勅使河原蒼風展 ― 陶皿に宿る言葉の余韻、タカ・イシイギャラリー 六本木で開催中
本展は、陶製の皿を支持体に顔料で書をしたためた作品、約40点で構成される。床の間にいける伝統的な立華のスケールを大きく逸脱し、もはやインスタレーションと呼べるほどの大規模ないけばなや、六曲半双屏風の大書で知られる勅使河原にとって、本展に並ぶセラミック作品は小さなメディアであるといえる。皿の表面には「月光」「白雲」「幻」「空」といった、墨書作品においても彼が好んで用いた言葉が少字で記され、意味の簡潔さと独特の書体による視覚的な象徴性が際立っている。

勅使河原蒼風 釉陶皿 顔料による書 © Sogetsu Foundation / Courtesy of Sogetsu Foundation and Taka Ishii Gallery / Photo: Kenji Takahashi
若き日に玉木愛石に師事し、王義之調を学んだ蒼風は、その後独学で自らの書体を確立した。荒々しくも奔放な大書で知られるが、本展に並ぶ作品は起筆やはねが柔らかく、穏やかな気配を帯びている。色彩の多様さも加わり、小躍りするような喜びの響きが感じられるだろう。親族の名を記した作もあり、きわめて私的なメディウムとして制作された側面もうかがえる。
字形は必ずしも読みやすさを求めず、時に記号のように、あるいはまったく別の風景のように立ち現れる。その曖昧さが、見る者の想像を広げる契機となっている。
勅使河原蒼風は、近年再評価が高まっており、2024年には横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」に参加、2026年には海外での大規模国際展への出展も予定されている。掌におさまる器に記された文字が、どのように見る者に響くか。蒼風の意外な一面を垣間見る展覧会である。
小さな器に託された言葉のかたちは、勅使河原蒼風のもうひとつの顔を静かに映し出す。日常に寄り添うような陶皿に書かれた文字と色彩の響きは、観る者の内側にどのような余韻を残すだろうか。
【プロフィール】
勅使河原蒼風
華道家・勅使河原久次の長男として1900年に生まれる。幼少よりいけばなの指導を受け、1927年に草月流を創流。戦後は「前衛いけばな運動」を主導し、中川幸夫らとともに活動した。彫刻・絵画・書・コラージュなど幅広い作品を制作し、実験工房や具体美術協会などの前衛芸術運動とも交流。草月アートセンターではジョン・ケージ、マース・カニングハムらの公演を開催し、日本の前衛芸術シーンに多大な影響を与えた。1962年に芸術選奨文部大臣賞を受賞、フランス政府からレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ(1961年)、芸術文化勲章オフィシエ(1960年)を受章。1979年に逝去。
【開催情報】
展覧会名:勅使河原蒼風展
会期:2025年8月29日(金)–9月27日(土)
会場:タカ・イシイギャラリー 六本木(〒106-0032 東京都港区六本木6-5-24 complex665 3F)
開館時間:12:00–19:00
休館日:日・月・祝祭日
観覧料:無料