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日本の伝統工芸への敬意を払う現代の美意識と共鳴するクリエイション┃TATRAS× YOSHIROTTEN

Nov 13, 2025
<TATRAS(タトラス)>が輪島の伝統⼯芸と現代の感性を融合させ、新プロジェクトとして立ち上げた「Layers of Japanese Craft」。プロジェクトの中心にあるのが漆塗りの伝統的な技法である「ぼかし塗り」。そこで<TATRAS>がアートディレクションを依頼したのがアーティストのYOSHIROTTEN。過去に漆芸家の桐本滉平とコラボレーションした「ぼかし塗り」の「SAKAZUKI」は大きな反響を呼んだこともあり、今回のプロジェクトにもYOSHIROTTENの日本の伝統工芸に対するリスペクトが込められていた。

日本の伝統工芸への敬意を払う現代の美意識と共鳴するクリエイション┃TATRAS× YOSHIROTTEN

Nov 13, 2025 - FASHION
<TATRAS(タトラス)>が輪島の伝統⼯芸と現代の感性を融合させ、新プロジェクトとして立ち上げた「Layers of Japanese Craft」。プロジェクトの中心にあるのが漆塗りの伝統的な技法である「ぼかし塗り」。そこで<TATRAS>がアートディレクションを依頼したのがアーティストのYOSHIROTTEN。過去に漆芸家の桐本滉平とコラボレーションした「ぼかし塗り」の「SAKAZUKI」は大きな反響を呼んだこともあり、今回のプロジェクトにもYOSHIROTTENの日本の伝統工芸に対するリスペクトが込められていた。
Profile
YOSHIROTTEN
Artist

1983年生まれ。地球・光・色彩を題材に、自然界と都市文化、空想科学と精神世界が混じり合う世界観を描くアーティスト。デジタル表現と物質的素材の探究など一見相反するような領域を、平面から立体、映像といった様々なメディウムによる表現を通して横断的に模索している。主な個展に〈FUTURE NATURE〉(TOLOT heuristic SHINONOME, 2018年)、〈SUN Installation〉(国立競技場・大型車駐車場, 2023年)、〈Radial Graphics Bio / 拡張するグラフィック〉(ギンザ・グラフィック・ギャラリー, 2024年)、〈FUTURE NATURE II In Kagoshima〉(鹿児島県霧島アートの森, 2024年) その他、国内外での個展やグループ展など。クリエイティブ・スタジオYAR代表。

日本の高度な伝統工芸の技法を外の世界に出したかった


—今回の<TATRAS>のプロジェクトにYOSHIROTTENさんはどのように携わったのでしょうか。

<TATRAS>から声をかけていただいたときに僕が最初に考えたのは、「<TATRAS>と取り組むことで何を生み出せるか」ということです。アパレルとの共作の場合、例えば僕のアートワークを<TATRAS>のダウンウェアにプリントするようなことを想像すると思うんです。でも、そこ止まりだとしたらやる必要はあるんだろうかって。

—これまでもYOSHIROTTENさんのアートワークとアパレルを掛け合わせるというクリエイションはやられてきましたよね。

YOSHIROTTEN:やってきましたし、それに意味がないというわけではないです。ただ、今回は<TATRAS>が以前から行なっていた工芸との取り組みをアートディレクションでアップデートするような試みの方が面白いことになるのではと思ったんです。

—それは<TATRAS>のダウンウェアに新しいファッション性を持たせるということでしょうか。

YOSHIROTTEN:新しい意味を持たせるというのはファッション性のことではありません。<TATRAS>が過去に日本の伝統工芸に着目したコレクションを発表していたことは知っていました。なので僕が漆芸家の桐本滉平さんと共作した「SAKAZUKI」のクリエーションを結びつけることができれば新たなメッセージを発信できると思ったんです。

—日本の伝統工芸にクリエーションの可能性を感じている<TATRAS>と、YOSHIROTTENさんのアーカイブを融合することでどのようなメッセージを発信したかったのでしょうか。

YOSHIROTTEN:残し続けていきたい日本の伝統工芸や素晴らしい高度な技術に目を向けてほしい、知ってほしいという思いです。「SAKAZUKI」は輪島塗りの「ぼかし塗り」という技法の作品ですが、そこからインスピレーションを得たアートワークを<TATRAS>のダウンウェアに落とし込むことで、「ぼかし塗り」が伝統工芸の世界から外に出ることができます。着ている人が街を歩けば、それを目にする人がいて、興味や関心を持ってもらえるかもしれないと考えたんです。

—ダウンウェアのグラフィックとしてはとても印象的なので、「どこのブランドだろう?」、「誰のデザインだろう?」と確かに興味は生まれそうです。

YOSHIROTTEN:今回はウェアだけでなくバッグも製作しましたが、誰かが目にして興味を持ってくれたら「これはぼかし塗りという技法がベースになっていて‥」など会話が生まれるかもしれない。僕は初めて「ぼかし塗り」を目にしたとき、その高度な技術に感動しました。僕と同じような体験をしてほしいし、今回の<TATRAS>の取り組みが「工芸」を知るきっかけになってほしかったんです。

