デザインと仕立ての新たな境地へ|NAMACHEKOが初のテーラリングサロンを開催
完成したと思ったとしても疑い続けて見直していく
—<NAMACHEKO>はこれまでに多くのテーラードアイテムを発表してきましたが、ディランさんにとってのテーラリングとはどのような存在なのでしょうか。
ディラン:私のテーラリングのルーツは子供の頃に見ていた父親の姿にあります。ゴールドスミスだった父親は、どんなときでもテーラーが仕立てたダブルブレストのスーツをきっちりと着こなしていました。
—どんなときでもですか?
ディラン:そうです。家族で行ったハイキングのときでも。


—ファッションデザイナーという仕事を目指したのは、そのような幼い頃の記憶が影響しているのでしょうか。
ディラン:私が学生時代に専攻していたのは土木工学でした。道路や橋、建物を作る際にその国や土地の自然環境、気候、災害の頻度などを考慮して設計していくのですが、土木工学で培った素材の特性や構造への探究心は服づくりにおける思考の基盤となっています。テーラードジャケットにはキャンバスや馬の毛で作られた芯地が使われていますが、それぞれに特別な意味や役割があります。土木工学と服づくりのアプローチは似通っている部分が大いにあり、テーラリングに興味を持つようになったのは自然な流れでした。もちろん父親の影響も大きかったと思います。
—<NAMACHEKO>らしいテーラリングスタイルというのはどのようにして生み出されているのでしょうか。
ディラン:仕立てのいいスーツを求めるなら、サヴィル・ロウやイタリアのサルトリアという選択肢があります。だからこそ<NAMACHEKO>が手がけるテーラリングには、クラシックな仕立ての美しさに加え、現代的な視点を反映させたいと考えています。例えば、カラーやラペルのプロポーションはそれを決定づける特に重要な要素の一つで、フィッティングを繰り返しながら、毎シーズン、数ミリ単位で精度を高めています。
—変化させ続けることは老舗の仕立て屋にはあまりない視点かもしれないですね。
ディラン:一度完成したデザインも常に疑いを持って見直すことで、より良いものへと磨き続ける努力をしています。特に今回は、ビスポークジャケットと同様の仕立てを私たちのデザインと掛け合わせることで、<NAMACHEKO>が思い描くテーラリングの形をより純度を高く伝えていけたらと考えています。
河上:ヘリテージなもののかっこよさはもちろん理解しています。このお店に古着が並んでいるように、時代の変化に合わせてそれらを再提案するおもしろさもある。ただ、過去の正解を素直にリプロダクションするのは僕らの仕事ではないと感じましました。「MANHOLE」でも過去にオリジナルジャケットを手がけたことがあるのですが、自分たちがやれることはその時に理想とする「過去に作られたサンプル」をベースに各寸法を調整、あとは日本の優秀な工場に委ねるといった再編集的なモノづくりです。ですがディランはデザイナーなのでクラシックでありながらモダン、見たことがあるようでも新鮮な一着を生み出せるのが魅力です。そして、ディランはそれができる数少ないデザイナーだと思っています。

—テーラリングに詳しくなくても<NAMACHEKO>のジャケットのフォルムやシルエットは独特に感じるような気がします。
ディラン:例えばこのダブルブレストのジャケットでいうと、絞りの強くきいたウエストのシェイプは<DIOR(ディオール)>の「バージャケット」がその起源で、ボリュームのあるチェストはサヴィル・ロウの名門<Anderson & Sheppard(アンダーソン&シェパード)>から着想を得ています。ウエストの絞りと胸まわりのボリュームという、対照的な要素をひとつのシルエットに落とし込む。そこに現代のテーラリングの可能性があると考えています。
—現代のテーラリングの可能性があるというのはどういう捉え方でしょうか。
ディラン:私はその時代の空気や社会性を映し出している服に惹かれます。今で言うと、SNS上で過去と現在が無秩序に交錯するように、服もまた、時には統一感のないように思える要素が共存していてもいいと思います。一見すると相反するウエストの絞りとチェストのボリュームは、そうした現代のムードをテーラリングジャケットのシルエットに落とし込んだものです。

サロンを開催するなら対話が自然と生まれる場所で
—今回のメイド・トゥ・メジャーテーラリングサロンはブランドとして初の試みですが、開催を決めたのはどのような理由からでしょうか。
ディラン:ファッションの未来というものを考えたときに思い浮かんだのがメイド・トゥ・メジャーでした。「その人のためだけに作られる服」というものにまだ見ぬファッションの可能性を感じるんです。メイド・トゥ・メジャーといえばスーツやジャケットのイメージが強いかもしれませんが、例えばそれがレザージャケットやシューズであっても良いと思います。

