アーツ前橋「ゴースト 見えないものが見えるとき」——未来をひらく“見えない存在”との邂逅
本展は、“ゴースト”というキーワードを軸に、過去・現在・未来を往還するイメージの可能性をひらく試みだ。戦争や分断、テクノロジーの脅威や環境破壊、人新世に漂う絶望感。そうした時代の揺らぎの背後に、言葉にも姿にもならないざわめきが潜んでいる。それこそが“もうひとつのノイズ”であり、「ゴースト」として作品の中に浮かび上がる。そこから思いがけない問いが生まれてくる。
見どころは三つ。
AIやVRなど最先端テクノロジーと共振するゴースト
山内祥太や平田尚也の新作、そしてトニー・アウスラーによる大規模映像インスタレーションが、身体と仮想の裂け目を照らす。魂や意志は生物だけに宿るという前提が揺らぎ、いまやゴーストのように漂いながら、機械や仮想空間へと拡散しつつある。その不確かな気配が作品を通して立ち上がる。新平誠洙や西太志、諸星大二郎など、多様なメディウムを駆使する作家たちが、それぞれの表現を通じてゴーストの気配を浮かび上がらせる。

Tony Oursler. Open Obscura, 1996/2013. Installation view of Tony Oursler: Black Box, Kaohsiung Museum of Fine Arts, Kaohsiung, Taiwan, January 23–May 16, 2021. Courtesy Kaohsiung Museum of Fine Arts.

山内祥太《Being... Us?》2025年

新平誠洙《Phantom Paint #3》 2025年 Courtesy of ARTCOURT Gallery Photo : Takeru Koroda
歴史と土地に潜むゴースト
クリスチャン・ボルタンスキーは「記憶」や「不在」をめぐるインスタレーションで、失われた存在の影を呼び寄せる。丸木位里・俊の《原爆の図》には、戦争の惨禍が今もなお強烈に刻まれている。ハラーイル・サルキシアンは亡命や抑圧の経験を背景に、静かな映像から痛ましい記憶を呼び覚ます。丹羽良徳は社会の不条理を鋭く突くパフォーマンスで、抑圧の構造を可視化する。それぞれの作品が、大量破壊の記憶や抑圧の痕を現在に浮かび上がらせる。 

岩根愛《Shosuke Nihei, Kailua Camp—Maui, Hawaii》〈KIPUKA〉シリーズより 2016年 ©Ai Iwane, courtesy KANA KAWANISHI GALLERY

諸星大二郎「不安の立像」より 1973年 ©諸星大二郎
前橋という街そのものに宿るゴースト
尾花賢一+石倉敏明は赤城山に伝わる水の伝承を新作で掘り起こす。マームとジプシーは広瀬川を舞台に、空襲の記憶や製糸の史や家族の声を縫い合わせるインスタレーションを館内外に展開。daisydozeは萩原朔太郎をモチーフに、市街地を巡るオーディオ・イマーシブ体験へと誘う。 

尾花賢一《赤城山リミナリティ》2019年 撮影:木暮伸也
会期中は、南條史生によるギャラリートークや学芸員トーク、「おしゃべりアートデイズ」など関連プログラムも予定。daisydozeのサウンド・イマーシブシアター(有料)や、マームとジプシー《Curtain Call》の街なか回遊展示など、街歩きとともに楽しめる企画が揃う。 
闇にひそむ声、風景に沈む記憶、スクリーンの向こうで瞬くまなざし——“ゴースト”が美として現れるとき、未来を考えるための小さなきっかけが生まれる。
【出品作家】
国内16組・海外4組、約100点予定
岩根愛、丹羽良徳、ハラーイル・サルキシアン、尾花賢一+石倉敏明、諸星大二郎、ヒグチユウコ、平田尚也、松井冬子、新平誠洙、丸木位里・俊、竹村京、西太志、クリスチャン・ボルタンスキー、横尾忠則、諏訪敦、アピチャッポン・ウィーラセタクン+チャイ・シリ、トニー・アウスラー、マームとジプシー、山内祥太、daisydoze
【開催情報】
展覧会名:ゴースト 見えないものが見えるとき
会期:2025年9月20日(土)〜12月21日(日)
会場:アーツ前橋(1階ギャラリー+地下ギャラリー)
開館時間:10:00〜18:00(入場は17:30まで)
休館日:水曜日
観覧料:一般1,000円/学生・65歳以上・団体(10名以上)800円/高校生以下無料
※1階ギャラリーは観覧無料
※障害者手帳等をお持ちの方と付き添い1名は無料
※「群馬県民の日」(10/28)「文化の日」(11/3)は入場無料
※10/11(土)、12/13(土)は「多様な学びの日」により入場無料
URL:https://www.artsmaebashi.jp/