QUI編集部が未知なる才能を追い求めて|go en デザイナー 河野薫
韓国・釜山出身。10代後半に日本のカルチャーに惹かれ、服飾学校への留学を機に来日。卒業後はアパレル企業でデザイナーとして10年以上のキャリアを積む。より自由な発想で、一点物のようなものづくりを追求したいという思いからジュエリーの制作を始め、<go en(ゴーエン)>を立ち上げる。現在は、ジュエリーを「身につけるオブジェ」と捉え、制作だけでなく展示空間や什器まで含めた世界観づくりを行っている。
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@goen_tokyo
一点物のようなモノづくりを求めてジュエリーの世界へ
—河野さんは韓国出身で来日は10代後半だったとか。日本のカルチャーに惹かれたのが、その理由だったそうですね。
河野:私の叔父が日本人だったので、幼い頃に何度か日本を訪れていたこともあって日本には親近感がありました。幼い頃の日本の思い出ははっきりと覚えていないんですけど、90年代になってJ-POPにすごく興味を持ったんです。
—J-POPはどうやって知ったんですか。
河野:私は釜山に住んでいたので長崎県のテレビ放送が映ることがありました。そこで見たり、聞いたりしたアイドルやバンドの音楽が私にはすごくキラキラしたものに思えました。ですが、当時はネットもないのでJ-POPについて知りたくても情報を得ることができませんでした。それで日本に行こうと思い服飾の学校に留学したんです。
—服飾の学校を選んだということはファッションデザイナーを目指して来日したのでしょうか。
河野:卒業後は結果的にアパレル企業でデザイナーとして働きましたが、ファッションに関わる仕事をしたいと明確な目標を持っていたわけではありませんでした。日本に行くと決めたのも今思えば若さゆえの勢いみたいなものですね。
—アパレルデザイナーとしては何年ぐらい働いたのでしょうか。
河野:10年以上です。
—それだけ洋服のキャリアを積み上げながら、2020年にジュエリーブランドの<go en>を立ち上げています。ジュエリーデザイナーへと転身したのは何か理由はあるのでしょうか。
河野:デザイナーと言っても会社員だったので、やれることに限界がありました。服はデザインが違っても基本の形は同じですよね。トップスなら袖がある、パンツなら足が通せないといけない、など。それでもっと自由な発想で一点物のようなモノづくりをしたいと思いジュエリーの勉強を始めたんです。
—<go en>というブランド名にはどういう意味があるのでしょうか。
河野:本名がgoeun(ゴーウン)で、自分の名前をブランド名にするほうがアイデンティティにもつながると思い、綴りを少し変えて<go en>にしました。日本の方は「ご縁」を連想するようですが、そういう意味を持たせているわけではないんです。
—<go en>のジュエリーは個性的なものが多いですが、デザインのインスピレーションは何から得ることが多いですか。
河野:完全に「降りてくる」のを待っています。映画でもアートでもジュエリーデザインの参考にしようとすると、それらの作品の世界観に引っ張られてしまいそうな気がするんです。なので目には見えない思想のようなものから着想を得ることが多いです。そのために神社に足を運んだり。
—旅に出ることで新作の構想が生まれるというクリエイターもいました。
河野:私は旅とは思っていませんが足を運ぶ場所は必ず遠方です。今年訪れた神社も能登半島でした。どれだけ時間がかかっても電車を乗り継いで目的地を目指すのですが、その道中にデザイン案が頭の中に降臨するんです。
—神社で目にした建造物などがデザインにつながったりするのでしょうか。
河野:それも違うんです。神社のような場所を訪れると人はいろいろなことを考えますよね。その思い浮かんだ点と点が結びついてデザインが生まれていく感じです。そういうのはたまたまデザインにつながったと思われるかもしれませんが、偶然のような出来事を偶然で終わらせないというのは大事だと思っています。
—偶然ではなく必然だと。
河野:ピラミッドをモチーフにしたジュエリーがあるんですけど、それは友達から薦められた『落下の王国』という映画がすごく心に残ったことがきっかけです。日常でも三角形がやたらと目に飛び込んでくるようになりました。例えばワインのラベルがピラミッドのようなデザインだったり。モチーフを直接的にデザインに落とし込むことは私としては珍しいのですが、三角形のジュエリーも偶然の連続に導かれたような感じで誕生しました。
新年最初の満月「ウルフムーン」をイメージした、三角形の小さなピルボックス。新たな生命のサイクルが始まる夜空を閉じ込めたような佇まいで、身につける人のお守りのような存在に。長さを調整できる革紐が付属し、ネックレス感覚で身につけたり、スタイリングに合わせて自由なアレンジを楽しめる。
古代のピラミッドから着想を得た、小さなフープピアス。幾重にも連なるピラミッドの階層を、金属を一段ずつ重ねた立体的なフォルムで表現。壮大な建築物の造形を耳元に収まるサイズへと落とし込み、ミニマルな佇まいでさりげない存在感がスタイリングに映えるひと品。
—ジュエリーデザインの最終形というのは最初からある程度は見えているものですか。
河野:作っていくうちに、手を動かしていくうちに、決まっていく感じです。最初からデザインのゴールが見えていることはないですね。これまでデザイン画というのもきちんと起こしたことがないです。
