向井太一 × claquepot − TALK ABOUT “COLORLESS”【前編】
— かねてより親交の深いお二人ですが、そもそもの出会いは何だったんですか?
向井太一(以下、向井):僕のライブを観にきてくれたんですよね、渋谷のWWWに。
claquepot:そうそう。太一含め、気になってる人たちがたくさん出ているイベントで。
向井:そこで挨拶させてもらったのが初めましてだったんですけど、着ていたLOEWEのスウェットを見て「いいの着てますね」と言ったのを覚えてます、初対面で(笑)。「この人とはたぶん洋服の趣味が一緒だな」と思って。
claquepot:そう、服の趣味が似てるんです。そのあとごはんに行って。
向井:カフェね! スムージーを飲みに行って。
— お酒を飲みに行くとかじゃなくて。
claquepot:カフェですね。
向井:その空気もめちゃくちゃ合うなと思ったんですよ。ミュージシャン仲間とお茶するのってあんまりないので、波長が合うなと。
claquepot:確かに。ないね。
向井:だから音楽的にというよりも、プライベートでの好みがすごい合うなと思って自然と仲良くなっていった感じです。僕はミュージシャンでプライベートでの趣味や感覚が近い人ってそんなにいなかったので新鮮でしたね。変な話ですけど、「これはだるいな」と思うこととかも一緒で(笑)。
claquepot:ああ、それめっちゃわかる。あとはクリエイティブ全般に対する感覚も近い気がします。音楽だけじゃなくて、アートワークとか付随するものすべてに対する考えがあまり掛け離れていなくて、話しててすげー気持ちいいんですよ。
向井:絶対そっちのほうがいいですね、「だるいなと思うことが一緒」より(笑)。
claquepot:あはは(笑)。
向井:あと聴いてきた音楽も一緒で。日本のR&Bなんですけど。あまり周りにJ-R&Bを聴いてきている人がいないので、その話でも盛り上がりました。
claquepot:今回のアルバムのクレジットを見ても「GIANT SWINGだ!」と思ったし。聴いていた人たちと曲や作品を作っているところを見て、やっぱり感覚が近いんだなと思いましたね。あと恋愛観も割と近しいところがあって。
向井:え、そうですか? でも確かに恋愛の話はよくしてますね。僕、あんまり人と恋愛の話をしないですけど、クラポさん(claquepot)とはしますもん。
claquepot:俺も太一とルンさん(ルンヒャン)にはする。昨年3人で『PARK』を作ったときに思ったんですけど、ルンさんも太一も僕も、第三者のプロデュースや楽曲提供をしているから、対アーティストの間合いの詰め方がうまいんですよね。価値観の押し付けがなくて、違う意見が出ても「なるほど、そういうのもあるんですね!」となる。それも一緒にいて居心地いい理由なんだと思います。
向井:確かにそうかも。
— 『PARK』を共作して感じた音楽面での共通点はありますか?
向井:一番思ったのは、ポップさとコアな部分のバランスの取り方がめちゃくちゃ近いということ。クラポさんの曲を聴いたときから思っていたんですが、トラックの尖った部分とトップラインのキャッチーさの感覚が近いんですよね。『PARK』は3人それぞれが別々のトップラインをトラックメイカーに投げて、そこからトラックメイカーがセレクトしていくという作り方だったんですけど、クラポさんのものが採用されることがすごく多くて。出来上がった曲を聴くと、確かに自分の中にはない要素なんだけど、自分のイメージしていたものに近かった。
claquepot:さっき太一も言ってましたけど、幼少期に聴いていた音楽が近いからなんだと思います。2000年前後のJ-R&B。僕ら2人ともR&Bは好きだけど、純度100パーセントのR&Bオタクではないんですよね。同じくらいJ-POPルーツのR&Bも聴いていたから。だからそのバランス感覚が近いのかなと思います。
向井:2000年前後ってT.Kuraさんが手がけていた安室奈美恵さんを始めとして、J-R&Bがポップスとして当たり前になってきた時代だったと思うんですけど、意外とそこをルーツに持ってるミュージシャンっていなくて。僕の曲もそうだと思うんですけど、クラポさんの曲には今のトレンドとはまたちょっと違う、“J-R&Bあるある”みたいなものがいっぱいあって、聴いていて気持ちいい。思わず口ずさみたくなるんですよ。一緒に曲を作っていても、お互いの鼻歌が相手の作ったパートだったりして。耳馴染みよく感じるものが近いんだなと思いました。
— コアな部分もルーツに持ちながら、作品としてはキャッチーなものを出すというのは、私もお二人の作品に対して感じていて。あえてキャッチーにしている部分もあるのではと思っていたのですが、そこは無意識ですか?
