ピーター・サザーランド、9年ぶりの日本展覧会「Sweater Weather」をGALLERY TARGETで開催
本展覧会は、これまでに撮り溜めていた写真や使っていたアウトドア用品の一部、見つけた布、旅をしている時に見つけた物などをキャンバスに作品集を編集する作業のように貼り付け、縫い合わせて作品を構成している。一つのキャンバスには様々なストーリーが展開しており、見応えのある作品が並んでいる。
サザーランドのことを知っている人には、写真というメディアムから離れたものの、懐かしい要素を見出すことができる。初めて作品を見る人には、彼が世界に点在するどんなエレメンツにフォーカスを置いて作家活動をしているのかが垣間見える展覧会となっている。
以下、作家の友人で美術ライターのサム・コーマンがサザーランドの新しい作風を解説した文章をご紹介。
(以下原文ママ)
「ポルケ、ゲレンデを滑る」
ピーター・サザーランドは父親だ。それは一見、アーティストの創作活動には関係ないように思えるが、実はそうではない。親になると焦点が変わり自分の子どもが主役になるのだ。子どもが直感的にコラージュを作り上げていく様子を見ていると、嫉妬すら覚えることがある。自分の青春時代の大切さを手放し、その代わりに一瞬の盗まれた時間や、記憶の断片のような、もっと儚いものに惹かれるようになるのだ。
ピーターのキャンバスには、このエネルギーが反映されている。それらは部屋に漂う音楽のように、雰囲気に満ちている。彼は絵画の革新を追い求めているわけではなく、使い古された親しみやすさに寄り添い、古びたバイカーの革チャップスや、スケーターのボロボロになったカーハートのパンツのように、生活感がある。
また彼は現実の世界やサブカルチャーを冒険する人で、若者文化の境界線を追いかけている。彼は、自分と同じ道をハイキングしてほしいし、同じ斜面をスノーボードで滑り降りてほしいと思っているのだ。
ピーターがこの展示会用の作品を初めて送ってきたとき、冗談でこう言った。「君は『ジグマー・ポルケ』ならぬ『ジグマー・スロープス』だね!」これはうまく訳せないかもしれない(大抵のテキストメッセージはそうだ)が、その感覚は心に残る。ピーターのイメージへのアプローチは、アイデンティティ形成と結びついているように感じられる。
彼はストリートサインの写真と、手描きのBlack Labelスケートボードのロゴを並置させるかもしれない。それによって、そのマークを自分のグラフィティの歴史へと引き戻しているのだ。それらの作品は抽象へと進んでいくが、同時にトラッパーキーパー(多彩な装飾が施されたバインダー)のように、外の世界のテクスチャも運んでくる。
たとえば、空っぽのニューヨークの通りや、あるいはコロラドのヒッピー的な風景、例えばキノコの上のてんとう虫のようなものだ。
絵画は通常、孤立したオブジェクトとして扱われ、ギャラリーの中立的な空間にきちんと収められる。しかし、ピーターの絵画はじっとしてない。彼の作品は、落ち着きのない脚を動かす人や、5分だけ空いた父親が何かを作らずにはいられないような、そんなせわしなさを持っている。彼の作品は注意力の渦を巻き起こし、単なるイメージだけでなく、それを生み出す行為そのものを
も捉えていく。
これらの絵画は、彼の制作プロセスの真の手引書のように感じられる。数多くの月、火の輪、星々を伴い、彼自身の個人的な宇宙観そのもののようでもある。ピーターは普段は写真家だが、これらの作品の中では、彼自身の最も正直なイメージを生み出したのかもしれない。
サム・コーマン
-展覧会概要
『Sweater Weather』by Peter Sutherland
会期:2025年1月28日(火)-2月18日(火)
営業時間:12:00 〜 19:00
※月曜・日曜・祭日休廊
会場:GALLERY TARGET
住所:東京都渋谷区神宮前5-9-25
URL:https://www.gallery-target.com/
オープニングレセプション_1月28日(火) 18:00 〜 20:00 ※どなたでも入場可能
B1では宮下卓己による「つぼぼっち展」を同時開催
-Profile
Peter Sutherland(ピーター・サザーランド)
https://www.instagram.com/petersutherland/
1976年生まれ。
コロラド在住。ドキュメンタリー・フォトグラフィーのテクニックを使い、隠れた笑いや美を撮り続けているフォトグラファーでフィルムメーカー。2001年、ニューヨークのメッセンジャー達を撮ったドキュメンタリー映像「Pedal」を発表。サンダンス映画祭に出品され注目を集める。2003年には「Gator」ことマーク・ゲイター・ロウゴウスキーを中心にした1980年代のスケートボードシーンを追ったドキュメンタリー「Stoked : The Rise and Fallof Gator」で撮影監督を務めた。2004年に初の写真集「Autograf: New York City’sGraffiti Writers」、2006年にDVD/フォトブック「Pedal」(共にPower House Books)を発表。以後、精力的に数多くの写真集を発売する傍、「i-D」「VICE」などのエディトリアル、「POPEYE」の連載、ノースフェイス、アディダス、ステューシー、デュラセル、フィルソン、スーリー、ラコステ、パラディウム、シュプリーム、ナイキなどの広告写真を手掛ける一方で、リチャード・プリンスや自身が興を持つアーティストや題材のドキュメンタリーを撮り続ける。