ジュエリーを展示する空間で最も映えるデザインを追求
—コレクションのテーマやコンセプトなどはどうやって決めているのでしょうか。
河野:シーズンテーマというのを設定するようになったのは2シーズン前ぐらいからなんです。それもすごく抽象的だったので、伝わりやすいテーマではなかったと思います。
—2シーズン前からというのは何かきっかけがあったのでしょうか。
河野:大阪に「Essential Store」という有名なショップがありますよね。2年前にそこで内装などを手がけている人と知り合って、<go en>のポップアップの会場作りを手伝ってもらったんです。それまではポップアップといってもジュエリーを並べているだけでしたが、「会場を作り込むとジュエリーの存在感がこんなにも変わるのか」と驚きと発見がありました。
—ブランドの世界観を作ることへの意識が高まったんですね。
河野:その頃から私は会場全体が醸し出す世界観を最優先に考えるようになりました。普通はコレクションを作って、そのジュエリーが映えるディスプレイなどを考えていくのかもしれませんが、私はそうではなくて会場作り、空間作りを先に考えるんです。
—ジュエリーがまだ完成していないのに会場構成を先に考えるんですか?
河野:そうです。コレクションテーマにふさわしい展示の空間を考えて、その会場で映えるジュエリーはどういうデザインなのかという順番です。2027年の春夏コレクションの展示会では自然の光や砂、蜃気楼というものを会場作りのキーワードにして、そこに並べると美しく見えるジュエリーデザインを追求しました。
—自分が作りたくなったジュエリーが会場の雰囲気には合わない、でも素敵なデザインを思いついたから発表したいというズレのようなことは起きないのでしょうか。
河野:展示の空間に合わないと思った時点で自分の中で落としていくのでズレていくことは全くないですね。会場の世界観という着地点を先に固めていくことで、むしろジュエリーを作りやすくなりました。Essential Storeでの出会いも偶然ではなく必然だったんだろうなって思います。
—<go en>のジュエリーにはパワーストーンと呼ばれるような石が使われることが多いですよね。
河野:これまでも使っていましたが2027年春夏コレクションは特に多いです。花に花言葉があるように、石にも石言葉というものがあります。その石言葉に惹かれて選んだジュエリーは、その人にとってパーソナルな存在になるんじゃないかなって思うんです。<go en>のジュエリーをお守りのように身につけてほしいです。
—ジュエリーに使う石はどのようにして選ぶことが多いですか。
河野:それも明確な基準などがあるわけではなく、その石を見てピンときたら選びます。不思議なのが選んだ理由が「気になったから」だけでも、後になって石言葉を調べてみると、その時の自分の心境にフィットしていることもあるんです。それも出会いですよね。

ブルーカルセドニーは、穏やかさや調和、心の安定、コミュニケーションを象徴するといわれる石。河野さんは、いつも世話になっている山梨の石の卸屋から購入したという。「ボリュームのある迫力とは相反する、優しさに惹かれました。その石が一番輝きそうなデザインに落とし込んでいます」と、石との出会いとデザインに込めた思いを語る。
—先ほどお守りのように身につけてほしいといっていましたが、お客さんからは<go en>のジュエリーに対してどんな反応が多いですか。
河野:それが「石言葉の通りに自分を取り巻く状況が好転した」って言われることもあるんです。私自身も見えないものの力を信じるタイプですが、ブランドとして「<go en>のジュエリーはご利益があります」というようなことは謳っていません(笑)。いいことがあったのはジュエリーのおかげかなって、そういうちょっとした思い込みもジュエリーを楽しむうえで大切だと思います。
身につけるオブジェとして世界中の人に楽しんでほしい
—<go en>のジュエリーはプリミティブな雰囲気がありますが、ブランドを始めたときからそのような世界観なのでしょうか。
河野:「身につけるオブジェでありたい」という考えはずっと変わっていないです。ジュエリーというよりもオブジェとして捉えているので、キラキラとしたデザインは作ったことはないですね。
—2027年の春夏コレクションでは、1920年代のコンパクトケースを参考にしたというミニバッグが印象的でした。その時代に着目した理由を教えてください。
河野:自分としてはケースのようなものを作ってみたいという思いが先にあったんです。それで少し調べてみると1920年代に女性がダンスホールに行く際にDance Bagというミニバッグを持ち歩いていたことを知りました。自分が作ってみたいと思っているものと似たものが過去に存在していたというのは新たな発見だったんので、実際に製作しました。
—タバコを挟んでいるジュエリーもありましたよね。
河野:昔の時代のジュエリーや装飾品で気になったものは記憶に留めておくのですが、あれも100年ぐらい前のイギリスで存在していたみたいです。それを自分なりに現代的に表現しました。「どうやって使うものですか」って聞かれるのですが、私としては実用性のあるものを作ろうとしていないというか。
—メモ帳が付いたネックレスもありましたが、あれもメモとして使ってもらいたいわけではない?