claquepot:あー。僕は意識してるところあるけど……どう?
向井:僕も意識してますね。僕はまず大前提として「売れたい」という気持ちがあって。日本だとどうしても、ドR&Bはちょっとニッチな音楽として捉えられてしまうことがあるので、たくさんの人に聞いてもらうためにも意識してキャッチーにしています。それでいて欲しがりなので、素人にも玄人にも引っかかってもらえるような作品にしたいという気持ちで、曲の中やアルバムの中でバランスを取るようにしています。
claquepot:僕は年齢も重ねて、自分の声質が生きるトラックやメロディを把握できるようになって、その範囲で曲を作っているからというのもありますね。本家のR&Bシンガーの方って、フェイクがめちゃくちゃうまかったり、レンジがすごく広かったりするんですけど、僕にはそれがない。でもそのぶん、僕は僕にしかできないバースの踏み方や、僕の声だから生きるラインがあって。そういうもので遊ぶということを突き詰めた結果、ポップス寄りの今の形になっているんだと思います。
向井:でも僕、最近特にわかりやすさは意識するようになったかもしれないです。デビューした頃はとにかく音数を少なくすることを意識していて、そのあとはアンビエントなものをやったり、尖った同世代のアーティストや海外の作家陣と一緒にやったりして、まずは自分のベースを作っていったんです。そうやっていろんなことをやった上で、今はもっとデカいフィールドに行きたいと思うようになって。それに伴ってやりたいものも、もうちょっとわかりやすくてドラマチックなものに変わってきた感覚があります。
— その変化はいつ頃からですか?
向井:アルバム『SAVAGE』(2019年9月発売)を出したあとくらいからですね。あのアルバムは「自分の才能って何なんだろう」と自信をなくして落ち込んでいたときに作ったもので、思いっきりアンビエントに振り切った作品にしたんです。それを経て、今はドラマチックで開けたようなサウンドが心地よくなって。そこで、『Supplement』(2020年7月発売)と『COLORLESS』では百田(留衣)さんにプロデュースをお願いしたんです。
— 落ち込み切ったら元気になってきた、みたいな感覚ですか?
向井:ああ、そうですね。
claquepot:確かに。『COLORLESS』では明るくなったよね。
向井:『SAVAGE』のとき、親から電話すごい来ましたもん。「大丈夫? なんかあったらいつでも言ってね」って(笑)。
claquepot:曲を通して筒抜けじゃん(笑)。そういう意味では、太一の歌詞の書き方って身を削ってるからすごいなと思う。僕は割と語感とかアイデア先行で、自分の何かを吐き出すというよりかは、フィクションだったり、俯瞰した視点に置き換えたりして曲を書くことが多いので。
向井:クラポさんは確かにそうですよね。僕、エイミー・ワインハウスがすごく好きで。宇多田ヒカルさんとかもそうですけど、私生活を歌詞に反映させて、人生をかけて曲を書いてる人に昔から憧れがあるんです。自分もそういうアーティストになりたいと思っているので、自分のことを歌うというのはデビューから一貫してますね。
— claquepotさんがおっしゃるように、それは身を削る作業でもあると思うんですが、そこにしんどさはないんですか?
