Who is kim taehoon ?|キムテフン(ミュージシャン)
1995年7月28日韓国生まれ、東京育ち。ファンク、ポップ、ローファイ、アンビエントなど幾つものジャンルを越え、クールでアーバンなサウンドとキャッチーなメロディ、そこにのる耳触りの良い歌詞とゆるいラップが魅力。ライブではエレキギターとループマシンを用い、その場でトラックを構築。思わずゆらゆらと身体を揺らしてしまう心地よいライブは必見。
音楽的なルーツは嵐だと思ってます
— 韓国生まれ、東京育ちとのことですが。
4歳で来日して、それからずっと日本にいます。
— じゃあ生粋というか、物心つくころには日本で。
そうなんですよ。
— いまいくつですか?
年齢は24です。
— そして現在、なんと東大生だという。
大学院に通ってます。
— ちなみに何の勉強を?
マーケティングです。
— ミュージシャンっていうのもある意味モノを作って売る仕事じゃないですか。自分自身に対しても「マーケティング的には」みたいな意識をすることは?
もちろんありますね。個人で活動をする上でセルフマーケティングをめちゃめちゃ意識してて。客層はどこでどういうアプローチをして、みたいなことは結構ずっと考えています。
— 小さい時から性格的に理詰めというか、しっかりと?
いや、ぼく高校2年生までパリピだったんですよ。
中高大と一貫のエスカレーターのところだったんですけど、高校2年生の時に親から大学受験をしなさいって言われて。本当はそのまま進学できたのになめて受験したら失敗して、そのせいですごいひねくれてしまって。友達もみんなそこでいなくなって、パリピから180度変わってしまいました。
— 深く考える体質に?
そうそう。やっぱり浪人1年やって考える時間が増えたので。自分についても、社会についてもいろいろなことを考えてしまうようになりました。
— バックグラウンドでいえば韓国生まれというのも特徴的だと思うんですけど、それが自身に影響を与えているところはありますか?
正直バックグラウンドはほぼほぼ日本にあるとは思っていて。ただ、家の中が韓国語縛りなので、韓国の文化からも影響は受けているとは思うんですけど、特に何がといわれると定かではなく、複合的にいろんなことから影響されてるのかなと思います。キムチは好きですし(笑)。
— 音楽はいつから?
高校2年生の時までパリピとしてバンドをやってたんですよね。コピーバンドで、ギターを弾いてて。大学に入ってもバンドを組みたいなとは思ったんですけど、バンドを組めるような友達が見当たらなくて、だったら1人でやるかと、アコギで弾き語りを始めました。誰かに聴いて欲しいというよりは、個人的にクリエイティブな作業がしたいという欲のためだったんですけど。
1年ぐらいたったころから、その弾き語りの音にどんどん自分で音を重ねていくことを始めたんですね。それが今のスタイルに繋がっていきました。
— じゃあ、本当はバンドをやりたかったけど、自分一人でバンドみたいになってきたと。
そうですね。いまとなっては逆に一人でやる方が楽しくて。バンドを組んじゃうとスケジュール調整だったりモチベーションの調整だったりばらつきがあるので。
—メンバー個々のクオリティの調整もありますしね。リスナーとしてはどんなアーティストを聴いてきましたか?
嵐です!
— 嵐ですか。バンドじゃないんですね。
コピーバンドやってたときはロックを聴いてたんですけど。小学校のころからずっと聴き続けてた音楽が嵐なんです。
で、大学入ってから洋楽をかじり始めて、掘っていったんですけど、でもやっぱり嵐と並行で聴いて。おしゃれな洋楽に酔う自分もいるけど結局身体に染みついているのは嵐かなと。なので、ルーツは嵐だと思ってます。
— 特に好きな曲は?
『Love so sweet』です。世界で一番いい曲ですから、あれは。本当は好きな曲はたくさんあって、おしゃれな曲をポンって言いたいんですけど、かっこつけて横文字を並べるより嵐って言った方が正直かなと。
— 嵐のどういう所が魅力なんですか?
