Lautashi 鈴木えみ × イリエナナコ − THE MULTISENSE vol.2
第2回のゲストは、2017AWにスタートしたファッションブランドLautashi(ラウタシー)のデザイナー 鈴木えみ。ファッションモデルのみならず、書籍の編集など幅広いクリエイションに取り組む彼女が、服づくりにかける思いとは。
誰よりもたくさんの服を着てきたからできること
イリエナナコ(以下、イリエ):<Lautashi>を立ち上げたきっかけを教えてください。
鈴木えみ(以下、鈴木):私は27歳で結婚して28歳で出産をしていて、産後1か月半、トータル2か月半で仕事に復帰したんです。それまでずっとノンストップで仕事をしていたので、その2か月半ではじめて立ち止まって考える時間がとれて、自分自身が0から100に近い形で取り組める軸を増やしたいなと思ったのがきっかけでした。
もう1つ軸をつくるとしたら何があるんだろう?と考えたとき、服を着た数は負けない自信があるって思ったんです。私は13歳からモデルをずっとやってきて、ティーン誌から入り、ギャル系、ストリート系、赤文字系などほとんどの系統の雑誌を通ってきました。そして服を着替えるということは、女性像を着替えることだと身をもって体験してきました。そのわくわく感というか、服を着た時に生まれる気持ちの変化などを服づくりに落とし込んでいけたらいいなと思って、2017AWから<Lautashi>をはじめました。
イリエ:ブランド名の由来は?
鈴木:名前はなんでもいいと思っていて。ただ、日本発のブランドなので和の要素があって先入観のない言葉がよかったので古語を調べたら、『枕草子』で「らうたし」(かわいらしい、いとおしい)という言葉と出会ったんです。
イリエ:「らうたし」から「ラウタシー」になったんですね。モデル業をやっている時と、服をつくる時の脳の使い方って違いますか?
鈴木:全然違います!モデルの時は無です(笑)。自分の作品ではないし、服をキレイに見せる、メイクアップをキレイに見せる土台やキャンバスだと思っているので。
イリエ:私も広告の仕事で言葉を書いたりする時と、自分で絵を描いたり映像を制作したりする時で、つながりはあるけど脳の使い方は違うなと思っていて。鈴木さんもモデルをやっていたという強みは活かされているけれど、やっぱり違うんですね。
鈴木:モデル業を服づくりで活かすことができている点は、たくさんの服を着てきたので、着心地の良さだったり、動いた時の揺れの美しさだったり、その基準があること。あとは、撮影でいろんな光や風を浴びたり、座ったり立ったりしてきたので、そういうシチュエーションを想像しながらつくれることもモデルという仕事を経験しているからかもしれません。
イリエ:今日着ている服もですけど、<Lautashi>は揺れ感とか空気感が素敵だなと思っていました。鈴木さんは服のデザインをする時に、どこから発想していくんですか?
鈴木:日々の中ですかね。「今日の空、とてもきれいだな」「このグラデーションを表現したいな」って思ったり、水族館に行って「クラゲきれいだな」「クラゲ柄にチャレンジしてみようかな」って思ったり。本当にふとしたシーンでイメージが浮かぶ感じですね。突如、何かが降ってくる時もあるんですけど。そのキーワードをネタ帳に書き溜めています。実制作では、まず生地を考えて、生地が大体決まったらそこにキーワードをはめてデザインしていきます。
イリエ:その作業はわりとスムーズに進みますか?
鈴木:スムーズですね。デザインを書き出すまでが遅いんですけど。シーズンも重ねてきたので、定番の形とか、求められるものと提供したいものとのバランスがだいぶ見えてきたので、そういった意味でも進めやすくなってきました。
イリエ:モデル業とアパレル業って、ファッション業界というくくりで考えたら近そうだなって感じるんですけど、<Lautashi>を立ち上げてみて、意外とこれ知らなかったなということはありましたか?
鈴木:何にも知らなかったです!
イリエ:そうなんですね。ブランドを立ち上げる時、どこから取り掛かりましたか?
鈴木:まずは生地をつくったりする時の(生産)背景やパタンナーさんを紹介してもらいました。
イリエ:パターンにこだわっているように思ったんですが、パタンナーさんはずっと同じ方とやっているんですか?
