「アール・デコとモード 京都服飾文化研究財団(KCI)コレクションを中心に」10/11(土)開幕――100年前の“今”をまとう
8つの章立てにわたる本展。その世界を5つの視点でなぞっていく。
新しいモードの芽吹きと祝祭のパリへ
1920年代、のちに「アール・デコ」と呼ばれることになるこの時代、女性のモード(流行の服飾)は従来のスタイルから大きく変化しはじめた。軽やかで直線的なドレスが登場し、現代的な装いの芽が確かに芽吹いていた。やがて1925年、パリで開催された「現代産業装飾芸術国際博覧会(アール・デコ博覧会)」で、その流れは一気に花開いた。会場となったグラン・パレやエレガンス館、ブティック通り、そしてポワレの川船を使った展示には、衣服や香水や宝飾、帽子や靴などが芸術と並んで紹介され、モードが文化の舞台に躍り出た。祝祭の熱気を伝えるポスターや資料も並び、当時の息づかいがよみがえる。

ジャン・パトゥ イヴニング・ドレス(部分) 1927年 京都服飾文化研究財団 撮影:来田猛

シャネル イヴニング・ドレス 1928年 京都服飾文化研究財団 撮影:畠山崇

ロベール・ボンフィス ポスター「現代産業装飾芸術国際博覧会」 1925年 京都工芸繊維大学美術工芸資料館

カルティエ製のフルーツサラダ・リング 1930年 国立西洋美術館(橋本コレクション) 撮影:上野則宏
自由な身体と女性クチュリエの活躍
コルセットからの解放は、女性の身体を縛りつけてきた旧来の価値観を大きく揺さぶった。ポワレはコルセットを廃し、直線的なドレスを提示した先駆的存在であり、その潮流は1920年代に入って一気に広がっていく。軽やかな素材やひざ下丈のスカートが登場し、女性の自由な身体は街を歩き、社交の場を彩るようになった。そしてこの変化をさらに押し進めたのが、シャネルやランバンといった女性クチュリエたちだった。彼女たちのドレスには、新しい身体の感覚と、女性自身の時代を切り開く力が重なり合う。マドレーヌ・ヴィオネのバイアスカットのドレスもまた、布の流れそのものを造形に変え、革新の象徴となった。

ジャンヌ・ランバン イヴニング・ドレス 1920年代前半 京都服飾文化研究財団 撮影:畠山崇

ジャクリーヌ・マルヴァル《ヴァーツラフ・ニジンスキーとタマラ・カルサヴィナ》 1910年頃 個人蔵/ジャクリーヌ・マルヴァル委員会(パリ)協力

マドレーヌ・ヴィオネ イヴニング・ドレス 1929年春夏 京都服飾文化研究財団 撮影:畠山崇
クチュリエと芸術の出会い
クチュリエと芸術家の交流は、この時代のモードを大きく変えた。ラウル・デュフィはテキスタイルデザインを手がけ、ソニア・ドローネーは新しい色彩概念を絵画だけでなく室内装飾や服飾にまで持ち込んだ。さらに、ルネ・ラリックによる香水瓶のデザインは、モードと工芸の境界を越える存在として紹介される。芸術とモードが響き合うことで、アール・デコの多彩な表現が立ち上がる。

ルネ・ラリック アトマイザー「サン・アデュー(さよならは言わない)」 ウォルト社 1929年 箱根ラリック美術館
服飾小物に宿るデザインの力
鉄道や自動車の普及により、女性たちは遠出や移動をより自由に楽しむようになった。そうした変化にあわせ、帽子やバッグといった服飾小物には、軽やかさと実用性が求められるようになる。 時間感覚の変化とともに登場した腕時計は、活動的な女性の新しい必需品となった。

シャネル デイ・アンサンブル 1928年頃 京都服飾文化研究財団 撮影:広川泰士

ヒール 1925年頃 京都服飾文化研究財団 撮影:広川泰士
さらに外出先での身だしなみを整えるため、化粧道具も小型化していく。パウダー入りのコンパクトやスティック型の口紅は、持ち運びやすさと優美さを兼ね備え、日常の所作にまでアール・デコの感性を息づかせた。

ルースパウダー入りコンパクト(二種) 1920年代初頭 カネボウ化粧品(アンティークコンパクトコレクション) 撮影:若林勇人

ジャン・デュナン バックル[中右] コンパクト[上][中左][下] 1925年頃 京都服飾文化研究財団 撮影:畠山崇
スポーツ、リゾート、そして未来へ
フランスで大ベストセラーとなったヴィクトル・マルグリットの小説『ラ・ギャルソンヌ』(1922年)。その主人公モニクは、テニスやゴルフに熱中する第一次世界大戦後の若い女性だった。作品になぞらえて「ギャルソンヌ(少年のような娘)」と呼ばれた自由闊達な女性たちは時代の寵児となり、モードを牽引していった。

ジャン・パトゥ ビーチウェア 1929年頃 京都服飾文化研究財団 撮影:畠山崇
彼女たちの登場とともに、かつては労働者を連想させた日焼けが、裕福さのステータスシンボルへと変わる。スポーツやリゾートを楽しむライフスタイルそのものが、装いの一部となっていったのだ。シャネルやランバンによるスポーツラインの展開も、こうした時代のムードと響き合っている。

ポール・ポワレ デイ・ドレス(テキスタイルデザイン:ラウル・デュフィ) 1922年頃 京都服飾文化研究財団 撮影:林雅之

マーク・ジェイコブス ジャケット、パンツ 2014年春夏 京都服飾文化研究財団 撮影:来田猛
展覧会のラストには、アール・デコのモードがいまに受け継がれていることを示す展示が並ぶ。100年前に築かれた美意識が、現代の私たちの感覚へとつながっていくことを実感させてくれる。
開催情報
展覧会名:「アール・デコとモード 京都服飾文化研究財団(KCI)コレクションを中心に」
会期:2025年10月11日(土)~2026年1月25日(日)
会場:三菱一号館美術館
開館時間:10:00~18:00(入館は閉館30分前まで)
※1/2を除く金曜日、会期最終週平日と第2水曜日は20:00まで
休館日:月曜日(祝日・振替休日を除く)、12/31、1/1
※10/27・11/24・12/29「トークフリーデー」と1/19は開館
観覧料:一般2,300円(前売2,100円)、大学生・専門学校生1,300円(前売1,000円)、高校生1,000円
※前売券はオンラインで10/10まで販売
※高校生の前売設定なし
※障害者手帳提示で当日一般料金の半額、付添1名まで無料、他割引併用不可
主催:三菱一号館美術館、公益財団法人 京都服飾文化研究財団
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイト:
美術館サイト https://mimt.jp/
展覧会サイト https://mimt.jp/ex/artdeco2025/
京都服飾文化研究財団(KCI)について
京都服飾文化研究財団(The Kyoto Costume Institute, 略称KCI)は、西洋の服飾や関連資料の収集・保存、調査・研究を目的に、1978年に株式会社ワコールの出捐によって設立された。現在は17世紀から現代までの服飾資料約13,000点、文献資料約20,000点を所蔵。そうした膨大なアーカイブを多角的に調査・研究し、その成果を展覧会や出版を通して世界へ発信している。
国際的にも高く評価されるKCIの活動があるからこそ、100年前のモードが今に蘇り、今回の展覧会で体感できる。
URL:https://www.kci.or.jp/