—開催場所として「MANHOLE」を選んだことにも理由はありますか。
ディラン:テーラリングサロンと聞くと格式が高い印象があるかもしれませんが、メイド・トゥ・メジャーのサービスを実現するにあたってお客さまとの対話が欠かせません。時にはパーソナルな質問もしますし、要望をより深く聞き込んでいくこともあります。だからこそテーラリングサロンはお互いが心を開けるようなアットホームな場所であるべきというのが私の考えです。
—アットホームな空気感というのを「MANHOLE」が叶えている?
ディラン:そうです。こちらのショップに足を踏み入れた瞬間にそれを感じましたし、河上さんの接客スタイルにも、お客さまが店内で過ごす様子にもアットホームな空気を感じました。「MANHOLE」であれば私が思い描くサロンを開催できると思いました。
河上:ありがとう。


—河上さんはメイド・トゥ・メジャーのサロンを開催したいというディランさんの想いをどのように受け止めたのでしょうか。
河上:デザイナーズブランドの既製服はシルエットでもデザインでも「これが最も美しい」とデザイナーが自信を持って提案するもの。だから、僕らはそれをお客さんに「これがデザイナーが美しいと思う形です。なので、それを自分なりにどう着るかを一緒に考えましょう」と提案する。しかし、今回のオーダーサロンではデザイナー自らが採寸してお客さんの体型や着るシーンに合わせた一着を作ってくれる。そこにおもしろさを感じました。
ディラン:普段のコレクションは自分が100%デザインしたものを発表していますが、今回はデザイナーというよりもアドバイスをする立場だと思っています。ある程度はお客さまに委ねて、自分が感じたことは伝えるようにして、一緒に作り上げていけたらおもしろいんじゃないかなって思っています。

—「おもしろそう」というのは大事ですよね。
河上:ディランはとても情熱的な方だと思います。服について話している姿はすごく楽しそうでもあります。今回のメイド・トゥ・メジャーの企画についても僕に「こんな楽しいことを思いついたんだよ」って感じで話してくれたので、それを叶えることができて良かったなと思います。ディランには「MANHOLE」で自由にやってくださいと伝えています。
—希少なヴィンテージファブリックが用意されているのもメイド・トゥ・メジャーならではですね。
ディラン:<NAMACHEKO>のコレクションのために手に入れたけれど使用しないまま眠っていた生地もありますし、もちろんクラシックなスーツやジャケットに適した生地も用意しています。<NAMACHEKO>らしい表情を求めたり、機能性を考慮したり、いろんな生地の選び方ができると思います。
—先ほど「未来」という言葉がありましたが、<NAMACHEKO>が見据えているブランドの未来を最後にお聞かせください。
ディラン:ファッションには6ヶ月単位のシーズンのサイクルがあって、ブランドをやっていると「次のコレクションはどうするか」と常に一年先の未来を描いていくようになります。遠い未来を見据えるというよりも、今作っているコレクションが過去のコレクションを超えていけるように、さらに次のコレクションは今のコレクションを超えるように日々取り組んでいくことがブランドの未来を作っていくと思います。

—目の前に迫る未来のコレクションに全力ということですね。
ディラン:コレクションに関しては常に変わり続けていく、更新し続けていくのが<NAMACHEKO>らしさだと思っています。ビジネス面においては信頼するチームのメンバーに任せているのでブランドの未来は明るいと思いますよ。
—河上さんはこれから<NAMACHEKO>と取り組んでみたいことはありますか。
河上:ディランと一緒に遊び続けたいです。ディランが考えて、楽しそうに作ったものを僕たちが受け取って、それをお客さんと一緒に遊んでいく。そういう関係性を続けていきたいですね。
イベント情報
MANHOLE × NAMACHEKO メイド・トゥ・メジャーテーラリングサロン
開催日時:2026年10月24日(土)15:00〜20:00/10月25日(日)12:00〜20:00
追加対応日時:2026年10月17日(土)12:00〜15:00
会場:MANHOLE
住所:〒107-0062 東京都港区南青山4-1-3 セントラル青山003号
参加方法:完全予約制
予約方法:希望日時、氏名、連絡先を記載のうえ、メールにて申し込み
予約・お問い合わせ:info@manhole-store.com
関連情報
・MANHOLE
ウェブサイト:https://manhole-store.com
Instagram:@manhole_store_
・NAMACHEKO
ウェブサイト:https://namacheko.com
Instagram:@namacheko
- Interview Photograph : Kaito Chiba
- Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLE)
- Edit : Yusuke Soejima(QUI)