向井:うーん、なんか癖付いちゃってるんですよね。失恋したら「いい歌できるな〜」みたいな(笑)。
claquepot:あー、「これで3曲書けるな」みたいなやつでしょ?(笑) 確かにめちゃめちゃイライラしたときも「あ、これ曲にできるわ。2曲書ける」とか考えちゃうもんな。
向井:でも『SAVAGE』で不安定な自分のことを曲にしたら、それをファンの人が受け入れてくれて。『SAVAGE』のときに男性のリスナーも増えて、より幅広い人が聴いてくれるようになったんですよ。それによって「僕は今の自分のままでいいんだな」と思えて。そういった意味では、苦しい作業だけど、自分にとってはいいことなんだなというのは改めて感じましたね。
— では『COLORLESS』は歌詞の面でも、『SAVAGE』とは違うマインドでの制作だった?
向井:そうですね。曲によっては制作を始めたのが『Supplement』の前、コロナ禍での自粛の時期だったんです。だからくさい言い方になっちゃいますけど、とにかく光を照らすようなものを作りたいと思っていて。それこそ『SAVAGE』のときに自分が支えられたので、次は支えてくれた人たちの道を照らしたり、背中を押せるようなものが作りたかった。コロナ禍でたくさんの人が揺れ動いて道に迷ってしまったと思うんですけど、未来へ一歩押し出せるような作品が欲しいなと思って。そのモードが『Supplement』からずっと続いてる感じですね。
— コロナ禍では音楽活動も思うようにできなかったと思うのですが、それに対して自分自身が落ち込んでいくようなことはなく?
claquepot:太一は落ち込んでたよね。
向井:落ち込んでましたね。でもとにかく何かしなきゃと思っていて。それこそ『PARK』を作ったのがこの時期だったんですけど、それがよかったんですよ。もともと3人で曲を作りたいねという話は以前からしてたんですけど、そのまま時間が経っていて。自粛期間に入ってからすごいスピード感で作りました。直接会える状況じゃなかったので、リモートで作業をして、歌詞がない状態のメロディラインが出来上がったときにめちゃめちゃ感動して。
claquepot:感動したね。
向井:結局、曲を作ることが自分のメンタルヘルスにつながっていたんです。落ち込んでいたけど、それを歌詞や曲にすることで救われて。いろいろ考えることがあったけど、そのぶん自分と向き合う時間もあったし、結果的に創作意欲につながりました。『SAVAGE』の時期に感じていたような「周りと比べて自分は何ができるのか」よりも、「今のこの状況で自分自身は何をするべきか」ということだけを考えることができたという意味で、落ち込んでた気持ちがリセットされた感覚もありました。そういう気持ちの中で作ったのが『COLORLESS』です。
Profile _
左:向井太一(むかい・たいち)
1992年生まれ、福岡出身のシンガーソングライター。自身のルーツであるブラックミュージックをベースにしつつ、ジャンルを超えた楽曲達が高い支持を得る。2021年4月21日に最新作となる「COLORLESS」をリリース。6月にはワンマンツアー「COLORLESS TOUR 2021」を東京・大阪で開催予定。
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右:claquepot(クラックポット)
自身の作品すべてのプロデュースを手掛ける男性ソロシンガーソングライター。己の肖像を映像や写真に反映させないスタイルで活動を続けており、作品もYouTubeと各種音源配信サービスにのみ公開されている。その静かな音楽活動展開にも関わらず、各種音楽ストリーミングサービスのプレイリストに度々名を連ねるなど、その一挙手一投足に高い注目が集まっている。
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Information
2021年4月21日リリース
向井太一 4thアルバム『COLORLESS』
初回生産限定盤(CD+BD)TFCC-86753-86754 / ¥4,620
通常盤(CD)TFCC-86755 / ¥3,300
- Photography : Kenta Karima
- Styling : Sora murai
- Hair&Make-up : Akira Nagano
- Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
- Text&Edit : Chie Kobayashi
- Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)