人や場所の香りに出会い、それが記憶として刻まれています。そこで「記憶を呼び起こす」というテーマにふさわしい香りを探して多くの調香師に相談をしたのですが、自分のイメージと一致する香りと出会うことはできませんでした。見つからないのであれば、自分で作るしかないと。
— 香りを創作するというのは展示会のためだったんですね。それがフレグランスブランドへと発展したのはどうしてですか。
セハン:展示会はアクシデントがあって開催が中止になったのですが創作した香りは僕の手元に残りました。ただ、その香りは独特すぎることもあって、もっと多くの人に求められるような香りを作ってみたいと思ったのが<nahes>の始まりです。
モデル活動を通じての体験が香りのインスピレーション源に
— モデルとしてのキャリアが香りの創作に活かされることはありますか。
セハン:モデルという仕事を通じていろんな国や場所を訪れましたし、多くの人にも出会ってきました。その経験や体験は<nahes>の香りに大きな影響を及ぼしています。ベルリンを訪れた時のこと、メルボルン北部のフィッツロイで目にしたこと、苦労も多かったニューヨーク時代に知ったマーク・ロスコの作品のことなど、それらの全ての記憶がフレグランスのインスピレーション源になっています。
— <nahes>の香りはどのようなプロセスを経て具現化されるのでしょうか。
セハン:作りたい香りを調香師に伝えるために僕が旅先で撮った写真を見せたり、詩のように文字に起こしてイメージを共有していきます。場合によっては使いたい香料をリクエストすることもあります。香りのイメージを具体的に伝えるのは難しいので、いろいろな表現手段を用います。ひとつの香りを完成させるのに1年ぐらいは時間がかかります。
— 新しい香りのヒントを探すために旅に出かけたり、人に会ったりすることもありますか。
セハン:そういうことはしないです。いろいろな場所を訪れる、いろいろな人に会うというのはあくまでモデル活動の中でのことです。フレグランスに活かしたいことがたくさんあるので、これまでのあらゆる記憶というのは色褪せることは全くないです。
— <nahes>はユニセックスということですが、シャープでクールな印象の香りが多いような気がしました。
セハン:僕はファッションなどでも「これは男性向け、こっちは女性向け」という考えが薄いんです。なので<nahes>の香りも男性を意識しているわけではありません。男性像をイメージするようなシャープでクールな香りを女性が纏うのはすごくかっこよくて、魅力的だと思いませんか。
— コレクション名も印象的で、「HEIDI(ハイジ)」というのはあのアニメが由来なのでしょうか。
セハン:もちろん『アルプスの少女ハイジ』です。幼いハイジが駆ける野原、その野原に咲いているチュベローズをイメージした香りです。チュベローズというのは無垢な香りを放ちますが、そこに「セクシー」という要素を加えたらどのような香りになるかと思い作ったフレグランスです。

HEIDIのフレグランスの詳細はこちら
—『アルプスの少女ハイジ』もセハンさんの記憶に刻まれているものなのでしょうか。
セハン:僕は韓国でも本当に田舎で生まれ育ちました。そんな田舎でも一週間に一度だけアニメを観ることができて、そこで放映されていたのが『アルプスの少女ハイジ』でした。僕はこれまでに自分が体感したこと、目にしたこと、印象に残ったことを香りの創作に活かすためにメモなどに残しているのですが、『アルプスの少女ハイジ』というのは記憶の1ページ目に記されているぐらい大切にしてきた幼い頃の思い出です。
—「Phoebe(フィービー)」というコレクションにもモデルはいますか。
セハン:「Phoebe」はKate Moss(ケイト・モス)をイメージしたフレグランスです。僕は自由で多様性に富んだ90年代の雰囲気が好きで、Kate Mossはその象徴でもあると思っています。インスピレーション源となったのはMario Sorrenti(マリオ・ソレンティ)が撮ったKate Mossの写真で、10代の少女が放つ無垢ながらも官能的な香りを表現しました。

Phoebeのフレグランスの詳細はこちら
日常に寄り添ってくれるものとして香りを楽しんでほしい
— 今回はポップアップでメンズ館に出店しますが、現在の常設店は韓国だけですか。
セハン:そうです。ですが韓国のショップには多くの日本人の方が訪れてくれています。「SNSを見て来ました」という声が多いのですが、そもそもどうやって<nahes>のことを知ったのかなって思うぐらいです(笑)。
— <nahes>のブランドビジュアルはインパクトが強くて、あれを目にしたらショップを訪れたくなるのもわかります。
セハン:ビジュアルを共作しているクリエイターたちに僕が伝えるのは、香料だったり、香りの具体的な説明ではありません。ブランドとして発信したいビジョンやイメージを共有することをいちばん大切にしています。ブランドとして初めて作ったポスターにはフレグランスそのものは登場していません。ショートカットの女性とロングヘアの男性でビジュアルを構成したのですが、それは中性的な香りを追求していく<nahes>の姿勢を表したものです。
— 日本でもフレグランスの盛り上がりを感じるのですが、韓国のフレグランスシーンをどのように見ていますか。
セハン:韓国でもフレグランスの盛り上がりはすごく感じます。韓国発のブランドも増えていて、それらを海外のフレグランスイベントなどで目にすることも珍しくはありません。これまでは韓国では柔らかい香りが好まれていたのですが、その傾向にも変化を感じています。
— これからは日本での展開も考えていると思いますが、どのようなショップに置きたいですか。
セハン:僕がフレグランスは日常に存在するもの、暮らしに寄り添うものと捉えているので、家具やインテリアのショップ、雑貨店などから<nahes>の世界観を発信できたらいいなと思っています。思いもよらないショップに置いて、驚きのような出会いも提供してみたいですね。
— メンズ館の<nahes>のブースに装飾として置かれていたランプや写真集はセハンさんの私物だそうですが、家具なども好きですか。
セハン:最近はヴィンテージ家具に興味を持っていて、訪れた先々でアンティークショップや蚤の市のような場所に足を運んでいます。そういった体験もきっと次の新しい香りの創作につながっていくと思います。
— 最後に日本のフレグランス好きに<nahes>をどのように楽しんでほしいか、メッセージをお願いします。
セハン:その日の気分に合わせてファッションの一部として<nahes>を纏ってもらえたらうれしいです。フレグランスは気持ちを高揚させてくれたり、ポジティブにしてくれたりするものなので「ありのままの自分」というメッセージはもしかしたら矛盾しているかもしれません。ですが、「自分らしさをより引き立てる」という自然体で<nahes>を楽しんでもらえたらと思います。
nahes
韓国発のフレグランスブランド<nahes(ナフ)>。モデルとして世界を舞台に活動してきたクリエイティブディレクター、イ・セハンによって設立された。ブランドが掲げるコンセプトは「RAW SENSUALITY(ありのままの官能性)」。完成されたラグジュアリーや洗練された美しさではなく、人間が本来持つ本能や感情、衝動といった説明しきれない魅力に焦点を当てる。香りだけでなく、ビジュアルや空間演出までを一貫した世界観のもとで構築し、フレグランスを自己表現のためのツールとして再解釈。香りを通して、記憶や感情を呼び起こす体験を提案している。
ウェブサイト:https://www.icjonline.jp
インスタグラム:@nahes_official、@nahes_jp
- Photograph : Junto Tamai
- Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLe)
- Edit : Miwa Sato(QUI)