鈴木:ファーストコレクションの時にメインでお願いしていた方はずっと継続して一緒につくっていて、いまは4人のパタンナーさんにそれぞれの得意ジャンルで振り分けてお願いしています。海外へ行ってしまう方もいるので、何人か入れ代わり立ち代わりしながら。パタンナーさんが東京に居ないとトワルチェックができないので。
イリエ:服づくりって結構アナログの世界ですよね。実際に見て、触れないと、という。
ブランドの世界観をお客さまに直接届けたい
イリエ:ブランドを立ち上げて、難しかったことはありますか?
鈴木:ブランドが鈴木えみに勝てないということですね(笑)。
イリエ:ああ。誤解を恐れずに言うと、<Lautashi>の服って“鈴木えみの”という修飾語が必要無いデザインじゃないですか。そこが無くても既に強いデザインだと思っていたので、やはりそういう葛藤があったんですね。
鈴木:「鈴木えみにしか似合わない」「スタイルが良い人しか似合わない」というフィルターをかけて見られてしまうことに対しては葛藤があります。でも、「着ていただくと全くそんなことないので、とりあえず着てみてください」というお客さんとのやり取りも楽しいです。
イリエ:人によって着こなしは違うし、それぞれいろんな見せ方があるから、ブランドをつくった人しか似合わないとか、近いジャンルの服装の人じゃないと似合わないという考えはもったいないし、実際そんなこと無いんですよね。
鈴木:本当にそう思います。<Lautashi>ではコレクション発表のタイミングで、サンプルを持って日本各地のお客さまに会いに行き、その展示会で実際にオーダーしていただくということをやっていて。本当にいろんな方が来てくださいますし、「いいな、その似合い方」って学ばせてもらうこともたくさんあるんです。
イリエ:着てくれる人たちのリアクションを聞くのってすごく面白いですよね。そういう風に捉えられるんだとか、そんな良いところを見つけてくれたんだとか。
鈴木:そうですね。私が接客する機会を積極的につくるようにしているのも、それが1つの理由でもあります。自分の引き出しは自分の引き出しでしか無いので、思わぬ捉え方をしてもらえることが結構勉強になります。
イリエ:ファッションショーというかたちで発表することには興味はありませんか?
鈴木:ないですねぇ……。決まった環境の中で、同じ照明で、きれいなモデルが同じように歩いて、それを関係者だけが見て評価するというのが馴染めなくて。以前、2019SSでAmazon Fashion “AT TOKYO”に出させていただいたときもすごくわがままを言って、一般の方が入場できて参加型であればということで、落合陽一さんとタッグを組んでインスタレーション形式でやらせていただきました。私は<Lautashi>を着てくれる人たちに、直接ブランドの世界観を届けたいんです。
イリエ:ブランドを続けていく中で、変わってきたことはありますか?
鈴木:すごく変わってきていると思います。生地もほとんどオリジナルになりましたし。最初は流通している生地がこんなにたくさんあるのに、何でみんなオリジナルの生地をつくるの?って思っていたんです。でも、自分の中の経験値が広がるほど欲がでてきて、「イメージにあうものが一つも無い!」となってしまうんですよね。
イリエ:わかります!私も初めて服をつくった時、知識が無さ過ぎたので一通りありものの生地の中から選んだんですけど、なかなかピンとくるものが無くて。無いならつくるしかないので、オリジナルの生地でつくり始めたんです。
鈴木:そう、無いからつくるんですよね。最近は他のブランドの服を見ても「欲しいものが無い」という感じになってきてしまって。たぶん、自分でつくっているから消化できているのかな。
イリエ:でもそれって良いことというか、自分のブランドで欲しいものを生み出しているってことですよね。鈴木さん自身が欲しいと思って生み出したアイテムってどんなものがありますか?
鈴木:私はずっとVネックが苦手で、首元が詰まっている方が好きだったんです。でも、ある時突如Vネックを着たい気分がやってきて。それでVネックを克服しようと思ってできたアイテムが、深すぎず、大人っぽくなりすぎないチョーカーディテールの付いたVネック。もう4シーズンくらい続けてリリースしているので、定番になってきています。あと、子どもの入学式で着たいなというような自分用の服をこっそり入れ込むこともあります(笑)。
<Lautashi>のこれから
イリエ:服づくりにおいて一番重視していることは何ですか?
