着たい服だけを作る。それがルール。入江泰|JUVENILE HALL ROLLCALLデザイナー
大学卒業後、アパレルメーカーに販売員として入社。その後、アトリエスタッフとして、企画・生産を経験。退社後、2002年に自身のブランドJUVENILE HALL ROLLCALLを立ち上げる。
服を作り続けるということ
ブランド名のJUVENILE HALL ROLLCALLというのはL.A.のKid606というミュージシャンの曲名です。訳はよく分かんなかったんですが、呪文みたいでおもしろいなと思ってそれにしました。Kid606は2000年頃からやってて、初期はブリトニー・スピアーズの曲をそのままパクって音楽にしちゃうような野蛮な感じで。僕の洋服もいろんなパクリからできているので、所詮そういうものでしかないという意味が。
あと“JUVENILE HALL”は「少年院」、“ROLLCALL”は「点呼」なんですが、高校生のとき寮に入っていて毎朝点呼もあったし良いかなって、まさかこんなに続けることになるとは思わず(笑)。
いま、一生買わなくても困らないくらいの洋服をみんな持っていて、それなのに新しい服を更に作り続けることに多少の罪悪感を感じます。だから自分が納得して着たいと思う服だけを作ることにしています。例えばアウターが欲しいと思って革ジャンを1シーズンに3着買う人はあまりいない。ジュヴェナイルでは今年の革ジャンはこの型、コートはこの型、ジャケットはこの型、そんな決め撃ちでアイテムは厳選します。自分のクローゼットに欲しいもの。ワンサイズで僕しか着られない。まあ、ルーズなサイズが多いから大抵は大丈夫なんですけど。
だから基本自分が作った服しか着ないです。着ないと分かんないことがある。ポケットはもうちょっと深い方がよかったなとか。やっぱり着て検証するのも大事かな……といいつつ、デザインや気分を優先しちゃいます。
コレクションの作り方は、文章から広がっていくこともあります。たとえば今季2019-20AWは“ LITTLE CREATURES ”っていう言葉から入っています。SNSのアイコンを食べているキャラクター、これは悪意ある自分の姿だと。この半年AmazonプライムとYouTube漬けで、グラフィックもこの辺に貼ってあるフライヤーとかノートを向かいのコンビニでコピー/スキャンして使っていて、家からほとんど外出せず画面と向かい合って日常を過ごす歪んだ心境を表しています。
あとはあんまり考えず、好きなものを深掘りしたり、手を動かしたりすることでだんだん絞れていくことも。たとえば前回の2019SSは香港/カンフー映画がテーマ、それは単純に香港が好きってことなんですけど。グラフィックを作ってくれる KOUくん(Kousuke Shimuzu)とやりとりするメールや会話の中に客観的な気づきがあって、だんだん作りたいものが明確になっていくことも多いです。
ジュヴェナイルらしさっていうとあんまり分からないですが、ワンサイズしかないことや、着てくれる人の大半が男性なのにルックで女の子が着ているということでしょうか。単に女の子のほうが好きというのもありますが(笑)、女の子だと撮影の自由度が高く、男性だと気づかない新しい発見やスタイリングができて楽しい。
撮影はここ3年ぐらいほぼ同じメンバーでやっています。撮影が山田理喜くんで、スタイリングが市野沢祐大くん。とても信頼しているので、お任せです。みんなの仕事を脇で見れるのが楽しいし、沢山のアイデアを持ってます。
チープでもかっこいい服がある
過去のコレクションで思い入れがあるものを挙げるとすれば、ヨシロくん(YOSHIROTTEN)、スタイリストTEPPEIくん、撮影オノツトムくんとの” Do you realize everyone you know will someday die? “ 2011-12AW。埼玉県のムーミンバレーパークってめっちゃかわいいところで撮ったんですけど、仕上がりがおもいっきりおどろおどろしくなってるっていう(笑)。
あとは……すぐ忘れちゃうんだよね。” Hello It’s Me “ 2010-11AW 骨のニット。アイテムとしてハードですごく好きです。山原くん(TABOO)が作ったリアルな骨のパーツを、ハンドメイドニットに取り付けて作成しました。
過去の服を見るのはちょっと恥ずかしいですが、生地、縫製、パターンがしっかりしているから良い服だとは限らない。安い生地でも縫製がいい加減でも着心地が悪くてもかっこいい服は存在する。生地、縫製、パターンにも気を使っていますが、そこが何よりも重要ということではなくて、なんだかわかんないけど直感でいい!着たい!と思ってもらいたい。
このZINEはカトレヤ(CATTLEYA TOKYO)の塩内くんが作ってくれました。レコードジャケットのようなケースに1枚ずつハンドペイント、タブロイドとビジュアルブック、あとコレクションで使ったグラフィックをプリントしたステッカーのシートが入っています。代官山の蔦屋書店とかで販売しましたが、価格を高くしたくなかったので大赤字。でも形に出来たことがうれしかったです。
正直、世の中に必要なものを作っている訳ではないので、袖を通してくれた人の気分が上がったり、モテたり(笑)、或いは関わってくれた人の記憶に少しでも楽しさがあれば、洋服が残らなくてもいいと思っています。
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「昨日の自分を更新するための手段」
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- Text : Yusuke Takayama
- Photography : Kei Matsuura