山田孝之×松本まりか、極限状態の共演で体感したそれぞれの21年
紀里谷監督『The Little Star』への出演
— まず紀里谷和明監督の『The Little Star』に出演することになった経緯からお聞かせください。山田さんは『MIRRORLIAR FILMS』のプロデューサーも務められていますが。
山田孝之(以下、山田):まず『MIRRORLIAR FILMS』の打ち合わせで名前の挙がった紀里谷さんにお声掛けして、引き受けていただけました。その上で、「じゃあ孝之はこの役で」と。アクションはもう一生やりたくないと思ってたんですが、紀里谷さんが参加してくれるんだったらがんばろうと。
— 松本さんの出演の経緯は?
松本まりか(以下、松本):わたしはてっきり孝之からなのかなと思ったら、全然違って。
山田:そりゃあ、だって紀里谷さんの作品ですから。
— 山田さんと松本さんは2000年のドラマ『六番目の小夜子』で共演してから親交が続いているそうですが、プロデューサーとして松本さんをプッシュしたわけでなく?
山田:それはないです。各作品には僕ら委員会は関与しないですね。
松本:紀里谷さんは海外を拠点活動されているので、日本の女優さんをあまり知らなくて。もちろん、わたしのことも知らなくて。何人かの候補から、いくつか作品を観て選んでいただいたそうです。まさか孝之が知らないとは思わなかったです。
山田:(共演が)松本さんですって聞いて、そうですかと。でも忙しいから出れないんじゃないですかって話をしたのは覚えています。
— 役を演じるにあたって、紀里谷監督からどのような演出がありましたか?
山田:最初に「セリフいる?」って聞かれました。僕は無くても大丈夫ですけど、まりかがどうかはわからないんで確認してくださいと。その後、送られてきた脚本にはセリフがなかったんで、まりかもOKしたんだなって。
— セリフがないというのは? 会話しているシーンもありましたよね。
山田:しゃべってはいますけど、それが脚本にセリフとして書かれていないということです。妻と夫が娘を亡くしたという設定と、シーンごとの状況はあって、その上で何を言ってくるのか、それに対して何を返すのか、とりあえずまわしてみようって。もし気持ちがあったらこっちに来て追いかけて…みたいな指示はあったけど、紀里谷さんの言い方だとそれは強制じゃないんですね。
松本:自由にどうぞ、って感じで。
— ゆだねられすぎて怖い。
松本:そうそう(笑)。しかも感情的には二人とも極限状態まで行かなきゃいけないけど、ガイドはないじゃないですか。二人して何が来るんだっていうアンテナをすごい尖らせた状態でやりとりをして爆発して。そのキャッチボールは強烈な瞬間だったよね。
山田:うん。役としての設定はあるんですけど段取りがないんで、どうなるか、何が起きるかわからないんです。出て行っちゃうかもしれないし、殴られるかもしれないし、泣き崩れるかもしれないし、いきなり首をくくろうとするかもしれない。本当にその空間に生きているリアルなものにはなっていますよね。
だからこそ、なんとなくじゃできない。監督ともそうだし、俳優同士もちゃんと心を通わせて真っ直ぐ向かい合わないとできないので。すごいいい時間だったと思う。
— 互いの呼吸を読みあう武道みたいです。
山田:芝居はそれでしかないですよね。
目指す芝居の境地、理想の役者像
— 本作の出演に対して、山田さんは「短編映画こそ、次のステップを教えてくれる」、松本さんは「演技の原点に回帰する貴重な経験」とコメントされいました。「次のステップ」と「演技の原点」という表現は真逆のようで、すごく通じているように感じました。
山田:言ってることは一緒じゃないですかね。原点に返るっていうのは、次を見据えてるってことですから。
— お二人ぐらいのキャリアを築いても向上心って失われないんですね。
山田:お二人ぐらいって……(『MIRRORLIAR FILMS Season2』には)佐藤浩市さんも出演されてるわけですから(笑)。それに芝居にかかわらず、キャリアって邪魔にもなりますからね。
— たしかにそういうこともあるかもしれません。山田さんは、目指す芝居の境地ってありますか?
