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目指すのは誰も真似できない雰囲気や佇まいが宿る服|BIBLIOTHERK 畑龍之介

Dec 25, 2025
「積極的に前に出ていくタイプではない」と本人が言うように、<BIBLIOTHERK(ビブリオテーク)>のデザイナー、畑龍之介の語り口調は物静かではあった。しかし、ひとつひとつの言葉から伝わってきたのは服作りに懸ける情熱。<BIBLIOTHERK>の服にはデザインや色柄は落ち着いていても強いメッセージ性を感じていたが、それは畑龍之介の人格がそのまま投影されていたからだと確信したインタビューだった。

目指すのは誰も真似できない雰囲気や佇まいが宿る服|BIBLIOTHERK 畑龍之介

Dec 25, 2025 - FASHION
「積極的に前に出ていくタイプではない」と本人が言うように、<BIBLIOTHERK(ビブリオテーク)>のデザイナー、畑龍之介の語り口調は物静かではあった。しかし、ひとつひとつの言葉から伝わってきたのは服作りに懸ける情熱。<BIBLIOTHERK>の服にはデザインや色柄は落ち着いていても強いメッセージ性を感じていたが、それは畑龍之介の人格がそのまま投影されていたからだと確信したインタビューだった。

畑龍之介

ファッションへの葛藤を抱えて図書館に通い続けた高校時代

—畑さんはアルゼンチンで生まれ、渋谷で育ち、高校時代を過ごしたのはアムステルダムやミュンヘンと、なかなか経験できないような人生ですね。

畑:いわゆる転勤族というやつでした。

—ファッション感の醸成においてはどの時期、どの国の影響がいちばん大きかったのでしょうか。

畑:ファッションについては小さい頃から興味があって、小学生ながらパンツやシューズは<NIKE(ナイキ)>で、トップスは<POLO RALPH LAUREN(ポロ ラルフ ローレン)>といったこだわりを持っていました。

—ヨーロッパのカルチャーは影響力が大きそうなのでファッションへの目覚めは高校時代だったのかなと思っていました。

畑:高校が私服だったので、着こなしやコーディネートへの興味が強まったのはドイツで過ごしていた頃からだと思います。僕も最初はブランドが好き、ファッションが好きという普通の服好きだったのですが、そこから自分で作る方へと意識が向かって、現在の<BIBLIOTHERK>の世界観はヨーロッパでの体験が大きな影響を及ぼしているのは間違いないです。

—デザイナーに意識が向かったのは何かきっかけがあったのでしょうか。

畑:高校卒業後に日本に帰国したのですが、大学と並行してここのがっこうやmeにも通っていました。ですが最初からデザイナーを目指していたわけではなく、ファッションとして興味があったのはバイヤーやセールスという仕事でした。でも周囲はデザイナーになりたいという生徒ばかりで、僕も自然とそっちに引っ張られたというか(笑)。さらにmeで講師をされていた<KEISUKEYOSHIDA(ケイスケヨシダ)>の吉田圭佑さんから「畑くんは理想と現実で葛藤していた高校時代の心情をベースにクリエーションをしていくべき」と言われたんです。それで自分でブランドをやってみようという気持ちにもなりました。

—高校時代の葛藤ってヨーロッパで何があったのでしょうか。

畑:高校生になるとファッションへの興味や関心はどんどん増していって、ヨーロッパのファッションカルチャーの偉大さも理解していましたが言語の壁もあって深く語り合える仲間や友人も特にいない、ファッションとちゃんと向き合うこともできない状況でした。そんな葛藤を抱えていた僕が頻繁に足を運んだのが図書館だったんです。

—ブランド名の由来はドイツ語で図書館を意味する「Bibliothek」だそうですが、そことつながるんですね。

畑:図書館では服飾に関する書籍を読んだり、写真集を眺めたりして自分の理想を追い求めていたんです。大好きなファッションをどうやったら自分の人生とリンクさせることができるのか、それを図書館で考え続ける毎日でした。高校時代は何もできない、何者にもなれない自分に対して悶々としていました。それが思春期特有のメンタリティだったんでしょうけど(笑)。