語弊を恐れずに言うと、嵐の魅力だと思ってるのがダサさです。ジャニーズは格好いいっていうイメージがあるけど、嵐ってどこかゆるい五人組というか。とくにそれが顕著なのが櫻井翔くんだと思っていて。ぼくは櫻井くんが世界で一番好きなラッパーで、嵐のラップは櫻井くんが作詞してるんですけど、普通メンバーが作ったら格好いいってなるはずなのに、やっぱりなんか……。そういうギャップもすごくかわいいんですよ。
あとは楽曲面でいったら、曲を作っている方によって曲調が全然違うんですよね。ロックだったり、ファンクだったり、もういろんな音楽をやってて。でもどれをやっても嵐っぽくなるっていうのが一番の魅力で、それに憧れてるっていうのが大きいです。
— 最近、全編英語の曲も発表していましたね。
それに関しては複雑な気持ちになるんですけど。嵐がやりたいことって…すみません、なんか嵐の話ばっかり。
— 大丈夫です。
完全な個人的憶測なんですが、嵐がやりたいことって、J-POPに焦点を当てて、世界に広げていこうっていうことだと思うんです。嵐が代表して英語で歌うことによってもっと世界の人に聴いてもらおうってことかなと。
でもJ-POPを本当に聴いてもらうなら日本語で歌ったほうがいいんじゃないかなって、ぼくはちょっと思っちゃって。まぁそれでも魅力に感じてしまうんですが。
— キムさんは英語は?
英語はまぁ人並みに。
— 英語で歌うことは?
英語にどっぷりルーツがあったら英語で歌ってもいいですけど、ネイティブなのは日本語と韓国語なのでそこは大事にしていこうかなとは思いつつ、響きがいいフレーズがあれば英語にしたりとかっていうのはあります。
でもあんまり発音が良くないって自負があるので(笑)。よく言われるのが「キムくんは韓国語しゃべっても日本語しゃべっても英語しゃべってもその言語に聞こえない」って。
— 韓国語も歌詞で使うんですか?
これまではしてこなかったんですけど、次のシングル”ASTRO BOY”ではもうゴリゴリに韓国語で歌ってたりします。
好きなものに係わる服を着ることが、自分を表現するツールになる
— キムさん自身、おしゃれな雰囲気がありますよね。ファッションは好きですか?
好きなんですけど、いまはそんなに服を買ってなくて。高校生の時は奇抜な服が好きでしたが。
— どういう服を着てきたんですか?
それこそコム・デ・ギャルソンとかヴィヴィアン・ウエストウッドとか。でもある時から服って、要は裸の自分の上にただ着せる、自分をどう見せるかのツールでしかないってぼくは思ってしまって。だったら裸の自分を良く見せた方がいいっていうふうに考えて、服をあまり買わなくなりました。いま買うのは、よほどビビッときた服だけですね。それで褒めていただけるのは嬉しいです。
— こだわって買うんですね。ひとつひとつを。
そうですね。最近は基本的に無地のものを買うことが多いです。
— ヴィヴィアンとパンクみたいな、音楽とファッションは近い関係だと思うんですけど。
正直ポップスとファッションの関係って、ヒップホップとかパンクとかハウスとか、他の音楽ジャンルと比べて深くないように思ってしまって。というのも、ポップって大衆なので、それをどう魅せていくかというのも自分次第だから、自分の好きな服着てればそれでいいのかなと。
— いま好きなブランドってありますか?
最近は服屋さんじゃない人が作った服が好きで。たとえば、今日着てきたんですけど『RICHARDSON』っていうポルノ系の雑誌が作っているブランド。ポルノっていっても幅広くて、キム・カーダシアンとかのヌードを撮ってそれをアートとして見せたり、かなり過激なイラストや写真で雑誌を作ったり。ぼくはヌードとアートの関係性が好きで、そこから興味が始まって…みたいな服は買いますね。
あとはアーティストのグッズ。自分の好きな雑誌、好きな音楽とかに係わる服を着ることが、自分を表現するツールになるのかなっていうイメージを持ってます。
— なるほど。ライブ衣装ってあります?
基本的にライブは暑いので、気に入った半袖のTシャツとかが多いですね。いや…でも、いま友達にテーラードジャケットをブリーチしてもらったりしていて、まだ見せられないんですけど、今後着ていきたいと思ってます。
— どう見られたいとか、ビジュアル的なセルフプロデュースを意識したりしますか?
