What connects us? — starring Ryota Bando
愛とか、自由とか、幸せとか。
俳優・坂東龍汰と考える。
Interview with Ryota Bando
坂東龍汰インタビュー
— 映画『フタリノセカイ』では、トランスジェンダーの真也という難しい役どころでしたが、演じる上で大切にしたところというか、どこに軸をおきましたか?
難役だなっていうのはお話をいただいた段階からわかっていたので、準備期間は大事にしました。まず、撮影期間が10日間とすごく短くて。その中で真也の10年間を演じるために、(片山友希さん演じる)ユイと出会う前に真也が自分の性の違和感に気づいたときの葛藤をちゃんと理解した状態で演じたいなっていうのは大きかったです。
まずトランスジェンダーやLGBTQに対する知識がなかったので、知識をつけることから始めました。飯塚(花笑)監督が実際にトランスジェンダーで、FTM(Female to Male)の当事者の方だったので、聞けることはできるだけ聞いて。あと体のコンプレックスについては頭で考えるより、自分で体感したことをちゃんと体現できたらなと思っていました。真也の気持ちをまったくわからない状態で演じると、それこそ当事者の方に失礼だから。
— 自分で体感するというのは?
トランスジェンダーの方が集まる新宿のバーに監督が連れて行ってくれて、そこで実際にみんなで話して仲良くなったり。準備段階の時は、女性の体で生まれた心が男性の真也を演じる上で、女性っぽさが必要なのかな?ってどこかで思ってたんですよ。でも、実際にFTMの方と会って話して思ったのは、「ああ、本当に男性だな」っていう。みなさん声も低いし、髭も生えてるし、男性にしか見えない。そして監督や一緒に飲んでた方には、僕の声はすごくそれに近いっていうことを言われて。
— それは地声が?
はい。中性でミックスボイス的な声質をしていて、「説得力ある」「いけるよー」「できる、できる」って。すごい不安だったんですけど、その時に「俺でもできるかもしれない」って思えました。
他には実際に生理用ナプキンを買いに行ってみたり。真也は心は男性ですから。やっぱり恥ずかしくて……うまく言葉にできない感情になりました。あと、ブラジャーをつけて生活してみるとか。
撮影前の1カ月は何も作品が入ってなかったので、心も頭も体も準備できました。でも、インしてからは結局わからないことだらけでしたけどね。難しいですよ、やっぱり。だから都度都度、監督やスタッフのみなさんに助けてもらって。そしてなにより相手役の片山さんがどっしり構えてくださっていたので、引っ張っていただきました。
でも撮影が進む中で、いま一瞬だったけど坂東龍汰って人間がいなくなってたっていう不思議な感覚になったこともあって、クランクアップの日はとてつもなく淋しい気持ちになりました。宝物のような10日間だったなぁって。
— 真也として10日間を生きたことで、いろんな気づきがあったんですね。
そうですね。真也とユイの人生の苦難や葛藤というつらい描写もありますけど、たぶん監督がこの作品を通して伝えたかったのは究極の愛。形にとらわれない、いろんな愛があっていいんだという、日本の明るい未来を願って書かれた本だと思うんです。
最近2年半ぶりに観たんですけど、自分たちの信念に基づいて愛し合う2人のすごく前向きな物語だなと。いつもできあがった作品を観ると、芝居が下手だなとか粗探しをしがちなんですけど、熟成というか寝かせたぶん、ひとつのアートフィルムとしてフラットに観られて。
そして2年半前に比べて、エンタメの中でLGBTQを扱うことが増えてきて、同時にコロナウイルスの影響もあって社会や政治に若い世代の興味が向き始めている。そんないま、この映画が世の中に解き放たれるのはすごく大切なことだと感じています。
— 同じ作品でも2年半前とは感じ方が変わるでしょうね。
100人いたら100通りの受け取り方があるとは思いますが、どこか共感してもらえる部分がちりばめられてる素晴らしい作品です。
— 劇中では真也とユイの運命の岐路となる大きな選択がいくつかありましたが、坂東さん自身はその決断に共感できましたか?
できる部分とできない部分がありましたけど、坂東龍汰が前に出る必要がないので、そこは。真也のことを考えて生きていた10日間だったので、そこに疑問を覚える役者の坂東龍汰っていう存在はかなり薄くなっていました。でも、僕は真也みたいに強くはないなって思いますけどね。
— 先程、監督は究極の愛を描きたかったというお話も出ましたが、そもそも愛ってなんですかね。
僕にとって愛ですか?
— はい。『ViVi』のインタビューでは“全人類愛してる系”なんて書かれてたんですけど。
まぁ、僕はそうですね、人が好きな性格なので。
— 人が好き。
この仕事を始める前は特にそうでしたね。本能で生きていたというか。出会う人出会う人の過去だったり、今何を考えてるかだったり、どういうものが楽しいかだったり、すごく気になる。留学に行った時も、めちゃくちゃいろんな人に声をかけて、いろんな人と話してました。高校1~2年生ぐらいで、Facebookの友達が600人ぐらい増えた記憶があります。
— 人を知りたいという思いが愛に繋がる?