山田:受け手側がどう思うかですからね、表現っていうのは。やって終わりじゃない。だから僕はここを目指すというのはないですね。
— では「次のステップ」というのはどういう感覚でしょうか?
山田:短編映画ってスタッフもキャストも本当にいろんなものを出し尽くさないとできない。僕はそこに身を置いて、長編映画ってすごくやさしくされてたんだなって気づきました。だから短期間で情報が少ない中で、みんなで何とかしてやりきったことがすごいと思ったんですよ。これを経験したことで、いままでよりも自信がついたし、逃げずに短編もやっていかなきゃいけないなと。
— 松本さんは、理想とする役者像はありますか?
松本:芝居をしていると心でコミュニケーションができることがあって。それはわたしにとって美しいことで、生きてるって感じられる瞬間で。初めて会った人でもすごく深いところで繋がれて、そこまで行けると感動や気づきや学びがたくさんあるんです。わたしは芝居ってそういうピュアな世界だと思ってて。だから、純粋にその本質的なところの精度を高めていきたいという感じかな。……わかる?
山田:なんとなくわかるよ。まりかはとくに忙しいし、本数も多いから。
松本:だけどさ、そんなことは作っている人たちには関係なくて、いい芝居してほしいだけだから。
山田:いい芝居したじゃない。紀里谷さんビビってたよ。まりかのこと知らなかったから「彼女はこんなにいい芝居ができるんだから、もっとこういう芝居をやらすべきだ!」って。ちょっと怒ってるみたいな(笑)。
松本:うれしい……。
『六番目の小夜子』以来、21年ぶりの共演
— 本当に、二人とも圧巻の芝居でした。
山田:死ぬ覚悟でやりましたね。
松本:(ドラマ『六番目の小夜子』での共演が)21年前なんで、孝之がどんな演技をしていたかも覚えてなくて。
山田:あのときはさ、ただ必死なだけだったじゃん、俺らは。お芝居が何かわかってなかったからね。
松本:だけど21年ぶりにやって、すごいなって思ったんです。孝之は、一つひとつのシーンに感情とか精神の入れ方が半端ないんですよ。自分の心を浄化しているというか、神聖な域に入るんです。もう美しいというか、神々しいというか。
山田:それなんかやばく聞こえるから(笑)。
松本:そうだね(笑)。でもわたしはほんとうにハッとさせられて。孝之でも毎回ここまで神経を研ぎ澄ませないとお芝居ってできないんだなっていうことに感銘を受けて。そこにいるのは孝之であって孝之じゃない、本物なんですよね。人が芝居をするのはたくさん見てきたんですけど、孝之の本当におびえてる目が忘れられなくてぞくぞくしました。それがお芝居の原点だよなって。そういう本物を見ると、わたしも本物の感情を動かしたくなるし、そうすると生きてるって感じられる。だからそういうキャッチボールができるように精度を高めながら続けていきたいなって、さっきの質問の答えにも繋がるかな。
山田:それにしてもきつかった。夫婦として子どもを失ったっていう哀しみがあって、なんで目を離したって自分に腹も立つし、まりかに攻められるのもわかるんだけど、いまそれを言ってもしょうがないじゃんっていうのもあって、でもそもそも俺のせいだし。そんなことが頭の中でぐるぐるぐるぐる。きついよね、どうにもなんない。本当に紀里谷和明は……って思いました(笑)。こういう状況を俺らにポンって渡すんですもん。そこに僕らは飛び込まなきゃ行けないんです。ドボーンって。
松本:短編だから極限状態のところだけを切り取ってるけど…
山田:そこに持ってくためには、いろんなものを固めて持っていかないと。
松本:そうそう。
— 山田さんから見て、21年ぶりの松本さんはいかがでしたか?
山田:お互い無駄に生きていなかったんだなということを実感できました。20年以上同じことを続けるって結構なことですけど、逆に言うとどれぐらい成長できたかっていうことも浮き彫りになるじゃないですか。二人でバチンと本気でぶつかり合ったときに、20年俺らちゃんと学んできたよなって実感できたし、松本まりかと山田孝之としてでなくお互い役として作品を成立させられた。本当に収穫が多かったです。
『MIRRORLIAR FILMS』に込めた想い
— 今回はかなり大変な役でしたが、もし次に共演するとしたらどのような役が良いですか?