河野:使ってもいいですし、使わなくてもいいです。「メモとして使い切ったら自分でリフィルを交換できますか」という声もありましたが、私としてはそもそも使い切ることなんて全く想定していないです(笑)。
—2027年春夏コレクションの展示会の什器はジュエリーと同じぐらい記憶に残りました。
河野:2年前ぐらいから頻繁に山形県に足を運ぶようになっているんです。その理由というのが山形ってすごくスピリチュアルな場所のように感じるからです。人も景色もスポットも。私自身も訪れると新しいことを思いついたり、そのときに抱えていた悩みを解決してくれる人に出会ったり。その山形で知り合った木材を扱う職人さんが端材を使って什器を作ってくれました。その職人さんとの取り組みは前シーズンから続いていて、今シーズンもすごく好評でした。

—什器に至るまで細部にこだわり、空間全体を考えていることも、<go en>らしさや強みにつながっているのでしょうね。
河野:自分では<go en>らしさというのはあまり意識したことはないんです。コレクションによって大人の女性に刺さったり、20代の男性が選んでくれたり。自分でもターゲットというのは決めていないのですが、世代も性別も問わずに楽しんでもらえるのが<go en>の強みなのかもしれないです。
—<go en>は国内でどのくらいの店舗で取り扱われているのでしょうか。
河野:卸はやっていないのでメインはオンラインストアで、リアル店舗では不定期なポップアップイベントだけです。そのポップアップも<go en>が主導で開催するものだけで、会場を提供してくれるショップなどに任せることはありません。<go en>の魅力が伝わる会場や空間、什器は最初から最後まで自分でこだわりたいんです。
—これからの<go en>のビジョンをどのように描いていますか。
河野:もともとが趣味のような感じでジュエリー作りを始めたので、これまでは本当に自由にやってきました。それでも会場や空間演出による世界観作りなど、ブランドとしてきちんとしなければいけないことは少しずつ見えてきました。QUI編集部さんが足を運んでくれた展示会も「2027年春夏」とシーズンコレクションを明確に打ち出したのは初めてだったんです。
—そうだったんですね。
河野:これまでは「1作目」、「2作目」のような意味で「#01」、「#02」と表記していました。コレクションの発表も不定期だったのですが、ブランドとしてファッションのシーズンサイクルをきちんと意識していこうと思うようになったんです。
#01 Origami ring gold & silver
—<go en>の本格的なスタートは今シーズンからのようですね。
河野:本当にそう言っても過言ではないです。ブランドとしてきちんとしなければという気持ちが生まれたのも、自分の中で「<go en>をできる限り長く続けていきたい」という想いが強くなってきたからです。ジュエリーというよりもオブジェという感覚なので、いずれは海外の方にも「一点物の作品」として選んでもらえるようなブランドになりたいです。
go en
2020年にデザイナー・河野氏が立ち上げたジュエリーブランド<go en>。10年以上にわたるアパレルデザイナーとしての経験を背景に、洋服とは異なる、より自由で一点物のようなものづくりを追求し、ジュエリーの制作をスタートした。完成形をあらかじめ定めるのではなく、実際に手を動かしながら形を決めていく制作スタイルが特徴。ジュエリーを単なる装飾品ではなく「身につけるオブジェ」と捉え、個性的かつプリミティブなフォルムを生み出している。
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@goen_toky
- Photograph : Reina Tokonami
- Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLE)
- Edit : Miwa Sato(QUI)










