世界をリードする大国の新鋭、ミュージシャンとの二刀流を実現するタイソン・ヨシの独占インタビュー
-ご自身のキャリアから教えてください。出身地や影響を受けたアーティストやデザイナーなど、お話しできる範囲でお聞かせください。
年齢は30歳、香港出身のシンガーソングライターです。2018年から、自分の部屋で音楽を作成してインターネットで公開してきました。そこがスタートになり、少しずつファンになる方が増えてくれました。自分は香港出身なのですが、自国に無い新しいものを作っていこうと音楽のプロジェクトを始めました。これは、今自分が手がけているアパレルブランドにも共通します。香港に元々あるものを自分が作っても意味がない、新しいものをつくりたい、と常に思っていたんです。基本的にはこのようなコンセプトでこれまでやってきました。幸運にも自分はマーケットに受け入れられたので、運の要素が強い話でもありますが、今は自分のキャラクターで音楽も洋服も押していきたいと思っています。気持ちは自分の寝室で曲作りをしていた頃と変わらないですね。
洋服を作る上で、影響を受けた人は特にはいません。HIPHOPやPOP、PUNKもその時の気分で聞き分ける様に、自分の場合、特定の誰かの影響は受けにくいのかもしれません。その時その時で影響を受けた人が変わるから、というのが本音かもしれないですね。
-ミュージシャンいくつかのキャリアを経て、なぜ洋服のブランドを立ち上げたのか、その理由を教えてください。
デビューしたばかりの頃、収入はそれほどありませんでした。当然、スタイリストを雇う余裕もありませんでした。その上、事務所にも所属していなかったので金銭的なバックアップもなかったんです。ファンの人からどの服を着ているかをよく聞かれましたが、すべてセルフプロデュースでやりくりをしていました。2022年頃はクロムハーツを気に入ってよく着ていましたが、その時の反響がよかった。ブランドがどう、というよりも香港の若者に上手く自分を宣伝できている手応えがありました。こうした経験があるので、マーケットの状況を気にせず、ライブでも日常でも自分が好んで着れる洋服をつくるのがベターなんじゃないか、と思う様になったんです。自分に興味のあるファンの人の言葉が、洋服をつくる後押しをしてくれた感覚です。
何事も、全くのゼロベースから始めるのは難しいですが、洋服作りは音楽を作成するアプローチに近いことにも気がつきました。MV、PVの作り方も、エンドユーザーに届くまでの工程も音楽と似ています。前期の企画、中期の生産・サンプリング・宣伝、最後の販売・アフターケア。こうしたフローは全て音楽と共通しているんです。それもあって、アパレルを音楽とは別の、もう一つのクリエションの軸としてアウトプットを始めたんです。
-<triplet>は一言で言うと、どの様なブランドですか? 何型のデザインで、どの様なテクニックや素材使いが特徴ですか?加えて、ブランドのクリエイションで大切にしていることはなんですか?
僕自身を表すのがブランドです。また、“3”という数字に自分は縁があるのでそこを大切にしています。3人でやっているブランドであり、自分は3つのライフワークを持っている、のように。あと、自分は敬虔なキリスト教信者ではありませんが、クロスのモチーフが好きなので、洋服のデザインに取り入れることが多いですね。この様に、正直なことを言えば、マーケットのトレンドはほとんど気にしていないんです。自分を表せるのがブランドの醍醐味なので、音楽と同様にその時のマイブームをデザインやディテールに取り入れてますね。素材はシンプルに着心地の良いものを中心にセレクトしています。いくら見た目がよくても着心地がよくない、では意味がないので。クリエイションに関しては「ドライブ・ジム・コーヒー」の3つのエレメントを大切にしています。この3つはほぼ毎日くり返す自分のルーティンです。タンクトップやショーツはジム、リラックスしてコーヒーを楽しむ時はフーディの様に、シチュエーションで着るものを考えて提案しているのが<Triplet>です。
-<triplet>は2010年以降のラグジュアリーストリート、と呼ばれるジャンルの洋服にデザインが似ている様に思います。影響を受けたデザイナーやディレクターはいますか? また、アイデアソースやインスピレーションはどこから来ていますか?
