“永く付き合える衣服”と向き合う — IRENISAデザイナー 小林 祐/安倍 悠治
洗練された衣服やヴィジュアルから「IRENISA(イレニサ)」というブランドを印象付けた鮮烈なデビューとなった。
IRENISAはYohji Yamamoto出身のパタンナー小林祐氏と、SUPPORT SURFACEで企画・生産・デザインの経験を積んだ安倍悠治氏によるブランド。
デザイナーの二人に自身の今までのキャリアについて、IRENISAについて、今だから考えることを聞いた。
—ファッションの道を志すことになったきっかけは?
小林:
ずっとサッカーをやっていて大学も体育系の学部だったので、ファッションに興味はありませんでした。 ファッションに興味を持ったきっかけは大学時代、和服を着ている知らない外国人のおじさんを見て、日本人の自分がかっこいいなと。
日本の伝統服を着ている外国人と、かっこいいと思って洋服を着ている自分がいて。
なんでかっこいいと思う概念って国を渡るんだろうと思ったんです。
国の枠にとらわれず服が作れれば世界中の人達が受け入れられる服が作れるんじゃないかとも思いました。
教師になることもやめ、服を作る道に進むことになりました。
安倍:
飛行機を作る人などモノを作る人に憧れがありました。
通っていた中学が私服だったので、制服の変わりに学校に着ていく服を選ぶようになって、ファッションに興味を持ちました。
その頃から人に興味があり、人とは何かなどよく考えていました。
そこで人と切っても切れないファッションにのめり込み、ファッションの道に進もうと決意しました。
—お二人の出会いは?
小林:
もともと知人の紹介で友達になり、その中でも男でレディースのパタンナーをしていて、さらに近場で情報を共有できるのが安倍君だったので、パターンの話、服のデザインの話などをしていたら、一緒に仕事をするようになりました。
安倍:
200mくらいの近所に住んでいたんです。日曜日に間にある蕎麦屋で昼食を食べながら色々と話をしたのは、印象に残っていますね。
小林:
レディースのパタンナー同士でもあったので、デザインやパターンの話をしてました。シーズンの落ち着いたタイミングで会うことが多かったです。
—それから会社を退職し、新たな道の準備を始めるわけですね。
小林:
パターンを研究したいと思い、安倍くんの一年前に会社を辞めました。
自分のブランドをやりたいという思いはあったものの前職の”線”に引っ張られると思ったので、そこからは外注の仕事を受けながら”自分の線”を見つけるべく日々パターンを研究していました。
そこから一年後安倍くんが合流しました。
この時はブランドをやれたらいいねというくらいでしたね。
—IRENISA設立の構想はいつから?
小林:
2018年の正月知人とごはんを食べていた際、自分が本当にやりたいことは何なのかを考えたときに、「ブランドがやりたい」と強く思いました。
そこからブランドの話を進め始めました。 また、二人のデザインへの入り方が異なっていたため、デザイン、コンセプト様々な面を擦り合わせるため、ブランドを立ち上げると決めてからも、1年ぐらいは打ち合わせで月日が流れました。
—その後2020年3月にIRENISAを立ち上げました。
小林:
独立から立ち上げまでに時間がかかりましたが、よりIRENISAらしいと言える服を作る為になくてはならない時間だったと思っています。
安倍:
それぞれ全く違うフィールドや感性で物を作ってきたので、そのベクトルを合わせる事には互いに気をつけていると思います。
—コレクションでは随所にブランドのこだわりを感じます。お二人の服作りの信念は?
小林:
コンセプトとなっている“CHIC WITHSARCASM”.です。
「既成概念に捉われない遊び心で、衣服の概念を裏切る。 モードの基本を熟知した立体的なデザインに、クラフツマンシップを融合させた新しい衣服。そこに、常識の見え方が変わるきっかけを組み込む。本当に永く付き合える衣服とは何か、未完成の完成とは何かを提案する。」
— すごいとかうまいとか言われる服作りではなく単純にかっこいいと言われる服作りを目指していきたいと思っています。
安倍:
良い物を作るということ、プロダクトとしての完成度を高めることです。
洋服はプロダクトデザインだと思っています。
それらは、革新性、美的性、実用性、を含んでいることであると同時に、全てがシンプルである事だと思います。
美しいものは綺麗で美しいもの、汚くて美しいものがあります。
デザインして人が作った以上、どんな美しさにもラインがあって、ある程度のプロダクトとしての完成度が高くないと作る意味がないなと。
新しくないと意味がないし、洋服で言ったらカッコよくないと意味がないですね。
新しい価値を作るということでは今までにないものを提案しなければいけないと思っています。
それでいて着心地が良いことをシンプルに表現したいです。
小林:
今まで先人の方々が服作りをしていく中で仕様などを決めてきたと思いますが、僕らで「これはこの生地が良いんじゃないか?」「こういう仕様にしても良いんじゃないか?」という提案をしながらやっていきたいと思っています。
「これが完成でしょ?」と先人の人たちが完成させただけであって、自分たちの中での完成ではないので、新しい発見をしながら、楽しみながら、パターンを引くことやデザインをしていきたいと思っています。
先人の方々が作ったものをよりかっこよく、新しくして僕たちなりの表現をしたものがIRENISAだと思っています。
—コロナ禍で人々の暮らしや感覚、価値観に変化が見られます。現状を受けてブランドとしての考えていることは?
小林:
これはコロナ禍でなくても重要だと思いますが、写真やSNS重要性たをすごく感じています。
前職はコレクション形式でしたので、写真よりも人に着せて動いて表現することが重要でした。
IRENISAではファーストシーズンから強力な撮影スタッフの方々のご協力もあり、撮影の方法、手段によって服の伝わり方が変わることを知り、僕自身も勉強になっています。
ブランドとしては、コロナが世界中に増えた3月にブランドを立ち上げて、最初からコロナと向き合うことになったので、いわば底辺からのスタートとなりましたので、単純に上っていくだけなのでとても分かりやすいです。
安倍:
洋服は最終的にはフィジカルの体験ではあるものの、コロナの影響でそれが難しくなっています。
ブランドとしてのカルチャーをいかに立体感に伝えるかが重要だと考えています。
—安倍さんの考えていることは?
安倍:
基本的には、ひとつ一つのデザインを丁寧に作る事でしかないと思っています。
デザインするという事は、ガーメントデザイン、生産デザイン、流通デザイン、の全てを包括する構造設計をする事が本来のデザインだと思います。
これからは、洋服だけでなく、生産デザイン、流通デザインを含めたデザインをする事ができるブランドが残っていくのだと思います。
—将来の展望は?
小林:
コレクションを行っている会社で働いていたので、やはり海外でコレクションをやってみたい思いはあります。
ただ、コレクションをやったからどうっていうのもあるので、まずはしっかり地に足を付けて一歩ずつ進んで、IRENISAを育てていって、しっかりIRENISAを成熟させたいと考えています。
安倍:
長く良い物を作り続けること。
まずは私たちが作った物を、お客様に購入して頂いて、着用して感動してもらえるような洋服を作る事を目指したいと思います。
最終的にはグローバルで勝負できるブランドになっていきたい気持ちはあります。
IRENISA
https://www.irenisa.com/
- Photograper : Naoto Ikuma
- Writer : Yukako Musha