鈴木:「他に無いこと」ですね。他のデザイナーさんもみんなそうだと思うんですけど。無いからつくるというのが自分の原動力になっているので、こういうのが何で無いんだろうっていう服をつくっています。あとは、なるべくスタイルアップして見えるシルエットを意識しているということでしょうか。
イリエ:では一番わくわくする瞬間は?
鈴木:トワルチェックです。人の手が加わった最初のプロセスなので。その化学反応がすごく楽しみです。
イリエ:その瞬間に「ものが生まれたな」っていう感じがありますよね。今日お話しをさせていただいて、鈴木さんってやっぱり研究者気質な方なんだなって思いました。
鈴木:ほんとですか…!嬉しいです。細かい作業とか、裏方の仕事も好きなので。
イリエ:デザイナーには向いていたなって感じます?
鈴木:どうですかね?いま5年続けられたので、あと5年後くらいに「向いていました」って言えるようになっていればうれしいです。
イリエ:服以外のこともやってみようと思ったことはありましたか?
鈴木:これまでいろいろやらせていただいたことはあります。レストランのメニューを考えたり、雑誌の付録の化粧品を監修したり。『s’eee』という本を丸々一冊、台割から書いて編集したこともありました。ゼロからイチを生み出す作業が楽しくて、形にすることの大変さも含めてすごくやり甲斐があるなと思いましたね。
イリエ:<Lautashi>は、これからどういうスパンでコレクションを発表していく予定ですか?
鈴木:スパンはたぶん変わらないですが、通常アパレルブランドが展示会をやるタイミングに無理して合わせなくてもいいかなと。ブランドを始めた当初から思っていたんですけど、つくりたいものがあって、それができたら発表するというのが自然な流れだと思うんです。うちはうちのやり方でやろうという考えはずっと持ち続けています。
イリエ:私もこれからは、それぞれがそれぞれのタイミングで発表する流れになっていくのかなと思っています。もちろん今までのアパレル業界のやり方にリスペクトもありますけど、全てそうじゃなくてもいいよねって思うことがあります。
鈴木:何をつくってどう届けたいかで、やり方は変わっていくものだと思います。<Lautashi>のデザイナーは私一人ですし、長く続けていきたいと考えていているので。
イリエ:今後、<Lautashi>がブランドとして目指していきたいところを教えてください。
鈴木:常にお客さまと近い距離感で居たいなと思っています。最近、ブランドのオンラインコミュニティもスタートして、服だけじゃなくみんなが日々何を感じているのかコミュニケーションをとっています。「どんなものが欲しい?」「これとこれ、どっちがいい?」と意見をもらうこともあるんです。
イリエ:距離が近いですね。モデルだけをやっていた時も、受け取ってくれる方々とコミュニケーションをとることもありましたか?
鈴木:昔はSNSが無かったので、『Seventeen』に出ていた頃は、唯一プライベートを出せたのが小さなコラム記事やファンレターへの返信ぐらいで。その後、blogをやっていた時は1日に3~4回くらい更新していましたし、Instagramをはじめるのも早い方でしたね。
イリエ:では最後に、何か言い残したことは?
鈴木:「ファッションは不要不急じゃない!」ってことでしょうか。いまこそファッションの力が必要だと思っています。
イリエ:そうですよね。お気に入りの一着を手に入れただけで気持ちが一気に晴れて、それで救われている人もいっぱいいるはずなので。
Profile _
右:鈴木えみ(すずき・えみ)
1985年9月13日生まれ。1999年にモデルとしてデビュー。以後、ファッション誌を中心に多方面のメディアで活躍。ガールズマガジン『s’eee』の編集長を務めるなど幅広いクリエイションも手掛け、センスと感度の高さで幅広い世代の女性から支持を集める。
Instagram Lautashi
左:イリエナナコ
東京生まれ。コピーライティング、クリエイティブディレクション等の仕事のほか、映画制作、絵の作品「図」シリーズの発表、言葉の作品の展示等、作家活動を行なっている。映画監督作に『愛しのダディー殺害計画』など。2021SSよりワンピースブランド<瞬殺の国のワンピース>スタート。
Instagram Twitter www.irienanako.com 瞬殺の国のワンピース
- Photography : Shuhei Tsunekawa
- Styling : Emi Suzuki(Lautashi)
- Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
- Interview : Nanako irie
- Text : Sayaka Yabe
- Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)