空間を切り裂く黒のフォルム、リー・ベー「THE IN-BETWEEN」がペロタン東京で11/5(水)開催
本展で発表される新作彫刻シリーズ「Brushstrokes」は、本来絵画作品で際立っていた筆の軌跡を、ブロンズによって立体化したものだ。床に置かれ、壁を貫き、天井から吊り下げられた作品たちは、有機的なねじれや結び目を思わせるフォルムとなり、空間の中で大胆に構成されている。

Lee Bae, Brushstroke S2 (2025), bronze, 93 × 95 × 70 cm. Courtesy of the artist and Perrotin.

Lee Bae, Brushstroke S4 (2025), bronze, 147 × 30 × 25 cm. Courtesy of the artist and Perrotin.
ブロンズの重みに筆を走らせた身体のリズムが刻まれているかのように、静止した彫刻に筆致が浮かび上がる。見る角度によって印象を変え、椎骨や書棚、あるいは奇妙な骨格のようにも見える。その矛盾が、見る人の感覚を静かに揺さぶる。黒い彫刻は、儀式の痕跡のように空間に沈み込み、何も語らないが、確かな存在感を宿している。筆を動かすという行為、そのリズムと時間が、ブロンズの中に息づいている。
別の展示室では、リー自身が登場する映像作品が上映されている。舞台は韓国の田園地帯。稲作のための代掻き――田植え前に土をならす作業――の様子が映し出され、青いズボンと白いシャツを着たリーが、泥の中にひざまずき、やがて立ち上がって歩き出す。
足で泥をかき混ぜながら、水面を箒でゆっくりと掃いていくその動きは大きく、正確で、農作業のようでもあり、筆を走らせるような身ぶりと重なって見える。創作の原点に立ち返るような場面は、身体の運びと重なりながら、観る者の視線をそっと引き寄せていく。

Lee Bae, Brushstroke-T2 (2025), charcoal ink on paper, 260 × 170 × 5 cm. Courtesy of the artist and Perrotin.

Lee Bae, Brushstroke-T3 (2025), charcoal ink on paper, 260 × 170 × 5 cm. Courtesy of the artist and Perrotin.
展覧会タイトル「THE IN-BETWEEN」は、ペロタン・ニューヨークでの個展「Between」から継続する問いかけを発展させたものだ。境界や相反する概念を超えた、その「あいだ」にある状態──東洋と西洋、抽象と物質、身振りと記憶。それらが共鳴し合う余白が、この展示空間には広がっている。
リー・ベーは、文化、時間、記憶のあいだを生きる作家でもある。韓国の田舎で育ち、現在はパリのアトリエで制作を続ける。二つの土地を往復するようにして生まれる作品は、移ろう身体感覚と記憶の堆積を内包している。
東京という白い展示空間の中で、黒い彫刻は、その文脈のなかでさらに深い意味を帯びている。それは、始まりと変化、誕生と再生を静かに語りかける。見る人は、ただ見るのではなく、聞き、考え、歩き、呼吸することによって作品に触れていく。アートは、ひとつの世界から別の世界へと感覚をひらいていく入口になりうる──この展示は、そんな体験を思い出させてくれる。
極端な対立が繰り返され、戦争や暴力の映像が溢れるこの時代にあって、「THE IN-BETWEEN」はその“あいだ”にこそ可能性があることを語っている。
静けさと動きが交わるその場で、自らの感覚が何に触れるのか。その瞬間に、ただ身を委ねてみてほしい。
【プロフィール】

Portrait of Lee Bae (2022). Photo: Claire Dorn. Courtesy of the artist and Perrotin.
リー・ベー(LEE BAE)
1956年韓国・清州生まれ。1990年よりフランス・パリを拠点に活動。炭や墨を用いた絵画、立体、インスタレーションなどを通じて、物質性と身体性、東洋と西洋、記憶と現在を往還する表現を展開している。主な個展に「Lee Bae: UNION」(2023年、ロデズ・ピエール・スーラージュ美術館)、「Lee Bae: Issu du noir」(2019年、パリ・ギメ東洋美術館)などがある。
Instagram:@leebae.art
【開催情報】
展覧会名:THE IN-BETWEEN
会期:2025年11月5日(水)〜12月27日(土)
会場:ペロタン東京(東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル1F)
開館時間:11:00〜19:00
休館日:日曜・月曜・祝日
観覧料:無料
URL:https://www.perrotin.com/