国立国際美術館で開催中、特別展「非常の常」8名の作家が映す“常態化した非常事態”
会場には、世界各地の同時代的な危機や社会問題に触れる作品が並ぶ。韓国と北朝鮮の非武装地帯(DMZ)を撮影した米田知子の写真は、静かな風景の奥に潜む緊張を漂わせる。袁廣鳴(ユェン・グァンミン)は、居心地の良い住空間が徐々に破壊されていく映像で、戦争と背中合わせの暮らしを描く。精霊を召喚するパフォーマンスで環境問題を批評するクゥワイ・サムナン、高度情報化社会と新自由主義が可能にしたギグエコノミーやプラットフォーム労働の問題を扱うキム・アヨンなど、多様な視点から現代を映し出す。

米田知子《絡まった有刺鉄線と花(非武装地帯近く・チョルウォン・韓国)Ⅰ》2015 年 発色現像方式印画 作家蔵
Copyright the artist Courtesy of ShugoArts

袁廣鳴(ユェン・グァンミン)《日常戦争》2024 年 シングルチャンネル・ヴィデオ(カラー、サウンド)国立国際美術館蔵
©Yuan Goang-Ming Courtesy the artist and TKG+

クゥワイ・サムナン《Untitled》2011-13 年 5 チャンネル・ヴィデオ(カラー、サウンド) 国立国際美術館蔵
©Khvay Samnang
本展は映像によるインスタレーション作品が中心で、8作家中7作家がこの形式で発表する。3Dアニメーションと実写を組み合わせたキム・アヨン、作家自身による体当たりの行為を美しいモノクロ表現で見せる潘逸舟、作家の等身大のコミュニケーションを元にした映像作品を通じて、社会が抱える難題にアプローチする高橋喜代史など、それぞれが異なるアプローチで“非常の常”を提示する。

キム・アヨン《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》2022 年 シングルチャンネル・ヴィデオ(フル HD、カラー、サウンド) 国立国際美術館蔵
©Ayoung Kim Courtesy the artist

潘逸舟《わたしは家を運び、家はわたしを移す》2019 年 ダブルチャンネル・ヴィデオ(モノクロ、サウンド) 国立国際美術館蔵
©Ishu Han

高橋喜代史《POSTER》2018 年 シングルチャンネル・ヴィデオ(カラー、サウンド)、ポスター タグチアートコレクション/タグチ現代芸術基金蔵
©Kiyoshi Takahashi Courtesy the artist
さらに、会場では世界的に活躍する作家による話題作や新作も紹介される。袁廣鳴は、昨年のヴェネチア・ビエンナーレ台湾館で発表された《日常戦争》(2024年)を国内の美術館では初めて展示。キム・アヨンは、アルス・エレクトロニカ賞ゴールデン・ニカを受賞した《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》(2022年)が本展で初公開となる。さらに、リー・キットは2018年以来となる国内美術館での新作「僕らはもっと分別があった。」(2025年)を発表し、詩的かつ絵画的な映像表現で空間を包み込む。

シプリアン・ガイヤール《Artefacts》2011 年 フィルム(HD から 35 ミリフィルムに変換)、サウンド、ループ 国立国際美術館蔵
©Cyprien Gaillard Courtesy the artist and Sprüth Magers

リー・キット《Tearing the world apart, yet achieving absolutely nothing.》2025 年 Courtesy of the artist / Lee Kit
静謐な風景の裏側に潜む緊張や、日常を侵食する見えない力、そしてそれでも続く人々の営み──展示室を巡る時間は、未来を思い描くための小さな手がかりとなるかもしれない。
【出品作家】
・シプリアン・ガイヤール(1980年生まれ、ドイツ/フランス拠点)
・潘逸舟(1987年生まれ、日本拠点)
・クゥワイ・サムナン(1982年生まれ、カンボジア拠点)
・キム・アヨン(1979年生まれ、韓国拠点)
・リー・キット(1978年生まれ、台湾拠点)
・高橋喜代史(1974年生まれ、日本拠点)
・米田知子(1965年生まれ、イギリス拠点)
・袁廣鳴(1965年生まれ、台湾拠点)
【開催情報】
展覧会名:特別展「非常の常」
会期:2025年6月28日(土)〜10月5日(日)
会場:国立国際美術館 地下3階展示室(〒530-0005 大阪市北区中之島4-2-55)
開館時間:10:00〜17:00(金・土曜は20:00まで、入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜(ただし9月15日は開館)、9月16日
観覧料:一般1,500円(1,300円)、大学生900円(800円)
※()内は20名以上の団体および金・土曜17:00〜20:00の夜間割引料金
※高校生以下・18歳未満無料(要証明)
※心身に障がいのある方と付添者1名無料(要証明)
主催:国立国際美術館
協賛:公益財団法人ダイキン工業現代美術振興財団
助成:一般財団法人安藤忠雄文化財団
URL:https://www.nmao.go.jp/events/event/20250628_hijou-no-jou/