山田:もうケンカはしたくないです。あんなぎくしゃくした、お互いを恨むようなのは嫌ですね。
松本:そうだね。もうちょっとじっくり長編でやってみたいな。
山田:表面的に見えている日常的な場所に行きたいです。別に今作も非日常ってわけじゃないんだけどね。世界では子どもの誘拐が無くならないっていう現実もあって、紀里谷さんはそこに対しての問題提起もあって作っているので。
— 『MIRRORLIAR FILMS』自体が既存の映画の在り方に対する問題提起もはらんでいますよね?
山田:いや、そうではないです。短編でオムニバスという、映画の別の楽しみ方もあるよねって。どんな作品があるかわからないけど映画館に観に行って、好きな作品と出会えても出会えなくても発見がある。鏡写しという意味で「ミラー」って名前をつけているんですけど、いま自分が何を求めているかがわかるじゃないですか。
あとは映画に限らずですが、挑戦することって大事なことだと思うので。僕らも参加することで気づきがあったし、ラインを引けばスタートラインに立てる人もいる。それでどんどんクリエイターが生まれていって、底上げできれば。
— 映画の新しい楽しみ方や、新しいクリエイターとの出会いがある。
山田:先ほども話に出たんですが、表現っていうのは受け手がいて成立するものなので、お客さんにこういう映画の楽しみ方もあるんだっていうことに気づいてもらって、じゃあこの監督の過去の作品観て観ようとか、この監督を応援してみようとか、クリエイターとお客さんが育てあうというか助け合う場にしたくてやってます。
松本:短編って想像力だよね、ほんと。想像力を鍛えてくれる。
— 演じる方も観る方も、ですね。
山田:そう思います。観るのも疲れますからね。
Profile _ 山田孝之(やまだ・たかゆき)
1983年10月20日生まれ。鹿児島県出身。1999年に俳優デビュー。2004年「世界の中心で、愛をさけぶ」で主演を務め、第42回ザテレビジョンドラマアカデミー賞で主演男優賞を受賞。2005年に映画『電車男』で主演を務め、社会現象に。また、映画『デイアンドナイト』『ゾッキ』ではプロデュース、ドラマ「聖おにいさん」では製作総指揮を務めるほかミュージカル出演などその活動は多岐にわたる。
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Profile _ 松本まりか(まつもと・まりか)
1984年生まれ、東京都出身。女優。2000年デビュー。主な出演作に、ドラマ『ホリデイラブ』、『妖怪シェアハウス』など。2021年、『向こうの果て』『雨に叫べば』『東京、愛だの、恋だの』『それでも愛を誓いますか?』で主演を務める。また、声優やナレーションなど幅広く活動している。
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jacket ¥154,000 / ESTNATION (ESTNATION 0120-503-971)、blouse ¥55,000 / ESTNATION (ESTNATION 0120-503-971)、skirt ¥140,800 / Tory Burch (Tory Burch Japan 0120-705-710)、pierce ¥11,000 / e.m. (e.m. PRESS ROOM 03-6712-6798)、boots / Personal belongings
What is true empathy? — starring Takayuki Yamada + Marika Matsumoto
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Information
山田孝之さん、松本まりかさん出演映画『MIRRORLIAR FILMS Season2』
2022年2月18日(金)より順次公開
監督:Azumi Hasegawa、阿部進之介、紀里谷和明、駒谷揚、志尊淳、柴咲コウ、柴田有麿、三島有紀子、山田佳奈
出演:板谷由夏、片岡礼子、駒谷由香里、佐藤浩市、サンディー海、柴咲コウ、しゅはまはるみ、Joyce Keokham、細田善彦、永野宗典、中本賢、藤谷理子、松本まりか、矢部俐帆、山崎樹範、山田孝之
©2021 MIRRORLIAR FILMS PROJECT
- Photography : Kenta Karima
- Styling for Takayuki Yamada : Kurumi
- Styling for Marika Matsumoto : Chie Inui
- Hair&Make-up for Takayuki Yamada : Mitsuhiro Minamitsuji
- Hair&Make-up for Marika Matsumoto : Miwa Itagaki
- Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)