どう見られたいってのはなくて好きに見て欲しいんですけど、奇をてらっているとは見られたくないですね。なんか変な服着てたり髪の毛長かったりして、でもそれは自分の一部で、ぼくの素であると思ってるんで。
「あいつ髪なんか伸ばして個性みたいなの出してる」って鼻につく人もいるだろけど、そういう見られ方はしたくないので、ライブではかっこつけつつもゆるくMCしたり。「あ、意外とお茶目な人なのね」みたいな。
— ビジュアル面でいうと、アートワークもかなり個性的というか特徴的ですよね。
アートワークはほんと注目して欲しいです。ぼくのディレクションとかまったくなく、同じ人にずっとお任せでやっていただいてるんですけど。
— PVはどうしてるんですか?
たとえば『DON`T LET ME DOWN』っていう曲のPVも同じ人にお願いしています。iPhoneで撮って編集してもらって。それもあえて粗い画質で。
— 低予算でも、センスの良さが伝わります。
本当ですか?ありがとうございます!コンテンツとして面白ければ、なんかそんなに画質にこだわる必要もないのかなって。
— 音楽的なところで自分の魅力というか、こういう所を聴いて欲しいってのはありますか?
サウンドは全部ベッドルームで自作してるので高音質ではないんですけど、粗さっていうのがひとつの特徴かなと。その粗さに、そんなにうまくないぼくのギターが合わさって、ポップな表現になっているんじゃないかな。
あとメロディーの耳なじみの良さやキャッチーさは、自分でいうのもなんですがピカイチだと思ってて。で、そのキャッチーさってどこから来たんだろうって考えた時に、たぶん嵐なんです。他にルーツのある洋楽であったり、ファンクとかソウル、最近ではハウスがすごい好きなんで、そういう要素を混ぜ込んだのが今の自分のスタイルなのかなって思います。
— 将来的にもスタジオでの音作りや、プロデューサーをつけてとか、そういう方向はちょっと違う感じですか?
いや、そりゃやりたいですよ。なんか格好つけてその荒々しさが魅力って言ってますけど、もちろん予算がちゃんとあって、嵐をプロデュースしてるようなすごい人がついてくれたら、そりゃやりたいです(笑)。まぁでもいまはその荒々しさを自分の強みとしてやってる段階だと思っています。もちろんステップを踏むと変わっていったりもするので今後のやり方については自分でも楽しみが多いですね。
— 嵐以外の影響だと?
ジャミロクワイがすごく好きです。サウンドももちろんですけど、あのバッファローマンっていうキャッチーなロゴキャラクター、ジェイ・ケイがかぶってる帽子やファッションのスタイルっていうのがすごいなって。そもそもアシットジャズがジェイ・ケイのファッションと結びついていたかっていったら、そんなことはないと思うんです。
でも、彼がジャージとかを着ることによって、アシットジャズというおしゃれな曲にジャージっていう概念が結びつけられたり。そこはもうすごい影響を受けてます。
あとはディスコも好きで、とくにアース・ウィンド・アンド・ファイアー。あの誰もが1回聴いたら歌えちゃうようなキャッチーさはもちろん、とにかく好きなことをやってる感じの世界観が好きですね。あとあの人たち、なんかちょっと言い方悪いんですけど、ダンスがめっちゃダサいんですよ。見た目からキレッキレのダンスを踊ると思いきや、みんなでステップ合わせてるだけとかでとにかくダサくて。それがまためちゃめちゃ楽しそうだしかわいくて。
— アイコニックというか、強い表現が好きなんですね。
キムさんが大切にしている言葉、座右の銘はありますか?
「塞翁が馬」っていう、良いことがあってもその良いことって悪いことにもなるし、悪いことって良いことにもなるよ、みたいな言葉。悪いと思ってることでもいつかはきっと良いことになるかなっていう、ぼくの思想と似てるなって。
— でも実は完璧主義みたいなところがあったり?
