問われるファッションの真価、変わらない手仕事の価値|Rakuten Fashion Week TOKYO 2022AW
当然、ファッション業界にとっても転機が訪れている。
「ファッションの価値とは何か」
大量生産、大量消費に対応するアパレルとは違う、"ファッション"というものの価値は何なのか。
また、ファッションデザイナーはこの時代に何を考え、何を伝えたいのだろう。
この度、Rakuten fashion Week TOKYOで発表された2022秋冬コレクションでは、様々な変化が感じられる中、”手仕事=クチュール”のコレクションを発表するブランドが目に留まった。これは、ブランドのクラフツマンシップを感じられるだけなく、 手仕事の不変的な価値をも証明していた。
大量生産、大量消費と対比したモノづくりは、この時代だからこその原点回帰とも捉えられる。
時代を慮り、一点ずつ想いを込めて作られるコレクションからは、問われるファッションの真価において、一筋の光が差し込んでいるように感じた。
本記事では、手仕事表現を行う3ブランドのコレクションを紹介する。
tanakadaisuke(タナカダイスケ)
2017年から刺繍を中心とした作品を個人で発表。ファッション関係者の目に止まり、雑誌やCMなどの衣装として起用される。2020年にSNSで発表したチェリーの刺繍が施したマスクが大きな反響を呼んだ。今期、コレクションショーに初参加。
<tanakadaisuke>のコレクションはオートクチュールのように完成度が高く、まるで魔法にかかったような煌びやかな世界へ連れて行ってくれる。
フィナーレを飾った橋本愛の手にはダイスケ氏がカスタマイズしたステッキ。キューティハニーやセーラームーンなど少女アニメを見たことがある人はお分かりであろう。
また、ドレスを着たメンズモデルも登場。
コレクションでは男性の体でも女性的な色気を創り上げており、現代のジェンダーの感覚をうまくキャッチしている。
ショー後のインタビューで、ダイスケ氏は「浪漫」という言葉を使った。
忘れかけていたファッションへの魅力を思い出させてくれるコレクションであった。
tanakadaisuke 2022AW COLLECTION
blackmeans (ブラックミーンズ)
2008年よりブランドをスタート。日本製の革を主とし「メイドイジャパン」を世界へ打ち出す<blackmeans>は、パンクカルチャーを通じて、コレクションを展開。2022年文化庁や国立新美術館などの共催により「日本博」の一環として単独ショーを開催。
©️JFWO
<blackmeans>を象徴する言葉は「japanese・hardcore・punk」。西洋の社会制度からの反骨として生まれたパンクカルチャー。
ライダースジャケットには鋲をふんだんにあしらったアイテムからもルーツが読み取れるものの、和の要素を感じる。
それは日本の歴史である「襤褸(ぼろ)」を取り入れているからだと考える。江戸時代は布が高級品だったことから破れると古布のツギハギを繰り返し、1着を長く着る農民が多かった。
日本人の器用な手仕事や、細かい刺し子の柄などで仕上げられた1着は、狂気的とも感じ取れるため「ぼろ」はジャパニーズパンクであると言っても過言ではない。
デザイナー小松氏は過去のインタビューで「日本の皮革産業は江戸時代以前より身分の低い人の仕事だった」ことに触れており、見た目の厳ついかっこよさだけでなく、1着1着職人の手仕事で加工している過程からも、モダンであり、日本の貧困から生まれた知恵と技術は、現在世界へ発信できるほどの力がある。
©️JFWO
blackmeans 2022AW COLLECTION RUNWAY
pillings (ピリングス)
デザイナー村上氏は2014年から<RYOTAMURAKAMI(リョウタムラカミ)>としてブランドを立ち上げ、実の母親が創り出す、手作りの温かみや可笑しさなどをコレクションに落とし込む。規模を拡大し、2020年に様々な年齢層のニット職人が集う「Atelier K’sK(アトリエケーズケー)」との新たな取り組みを始め、ブランド名を<pillings>に改名。3シーズン目に東京コレクションブランドとして初参加。
ブランド名が変わってもデザイナー村上氏の主軸は手作りの温かみである。昭和生まれなら幼い頃に母親の手編みのセーターを作ってもらった経験のある人も少なくないはず。
若者が好むトレンド的なかっこよさや可愛さではないかもしれないが、愛着が湧いて捨てられない。そんな日本の文化である「昭和のおかん」像がノスタルジーを感じさせる。2021秋冬のドキュメントムービーではアトリエK’sKの様子が映っており、いわゆる「おかん」達の手編みからコレクションができていることが伺える。2022秋冬では手作りの懐かしさ、可愛さを残しつつ、金継ぎの表現をニットの中に大量のビーズで繋げる手法や、透明のアクリル板を散りばめるなど新しい表現を取り入れている。
一方で2022年に「おかん」という言葉はネットで物議を醸した。都築響一氏が昭和のお母さんが作ったユニークな手芸を全国から集めた「おかんアート展」。フェミニストからは”女性は家にいることが前提であり家父長制を浮き彫りにしている”、”『おかん』という言葉で一括りにしてしまうと個人の作家性を損ねる”といった批判だ。
筆者も主婦のイメージを『おかん』とまとめているのは時代と合わない表現であることに同意する。しかし、例えば着物に作家名が特定されないことと同じように「おかん」の手芸は、日本を代表するクリエイションであり、もはや職人芸であると考えていい。「おかん」が創り出すノスタルジーを含んだニットを東京のファッションとして昇華し、コレクションショーから世界に発信し続けてほしいと<pillings>に願う。
今回の東京コレクションウィークは全54ブランド中26ブランドがフィジカルでショーを開催。パンデミックから2年経ち、緊急事態宣言も解除され街に人が集まり始めた。会場にはバイヤーやジャーナリストだけでなく、ブランドを愛するファンの姿も見受けられ賑わいが戻って来た。
筆者がライターとしてファッションショーに行き始めた10年前、プロアマ関係なく服を愛する者が一同に集まり、隣の人と肩を合わせるくらい窮屈になりながらもブランドの新作を1秒も逃さぬよう真剣に見ていた。そんな会場の熱気を味わった私にとって今回の賑わいはグッとくるものがあった。
- Text : Keita Tokunaga
- Edit : Yukako Musha(QUI)