—最も多感ともいえる10代後半を海外で過ごしたということで、華やかで刺激に満ちた高校生活を送っていたのかと思っていました。

畑:そんなことはないですね。一人でいるような時間も多かったです。ただ、しゃがんでいる時間が長いほどより高くジャンプできるというように、出口が見えないような高校時代を過ごしたからこそ今の僕があるというのは感じています。「<BIBLIOTHERK>のアイデンティティを形成するために、いい思い出が少なくても高校時代から目を背けるべきではない」という吉田さんのアドバイスにはハッとさせられました。なのでブランド名の由来を図書館にするのも迷いはなかったです。

かつてのコレクションを超えるために力を入れた生地と撮影

学生時代のショー

—<BIBLIOTHERK>は2022年秋冬コレクションでデビューしていますが、ブランドの世界観はずっと変わっていないのでしょうか。

畑:表現したい世界観は変わっていません。ただ、僕にとって初めてのショーはmeの在学中で、<BIBLIOTHERK>をスタートさせた数年はそこで披露したルックを超えることができていないのではとずっと感じていました。もちろん服を作り続けていたのでクオリティはアップしているはずで、過去を美化していただけかもしれませんが。

2024年秋冬コレクション

—ブランドを始めてからも「かつての作品を超えられていない」という葛藤があったんですね。

畑:そういう葛藤を乗り越えるためにやったことが生地により強くこだわる、撮影もヨーロッパで行うなど、<BIBLIOTHERK>を成長させるための投資です。<BIBLIOTHERK>は日本で撮影していた頃もあえて曇りを選んでいたのですが、同じ曇りであってもヨーロッパは質感が重たいというか、<BIBLIOTHERK>が表現したい世界観とよりマッチしていました。初めてヨーロッパで撮影したのは2024年秋冬コレクションだったのですが、当日は曇りどころか雨でした。撮影するには最悪のシチュエーションとチームの誰もが思っていたはずですけど、僕だけは「<BIBLIOTHERK>らしい重厚なビジュアルが作れる」と心の中で喜んでいました(笑)。

—雨には陰鬱なイメージもありますが、畑さんは<BIBLIOTHERK>の服を着てどういう気持ちになってほしいのでしょうか(笑)。

畑:もちろんネガティブになってほしいなんて思っていません。ただ、気持ちが外に向かっていくというよりも、着ることで自分が内に秘める心情を見つめ直して自問自答したくなる。<BIBLIOTHERK>の服がそういう存在になれたらいいなとは思っています。

2024年秋冬コレクション

—<BIBLIOTHERK>は「ニュートラルでアンニュイな人間像」を提案していますが、それも着ることで気持ちが大きく揺さぶられるような服を目指していないということでしょうか。

畑:もちろん一着一着には僕の想いが込められていますが、プロダクトとしてアウトプットするときには個人的な考えや思想が如実に現れないようにしているというか。先ほどから葛藤と言っていますが、服に込めた想いは深く、複雑であっても表現としてはドライに徹する。そういう距離感を意識してフラットでニュートラルな服を作っているつもりです。

—ニュートラルであってもアルチザン的な雰囲気が<BIBLIOTHERK>の魅力だと思っていますが生地や工場を選ぶ際の基準などはありますか。

畑:生地は尾州などの日本の毛織物産地に依頼しているオリジナルが中心ですが、素材感や表情はヨーロッパ風の雰囲気というものを大切にしています。すごく特別な生地を使いたいわけでもないですし、ディテールにしても複雑なことをしたいわけでもありません。普通の素材でもちょっとだけ手を加えたり、普通のパーツでもちょっとだけ使い方を変えたり、そんな少しのアレンジで新鮮な服を作りたいとは常に思っています。

2024年秋冬コレクション

—アレンジやズラしというのは基本を知らないとできないことですが、服の構造やパターンメイキングはどこで学んだのでしょうか。

畑:完全に独学です。服の作り方など何も知らない状態でブランドを立ち上げたので、今でもパタンナーに質問責めをしています(笑)。「どうしてこういう縫い方なのか」、「どうしてこういう仕様なのか」、「このディテールを省くとどうなるのか」など疑問は尽きないです。トワルチェックも必ず自分で着て、鏡の前に立ってポケット位置やシルエットのバランスなどを確認しています。僕がオリジナル生地を依頼している方も独学で生地作りを学んだそうです。