いや、ないですよ。試験でも直前に全部詰め込むタイプなので。
— すごいしっかりしてるなっていう印象がありますけどね。
本当ですか?たぶん根が真面目なんだと思います。
ちょっとひねくれてるのかもしれないんですけど、人のいろんな面を全部客観的に見ちゃう癖があって、たぶんそのせいで人づきあいが苦手なんです。常にいろんな角度で物事を見るっていう。なんでそうなったかって考えた時に、ぼくのバックグラウンドが散らばっているからかなと。韓国にあったり日本にあったり、あとイギリスやカナダにも留学してたり……。
たぶん日韓問題に関しても、普通だったら日本の意見でしか見られないじゃないですか。
— そうですね。
でもぼくは必然的に両サイドから見てしまうことになるので。家庭の環境とか自分の歩んだ環境によってそういう癖が身についたのかなっていうイメージはあります。
— すごくいいことだと思います。何事も立体的だから、多角的に見ないと捉えられないですし。
だからぼくはダサさを良いって捉えられると思うんです。ダサさって一方から見たらダサいだけだけど、逆から見たらイケてるっていうことにもなるんで。
ポップをやってるkim taehoonじゃなくて、kim taehoonのポップさそのものを見せたい
—先日、2019年12月に5thシングル『Weekend』がリリースされました。そして2020年2月からは5作連続で配信されるそうですね。
2、4、6、8、10月ですね。
— その第1弾が、2月22日に配信される『ASTRO BOY』。
kim taehoonっぽさが前面に出るように、いままで以上に好き勝手に作った楽曲です。
子どもみたいってよくいわれるんですが、宇宙とか光るものに目がなくて、タイトルの『ASTRO BOY』も単純に宇宙飛行士カッケー!というだけの理由でつけました(笑)。自分が考えるkim taehoonっぽさの一つが「ゆるさ」だと思っていて、こういう子どもっぽさや無邪気さがゆるさに繋がっているかもしれませんね。
— 音楽的にチャレンジした部分は?
これまでのようにキャッチーなメロディとゆるいラップ、風刺的な歌詞で構成されているんですが、韓国語で歌っているところがおもしろいかなと思っています。思ったよりハマっている気がしますし、聴いた感じの浮遊感が特に気に入ってます。それと、これまでの楽曲と比べてBPM(テンポ)が速くアゲな感じで、2020年やったるぞ~という気持ちの第1歩が表れているかなと。
— 残りの4作品はまた違う雰囲気になりそうですか?
結局ぼくが見せたいのはポップをやってるkim taehoonじゃなくて、kim taehoonのポップさそのものなんですよね。ポップをやってるからポップなのではなくて、kim taehoonがやってるからポップになっている、というイメージです。なので5作とも音色や雰囲気が違ってて、ポップをやってるkim taehoon、ファンクをやってるkim taehoon、全部でkim taehoonですって自分の可能性を見せていきたいというか。
— 5作聴き終わる頃にはキムワールドにはまっているであろう…
そう!だといいんですけどね。その5作のリリースに伴ってもちろんアートワークも5つ作るのでそこもちょっと期待して欲しいです。
— 音源が楽しみです。一方、ライブに対するスタンスは?
これは全然ディスではないんですけど、例えばトラックメイカーのよくあるライブの仕方って、バックDJとかつけてぽちっと押してもらってマイクで歌うみたいな、要はカラオケしてるっていう認識なんです。でもそれじゃあ、つまんないなっていうか。ライブじゃなくてイヤホンで聴けばええやんって思ってしまって。ライブならではの臨場感ってあるじゃないですか、その日によって音が違うとか。
なので、ぼくはその場でトラックを作ろうっていう試みをしています。ループステーションでビートを流して、その上にギターや上物をのせていくっていうのをやってて。箱によって音も違うし、良し悪しあるんですけど見てて楽しいと思うので。
今までのトラックメイカーの定石みたいな、すごく簡単にライブができるっていうところを崩していきたいというか、ライブの面白さでいったらあんまり負ける気はしてなくて。だからそこは注目していただきたいかなと思います。
— まずは1度でもライブに来て、見て欲しいと。
そうですね。ループさせるってことはずっと同じコード進行なので、それで曲を構築していかないといけない難しさもあるんですけど。逆に限られたコードの中でどういうメロディーを展開していくかっていうのは楽しみのひとつではあります。
— やるたびに上達しそうですね。
そうなんです。やるたびにアレンジを思いついてギターが変わってたり、使い方が変わってたりとかするので、見てて楽しいと思うんですよね。
いまはだいたい月に1回ぐらいでやってるんですけど、今後はちょっと増やしていければ。いつかは韓国行きたいです。凱旋ライブを!
— アーティストとして目標はありますか?
将来的には、世界のポップスターになりたいわけではないんですけど、ある程度は認知されたいですね。
くるりがすごく好きなんですが、くるりはすごい売れてるけど、なんか一線引いたところで好きなことやってる感じじゃないですか。あのスタンスがすごい好きで、ぼくもジャンルに縛られず自分の好きなことをやって評価されるようになりたいなと思っています。
- Text : Yusuke Takayama
- Photography : Yasuharu Moriyama