新しい何かが生まれてきそうな気配があるかどうかが重要

—今回のプロジェクトについて<TATRAS>はYOSHIROTTENさんとのコラボレーションとは言っていません。それは何か理由があるのでしょうか。

YOSHIROTTEN:僕と桐本さんの「SAKAZUKI」はコラボレーションですが、<TATRAS>との関わりはあくまでもアートディレクションです。先ほどもお話ししましたがコラボレーションだと「共同作業のモノづくり」で止まってしまいます。僕は服を作りたかったわけではなく、<TATRAS>との取り組みで日本の伝統工芸の素晴らしさを伝えていくことができるかもしれないと思ったからオファーを受けたんです。そういう意味でそれぞれが自分の役割を果たすようなコラボレーションではないんです。

—世界観を構築するための全体ディレクションを引き受けたということでしょうか。

YOSHIROTTEN:僕は「<TATRAS>のアイテムと桐本さんの技法を融合させましょう」という立ち位置で、今回のプロジェクトへの関わり方をキュレーションと表現しています。僕は桐本さんに自分が思い描く色のグラデーションや陰影を伝えて「こういう表現はできますか」とお願いし、<TATRAS>には「この表現を服に落とし込めますか」と依頼しました。両者の架け橋のような役割です。

—グラデーションというのはYOSHIROTTENさんらしさが現れていると感じました。

YOSHIROTTEN:グラデーションの陰影って人の心の揺れ動き、空の色の移り変わり、日常で起きる些細な変化などとも重なると僕は捉えていて、誰もが自分自身の心境を投影しやすいと思っています。だからこそ僕も漆塗りの奥行きのある陰影に心を打たれたのかもしれません。僕は「ぼかし塗り」のグラデーションをコンピュータで表現していますが、実際の漆塗りは髪の毛でできた刷毛を使うんです。髪の毛でなければ表現できない陰影があって、そういう技法や道具が何百年も残り続けていることにも驚きますし、感動しますよね。

—グリーンとオレンジはどういう意図で選ばれたのでしょうか。

YOSHIROTTEN:「SAKAZUKI」を製作したときの色漆のカラーパレットから選んだのですが、明確な理由があってグリーンとオレンジにしたというよりは感覚的なものです。「植物のようなグリーンのダウンがあれば着てみたい、夕焼けのようなオレンジもいいな」って自然を想像させる僕が好きな色なんです。

—事前に写真では目にしていたのですが、グリーンもオレンジも実際は印象が異なりました。ビジュアルのディレクションもYOSHIROTTENさんが手がけたのでしょうか。

YOSHIROTTEN:ビジュアルに関しては僕が信頼しているチームにお任せしました。ファッションとしてどのように表現するのか楽しみにしていましたし、そのチームだからこその現代的なファッションの切り取り方に期待して全てを委ねました。

—「このチームだからこそ」と同じようにYOSHIROTTENさんもオファーに対して「自分だからこそ」というのは必ず考えていますよね。

YOSHIROTTEN:もちろんです。自分が関わっても何かが生まれる気配がないなら、そもそもオファーを受ける意味があるのかと自問自答します。ずっと残り続けていくものにこだわっているわけではありません。打ち上げ花火のような一瞬の爆発を求められたとしても何がやりたいのか、どうして自分なのかが明確であれば喜んで引き受けます。ただ、今回の<TATRAS>はそういう種類の仕事ではないというのは最初から思っていたことです。

—それは<TATRAS>がこれまでにも日本の美意識と現代的な感性を融合させたプロダクトを発表してきたからでしょうか。

YOSHIROTTEN:そうですね。日本の美意識を宿らせるということも大事にできたらと思います。

—YOSHIROTTENさんは現代の美意識のなかに日本の伝統工芸の技術や精神がどのように生きていると考えますか。

YOSHIROTTEN:日本の伝統工芸ってこだわり抜いて生まれてくるものだと思うんです。そういう作品は強いですし、年月を経ても色褪せることもありません。技術を絶やすことなく受け継いでいる職人がいる、日本の伝統工芸の素晴らしさを伝え続けようとしている人もいる。日本ならではの美意識を無くしてはいけないという思いは誰もが胸の内に抱いているのではないでしょうか。そんな気がしています。

 


<TATRAS>のダウンには人気が分散するほど数多くのシグネチャーモデルが揃っているが、YOSHIROTTEN をアートディレクターに迎えた今回のカプセルコレクションにはモデル名は存在しない。それもそのはずで現行モデルにベースにしたわけではなく、着丈から身幅、シルエットなど全てをゼロから起こしたオリジナルなのだ。街ですれ違っても、それが<TATRAS>であると瞬時に判別はできないかも知れないが、グラデーションのビジュアルは確実に脳裏に残り、表現の意図を知りたくなる。間違いなく、そんな一着となるだろう。

<TATRAS>について
2007年、日本人によりイタリア・ミラノで設立されたTATRASは、革新的で高品質なプロダクトを通じて、あらゆる日常のシーンに寄り添う洗練されたスタイルを提案している。
細部まで妥協を許さない日本人の丁寧なものづくりとイタリアの美意識の融合によって生み出されるコレクションは、都会的で洗練された大人のスタイルを具現化している。
カルチャー、エレガンス、ミリタリーをエッセンスに、クリエイティブなブランドとして世界中で愛され、トレンドを超えた普遍的なワードローブを生み出し続ける。

  • Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLe)
  • Edit : Ryota Tsushima(QUI)

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