本展のテーマは「ブリコラージュ」。身の回りにあるものを即興的に組み合わせ、従来の用途や役割から離れたところに、新しい意味やつながりが立ち上がる。その創作態度に光を当てる展覧会だ。

例えば、コピー機を“写真機”として用いたセルフポートレート、広告チラシの切り抜きを絵具のようにして描く絵画、使い終わった割り箸がうねりながら木の姿へと回帰するかのような巨大オブジェ……。ありふれた素材から、作り手それぞれの人生の手跡が浮かび上がる。

会場構成は tamari architects。「既知との遭遇」というコンセプトのもと、街のカーブミラーや道端の断片に触発された什器が提案され、見慣れた形から“新しい出会い”を誘発する。さらに、視覚障害のある人に向けた触図を用いた鑑賞ツアーや、分身ロボット「OriHime（オリヒメ）」による遠隔参加型のツアー、アーティストトークや生演奏ライブなど、多様な来場者がそれぞれの距離感で楽しめるプログラムも用意されている。

ありふれた素材が立ち上げる世界にふれることは、そのまま作家の「生きる方法」に出会うことでもある。知っているはずのものが少しずれて見える、その瞬間を会場で楽しみたい。

【出展作家】
・井口直人
コピー機を写真機のように用い、自身の姿を何度も写し取るセルフポートレートを制作。揺らぎやブレがそのまま身体のリズムを刻み、時間の痕跡を重ねる。近年はスタッフや来訪者との共同制作へと広がっている。

・嶋 暎子
広告チラシを切り抜き、一枚一枚を丹念に貼り重ねることで画面を覆い尽くす。繰り返しの動作が積層する画面は、鮮やかな色彩とリズムを帯び、日常の断片が異なる世界へと変貌する。「日曜の制作学」（鞆の津ミュージアム、2023年）などで紹介されている。

・舛次 崇
パステルの色を何度も塗り重ね、厚みのある画面を生み出す。単純なモチーフに動きや躍動感を与え、日用品のフォルムに潜む美を呼び起こす。国内外の展覧会で紹介され、その圧倒的な色彩と質感が注目を集めている。 

・武田 拓
使い終わった割り箸を束ね、曲げ、積み重ねることで巨大なオブジェを制作。うねるような造形は有機的なエネルギーを放ち、再び“木”へと回帰するような生命感を漂わせる。身近な素材の変貌が生み出すスケール感に圧倒される。 

・鶴川弘二
赤い丸や点を連ね、その上に文字や数字、聞こえてきた言葉を重ねるドローイングを展開。記号のようでいて詩のようでもある画面は、彼自身の思考や記憶の流れを映し出す。リズムと余白のあいだに、見る者の感覚を漂わせる。 

・納田裕加
糸や布の断片を巻き固め、「のうだま」と呼ばれる作品を次々と生み出す。やわらかな線が重なり合ってできる繭や人型のオブジェは、今にも動き出しそうな生命感にあふれている。

【開催情報】
展覧会名：アール・ブリュット 2025 巡回展「既知との遭遇　自伝的ブリコラージュの世界へようこそ！」
会期：
第1会場：2025年9月27日（土）〜12月21日（日）／東京都渋谷公園通りギャラリー
第2会場：2026年1月15日（木）〜1月25日（日）／プリモホールゆとろぎ［羽村市生涯学習センター］
第3会場：2026年1月31日（土）〜2月9日（月）／板橋区立成増アートギャラリー
休館日：各会場の規定に準ずる
観覧料：無料
公式サイト：https://inclusion-art.jp/s/bricolage