影響を受けた特定のデザイナーはいないのですが、2019年、20年にボッテガ・ヴェネタにハマった経験があります。シャツを買えば、それに合うパンツを。パンツの次はシューズを、という具合にいくつもアイテムを買いました。この時に思ったのが、1つのアイテムが起点となり、コーディネートのアイデアが決まるということです。なので、自分の手がけるブランドはこういう心理になる様に、1つのアイテムを手にした時、他のアイテムに広げられる様なクリエイションができたらと思っています。また、自分のベースはあくまでも香港での日常にあります。全世界のことを考慮するのは本当に難しいことなので(苦笑)、香港の気候や天候、気温の中で得られるインスピレーションを大切にしているのが実際のところですね。
-今回、<triplet>を日本でPOP-UPをすることになった経緯を教えてください。また、日本のファッションシーンに関する率直なイメージも教えてください。
今回日本でポップアップを開催したのは、僕自身の影響力を取り除き、<Triplet>が純粋にどのくらい影響力を持っているか試したかったからです。一つのブランドとして成り立つかどうかを試してみたかった。日本は自分にとって重要な国の一つだとおもっています。洋服のことで見ても、香港は一般的なものが多いですが、日本では珍しいものが見つかることが多い印象があります。特に東京は世界でも有数のファッション都市で、ストリートウェアやラグジュアリートレンドの最先端を行っています。また日本のファッションシーンは香港や台湾など他のアジア地域よりも多様です。そこで、カルバンや「Peace and After」の協力を得て、<Triplet>初の公式ポップアップを日本で開催することになりました。
-先日InstagramにPOSTされたClarksのシューズを拝見しました。このコラボが実現した経緯と、お話できる範囲で構いませんので、今後のコラボレーションで控えているプロダクトがあれば教えてください?
Clarksとのコラボレーションの話が来た時はシンプルに興奮しました(笑)。自分がイギリスに留学する前、香港で学生をしていた頃によく履いていたのがClarksなんです。当時、黒のダービーシューズを履くのが校則だったんですが、ClarksのWallabeeを履くことで個性を出す生徒がいたんです。なので、このコラボでは高校時代のこうした思い出に近づけるように、オリジナルのデザインの要素をほぼ活かすことにしました。また、他のコラボレーションプロジェクトもいくつか決まっているのですが、残念ながら現時点でお伝えするのは難しいです。楽しみに待っていただけたら嬉しいです。
-ブランドとして、今後の展望を伺えますか? 例えば、ランウェイ・ショーを行う、インスタレーションを行う、など。具体的なロードマップやイメージしている内容があればそれも教えてください。
ブランドとして、自分の多様なアイデンティティを表現する方法を模索していきたいと考えています。音楽と同様、特定の方向性にこだわらず、毎日の気分やインスピレーションに基づいて服作りをしています。ファッションショー等に関しては、まだ具体的なアイデアは決まっていませんが、いつか開催できればとは思っています。ただ、正直なことを言えば、こればかりはご縁に任せる以外に他ないのが本音ですが(笑)。今はもっと楽しくてワクワクするもの、自分が身につけたいものを作ることに集中したいですね。
-QUIは日本のファッションウェブマガジンです。読者は、コレクションブランドの情報やランウェイショーのルックなど洋服に関わる情報を渇望しています。<Triplet>のどこに注目して欲しいのか、最後にメッセージをお願いします。
このブランドは自分のライフスタイルに直結しています。なので、まずは自分を通じてブランドを知って頂きたいと思っています。自分=Tysonに注目してもらうことで、<Triplet>とのつながりがより良く感じてもらえるハズですから。また、現在の<Triplet>だけでなく、今後のリリースやエキサイティングなプロジェクトにも注目してもらえると嬉しいですね。
-プロフィール
1994年7月17日生まれ、香港出身。香港で最も有名なヒップホップアーティスト、ラッパーの一人。2018年、台湾で音楽制作を始め、シングル<To My Queen>でデビュー。2019年7月、ガールフレンドに向けて書いた楽曲<Christy>がヒットしメジャーに。ChristyはYouTubeで100万回以上の再生回数を記録し、彼の曲の中で初の快挙となった。(同楽曲は2024年11月現在で3000万回再生を記録)。
2024年より、自身がクリエイティブディレクターを務めるアパレルブランド<Triplet>をスタート。