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THOM BROWNE 2025年秋冬コレクション、「鳥の幻想」 をテーマに自由とクラシックを再定義

Mar 7, 2025
2025年2月11日、ニューヨークにて発表された<THOM BROWNE>の2025年秋冬コレクションは「鳥の幻想」をテーマに、ブランドのシグネチャーであるテーラード技術を駆使しながら、詩的かつシュルレアリスティックな世界観を展開した。鳥というモチーフを通じて「自由と変容」が描かれた今季のコレクション。そこにシュルレアリスムの要素を落とし込み、現実と幻想の境界を曖昧にすることで固定観念からの解放を試みている。

THOM BROWNE 2025年秋冬コレクション、「鳥の幻想」 をテーマに自由とクラシックを再定義

Mar 7, 2025 - FASHION
2025年2月11日、ニューヨークにて発表された<THOM BROWNE>の2025年秋冬コレクションは「鳥の幻想」をテーマに、ブランドのシグネチャーであるテーラード技術を駆使しながら、詩的かつシュルレアリスティックな世界観を展開した。鳥というモチーフを通じて「自由と変容」が描かれた今季のコレクション。そこにシュルレアリスムの要素を落とし込み、現実と幻想の境界を曖昧にすることで固定観念からの解放を試みている。

「カゴの中の鳥」と「自由に飛び回る鳥」

コレクションは、飛び回る鳥たちに囲まれたカゴの中の鳥が自由を夢見るという幻想的なストーリーから始まる。まず登場したのは、鳥類学者を模した二人の人物。彼らはブランドの象徴的なユニフォームをまとい、クラシックなドレスコードに従う存在として描かれた。その端正な装いは、ブランドのDNAである「規律のあるテーラリング」を象徴するものであり、カゴの中の鳥のように静かに世界を観察し続ける役割を担う。

それに対してランウェイに登場したモデルたちは自由に飛び回る鳥を表現したかのように、装飾やシルエットが解放的なルックをまとっていた。クラシックなフォーマットを維持しながらも、そこに遊び心や新たな視点を加えることで生まれる「新しい自由」の精神性が、この対比を通じて鮮明に描かれていた。

動きのあるシルエットと「変容」の表現

今季のコレクションで目に留まったのは、鳥の羽ばたきや飛翔を想起させるデザイン。シルエットや構造が変化し、従来の固定概念から解き放たれることで、「制約の中の自由」が具現化されている。プリーツスカートはねじれや流れを持たせることで、着用者が歩くたびに軽やかに舞い、鳥が空を翔けるかのような印象を与えた。逆ボックスプリーツが仕掛けられたスタンドカラードレスは、動くたびにプリーツが開き、レップストライプのシルクが見える構造となっており、「動くことで初めて見えてくる自由」を体現している。

また、ヒタキの胸を模した繭のようなコートは、鳥が羽化する瞬間を思わせる。これは、カゴの中にいた鳥が変容し、やがて空へと羽ばたく象徴的なアイテムとなっていた。これらのデザインは、「自由とは何か?」という問いかけに対する<THOM BROWNE>なりの解釈であり、「枠の中にいながらもいかに羽ばたけるか」というテーマが巧みに表現されている。

シュルレアリスムとの関係:「既存の枠を超える自由」

「無意識の世界を解放する」ことを目的としたシュルレアリスムは、固定観念や社会のルールからの脱却を目指す芸術運動であるが、それは「自由の視覚的表現」として機能している。

今季のコレクションに登場したテーラードスーツは、誇張されたショルダーや裾の変形が施され、伝統的なスーツというフォーマットの中で自由を追求する姿勢が表れていた。スワロフスキークリスタルを用いた「だまし絵」のようなドレスも、視覚的なトリックを通じて現実のルールを曖昧にする。

さらに、シュルレアリスムの共同制作技法「優美な屍骸(Exquisite Corpse)」が応用され、ランダムな要素を組み合わせた「想像上の鳥」の刺繍が施されたルックも登場。クラシックなテーラリングに幻想的な要素を溶け込ませ、自由な発想のもとに再構築する試みがなされている。折り紙のようなオフショルダードレスや、未完成なデザインが施されたショルダーのパッチなどは、シュルレアリスムの「現実のルールを崩すことで新たな意味を生み出す」という手法と同じアプローチを取っている。

<THOM BROWNE>の「自由」の定義とは

今季のコレクションが示唆するのは、「自由とは単なるカオスではなく、緻密に計算された秩序の中でこそ成立するもの」ということ。規律と遊び心が共存するテーラリング、生地に施された幻想的な刺繍、視覚的なトリックが生み出した曖昧さ。

<THOM BROWNE>は、「クラシックなルールを守りながら、その中でいかに自由に羽ばたくか」をデザイン哲学としている。今回のコレクションでは鳥類学者(カゴの鳥=伝統の観察者)と、ランウェイのモデル(自由に飛び回る鳥)の対比を通じて、「クラシックの中の自由」を描いた。そして、シュルレアリスム的な要素を取り入れることで、「現実のルールそのものを問い直し、ファッションの枠を超えた新たな自由を探る」という<THOM BROWNE>のビジョンを体現した。

自由とは、ただ解き放たれることではなく、枠の中で自分自身をいかに羽ばたかせるか。それこそが、今季の<THOM BROWNE>が提示した「自由」の定義であり、クラシックを再構築する彼のデザインアプローチの核心だった。

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  • Text & Edit : Yusuke Soejima(QUI )

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