何が人間を繋げているのか……What connects us? って考えたら、根本は愛なんじゃないかなって思ったりはしますよね。
— なるほど。では、恋愛と友愛って明確に差があるものだと思いますか? それとも、延長線上にあるような? 『フタリノセカイ』ではちょっと複雑なんですけど。
難しい質問ですね……今までは一緒っていう感覚が強かったんですけど。それこそ全人類愛してる系で、愛は平等だ、みたいな。でも恋愛を経験したりとかしてね、違うのかもってことは増えてきたかもしれないです。
もちろん友達も好きで、そこにも愛はあるんですけど、真也とユイみたいな関係の愛っていうのはまた違いますよね。反射的に助けたくなる、脊髄反射で動いちゃうみたいなのって、究極の愛なんじゃないかなって思ったり。でも、言葉にするとわざとらしくなってしまうので、感覚ですね。
— 坂東さんは人に対して“好き”から始めて、分かり合おうという感覚が強いですが、世の中には他人に悪意を向ける人も多く、特にWebとかでは目立ちがちじゃないですか。
誹謗中傷とかですよね。殺伐とした。
— どうやったら坂東さん的なマインドといいますか、価値観の違う人と認め合ったり、分かり合ったりできるのかなって。
いろんな人と出会ったり話したりしてきましたけど、個性じゃないですか? 愛に形なんかないっていうのと一緒で、人間にも形なんかなくていいし。自分の基準とか条件を「僕はこう思う」「だからあなたは違う」って押しつけるから、好き嫌いができたりする。
結局それを変えるのって、自分の基準を変えることしかないと思うんですよ。だから、自分が嫌いな人ができたり、嫌われたりした時は、「これは自分の基準と条件が当てはまらなかったせいでこうなってしまっている」と思えばいいかなっていう。
— おぉ、大人ですね。
あと、『フタリノセカイ』に出て思ったのは、やっぱり物事を色眼鏡で捉えないこと。自分のフィルターを1回はずして、この世界、この映画を観てくれると、すごくいろんなものが見えてくるんじゃないかなと思います。
— では、最後の質問です。映画の終盤にかけて、松永拓野さん演じる俊平の「幸せってなんだろうね」っていう台詞がありますよね。人それぞれの答えがあると思うんですが、今の坂東さんが追い求めていきたい幸せってなんですか?
3日間ぐらい考えていいですか?
— はい(笑)。
難しいなぁ。逆になんですか?
— 億万長者になりたいでもいいですし。
全然幸せじゃない。そんなの。
— アカデミー賞を獲りたいでもいいですし。
それは幸せですね。でも、そのためにやってるわけじゃないから。
……なんか自由になるために生きてる気がします。全然自由じゃないじゃないですか、人間って。これしちゃダメあれしちゃダメと、アイデンティティって歳を重ねるほど狭まっていく。「もう24でしょう?まだそんなことやるの」とか。だからこそ、自由を求めることが幸せなんじゃないかなって感じています。漠然としていますが。表現の自由に向けて自分はどうすればいいのかを考えることすら楽しいし、幸せだし。
— いいですね。お芝居してる時は楽しいですか?
憧れていた方々の中に入ってお芝居ができる瞬間は、やっぱりすごく幸福感があります。あとは映画の初号試写を観た時って、自分の芝居を見ながら吐きそうになるんですけど、毎回。でも、とてつもない幸せを感じる。あぁ、お芝居やってて良かったなぁって改めて思わされる瞬間ですね。
— 吐きそうってことは本気で取り組んでるってことなので、これから吐かなくなるとやばいですよね。
はい。吐かなくなったら役者としてもう終わりです。満足した時点で終了なんで、この職業。
Profile _ 坂東龍汰(ばんどう・りょうた)
1997 年生まれ、北海道出身。2017 年俳優デビュー。18 年 NHK スペシャルドラマ「花へんろ 特別編 春子の人形」で主演し注目を集める。主な出演作に、『十二人の死にたい子どもたち』(19/堤幸彦監督)、『閉鎖病棟―それぞれの朝―』(19/平山秀幸監督)、『犬鳴村』(20/清水崇監督)、『静かな雨』(20/中川龍太郎監督)、『# ハンド全力』(20/松居大悟監督)、『スパイの妻』(20/黒沢清監督)等。21 年、『ハニーレモンソーダ』(神徳幸治監督)、『犬部』(篠原哲雄監督)、TV ドラマ「この初恋はフィクションです」(TBS)、「真犯人フラグ」(TBS)に出演。公開待機作品に、『峠 最後のサムライ』(小泉堯史監督)がある。
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Information
坂東龍汰さん出演映画『フタリノセカイ』
2022年1月14日(金)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開
ただ一緒に幸せになりたいと願ったフタリの十年間。結婚もできない。子どももできない。愛し合う二人の愛は可能か?
- Photography : Kei Matsuura(QUI / STUDIO UNI)
- Hair&Make-up : Michie Asai
- Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)