—独学同士ということで共鳴するものがあったのでしょうか。

畑:単身で尾州に飛び込んで自力で学んだような方なので、生地に懸ける情熱は素晴らしく、提案の幅も広い。作った生地は輸出することを基本にしていて、日本の高度な技術を世界に広めようとしている考えにも共感できます。縫製などをお願いしている工場のリーダーのような方も毎シーズンのように<BIBLIOTHERK>を買ってくれていることもあり、最終チェックなどは僕よりも厳しい。「ここは違うんじゃないの」ってダメ出しされますから(笑)。ですがそういう積み重ねによって信頼関係が築けていると思っています。

—畑さんがやりたいことを実現してくれる生地屋や工場を探し出したことも、先ほど話していたブランドへの投資ということですね。

畑:デットストック生地も信頼している業者から調達しています。<BIBLIOTHERK>はオリジナル生地で作る「インフィニティ」とデットストック生地で作る「フィニティ」があって、それも公式ではなかったのですが、次のシーズンから正式なライン分けとしてロゴも変えていきます。そういうことができるようになったのも熱量の高い生地屋や工場との出会いのおかげで、ブランドのアイデンティティが少しずつ形成されている実感があります。

「畑龍之介が作った服だからほしい」と言われ続けるように

—ブランドとして着実にステップアップしているなかで、周囲からの声や評価に変化はありますか。

畑:現段階の<BIBLIOTHERK>を買い付けてくれているバイヤーさんって売れる、売れない、ウケる、ウケないという基準でセレクトしていないような気がしています。僕の服作りに懸ける情熱を買ってくれているというか。目指したいのは「畑龍之介が作った服だから選んだ」と言ってもらえるようになることです。目標はたくさんあるのですが到達できていないことが多いんですけどね。

—畑さんが目指しているいちばんの到達点ってなんでしょうか。

畑:<BIBLIOTHERK>の服を分解して、生地から縫製、糸まで完全にコピーしても見比べたときにオリジナルにだけ宿る魅力のようなものがないとダメだと思っています。それは完成度ということよりも抽象的ではありますが雰囲気や佇まいのようなことです。誰も真似できない服を作るというのが最大の目標です。最近、中国で<BIBLIOTHERK>の模造品が流通しているらしく、それを購入した方から「本物かどうか確認してほしい」と問い合わせがありました。

—それは、まだひと目でオリジナルとわかってもらえていないということですね(笑)。

畑:そうなんです。もっと頑張らないとなって思いましたね(笑)。

—<BIBLIOTHERK>としてこれからやっていきたいことなどはありますか。思い描いている未来など。

畑:ブランドとしてやれることが少しずつ増えてきていますが、あまり先のことを考えることはなくて、まだまだ足場を固めているような段階です。大きな後ろ盾があるわけでもないので大々的にショーを開催することもできないですから、生地のクオリティをもう一段階アップさせるなど、少しずつの積み重ねを大切にしていきたいです。

2026年春夏コレクション

—海外での展開なども見据えていますか。

畑:2026年の1月には韓国でポップアップを開催します。パリや東京でショーや展示会を開催してそこに海外からバイヤーさんに来てもらうよりも、<BIBLIOTHERK>を見たい、着たいという声があるならそれがどんなにローカルな都市でも自分から足を運びたいです。ショーに多くの予算をかけるよりも、使えるお金があるなら<BIBLIOTHERK>の全てが伝わるような書籍を作ってみたい。その書籍をショップやポップアップイベントで紹介して、ブランドの世界観を丁寧に地道に伝えていきたいという思いは持っています。

BIBLIOTHERK
https://www.instagram.com/bibliotherk/

  • Photography : Kaito Chiba
  • Interview : Akinori Mukaino(BARK IN STYLE)
  • Edit : Yusuke Soejima(QUI)

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