アン・トゥルイット「Solo Exhibition」TARO NASUで開催、詩情を宿すミニマリズムの探求
アン・トゥルイット(1921–2004)は、アメリカ・メリーランド州に生まれ、1943年にブリンモア大学で心理学を学んだ。第二次世界大戦中には看護助手として働きながら詩や短編小説を執筆し、結婚後はワシントンDCに移り、翻訳や執筆を続けた。1949年からはInstitute of Contemporary Artで彫刻を学び、ここから本格的に美術の道へ進むことになる。初期には粘土やセメント、石膏や鉄など多様な素材を駆使した具象的な彫刻を手がけ、その試行錯誤の痕跡が今も残されている。1960年代以降は木を素材とした幾何学的な彫刻へと展開し、アド・ラインハートやバーネット・ニューマンとの交流から刺激を受けつつ、ミニマリズムの流れの中で独自の位置を確立した。
1960年代には「Black, White and Grey」(1964年、Wasworth Atheneum)や「Primary Structures」(1966年、The Jewish Museum)といった歴史的展覧会にも参加し、存命中から高い評価を受けていた。さらに制作と並行して執筆活動も続け、自らの芸術観や制作背景を綴った著作は『Daybook』(1982年)、『Turn』(1986年)、『Prospect』(1996年)、『Yield』(2022年)、『Always Reaching』(2023年)と5冊に及び、その言葉もまた強い共感を呼んできた。

Arundel XIII, 1974, Courtesy Matthew Marks Gallery
今回の展覧会では、白を基調とする「Arundel」シリーズのペインティング3点と彫刻1点に加え、ドローイング作品を展示する。彫刻も絵画も自らの手で着彩して完成させるトゥルイットの作品は、形と色の緊張関係に個人的な経験や記憶を重ねることで、抑制的でありながら豊かな情感を湛えている。それは、アーティストであり教師であり、妻であり娘であり母であった彼女自身の、ときに揺れながらも確かなものを求め続けた探究の旅の軌跡と響き合っている。
作品と向き合うとき、静けさのなかに潜む強度と柔らかさが、観る者をじわりと包み込むように感じられるかもしれない。
【プロフィール】
アン・トゥルイット|Anne Truitt
1921年アメリカ合衆国メリーランド州生まれ。2004年没。
主な展覧会に「In the Tower: Anne Truitt」(National Gallery of Art、Washington, D.C、2017–2018)、「Anne Truitt: Intersections」(Baltimore Museum of Art、2016)、「Anne Truitt in Japan」(Matthew Marks Gallery、2015)、「Anne Truitt: Sculpture and Drawings, 1961-1973」(Whitney Museum of American Art、1973-74)など。2017年にはDia Art Foundationが大規模な作品収蔵を発表し、2026年にはスペイン・マドリードのレイナ・ソフィア美術館で大規模回顧展が予定されている。
【開催情報】
展覧会名:Solo Exhibition
会期:2025年8月29日(金)–10月4日(土)
会場:TARO NASU
開館時間:火–土 11:00–19:00
休館日:日・月・祝
観覧料:無料