実験映画も。未知の映像を体感できる「シアター・イメージフォーラム」
多くのミニシアターが集まる東京・渋谷で、とくにユニークな映像作品を上映する「シアター・イメージフォーラム」で番組編成を手掛ける山下宏洋氏に、同館の特色や魅力、映像アートの楽しみ方を訊いた。
シアター・イメージフォーラムの番組編成、イメージフォーラム・フェスティバルのアーティスティック・ディレクター、DVDなど出版の企画を担当。世界各地のインディペンデント映画祭での審査やプログラミング、作品の発信も数多く手掛け、世界を股にかけて東奔西走する日々を送る。「イメージフォーラム映像研究所」ワークショップ卒業生。
上映作品のベースは「個人が作る映画」
— まずはシアター・イメージフォーラムの概要を教えてください。
イメージフォーラム自体は1971年からあって、いわゆる商業映画ではないアート系の実験映画、個人映画を撮る作家たちの上映活動の拠点としてスタートしました。いろんな作家たちの作品を預かって、全国に配給するという。だんだん活動が広がっていって1977年からは「イメージフォーラム映像研究所」を設立し、映画制作とか批評とかの講座を開いて新しい作家を育てるということもやり続けています。
その後1980年には出版事業もやるようになり、2000年には四谷にあった30席ぐらいの上映施設からここ渋谷に移ってきてシアター・イメージフォーラムを作りました。
— アート系のミニシアターは他にもありますが、シアター・イメージフォーラムのユニークなポイントは?
いわゆる興行のための映画館でもあるんですけど、もともとは非商業的な映画の上映活動から始まったというところでしょうか。いまも大きな資本が入っていない映画、作家が個人として手づくりで作っていくような流通に乗らない映像作品を扱っています。「個人が作る映画」ということをベースに置いている映画館というのは他にないのではと思います。アートの中でもラディカルでコアなところをという感じですね。
あとはワークショップをやっていたり、「イメージフォーラム・フェスティバル」という映画祭を主宰しているのも他の映画館とは違うところですね。イメージフォーラム・フェスティバルは今年で33回を迎えた、東アジアのアート系作品のコンペティションです。我々は映画というジャンルにとらわれず、映像というものを広い意味で捉えています。
— イメージフォーラムにゆかりのある映像作家を教えてください。
たとえばジョナス・メカス。2019年の1月に96歳で亡くなられたのですが、彼は日記映画という手法で知られており、イメージフォーラムで上映している個人作家の多くはメカスの映画づくりの精神に影響を受けています。「荒削りで洗練されていなくてもいい、生き生きした映画の方がいい。バラ色の映画はいらない。僕らが欲しいのは血の色をした映画なのだ」というメカスの言葉はイメージフォーラムの精神の根底にあると思います。
最近はとくに60〜70年代の作品が再評価されており、美術館の若手キュレーターや映画祭のディレクターなどが注目して特集上映を組んだりすることも多く、ウチで預かっている作品にも多く声がかかりますね。
映像を能動的に咀嚼しておもしろがること
— 実験映画というととっつきにくい印象もあります。
だれでも映画を観て物語が難しかったなとか、よく分からなかったなという経験があると思うんですけど、イメージフォーラムで上映されているような映画って物語を理解しないといけないというようなものでなく、映像自体がもっているおもしろさを追求したような作品なので、あんまり深く考えずに観るっていうことでいいと思うんですね。抽象映画というようなジャンルもあるんですけど、そんなものは逆に感じる以外の鑑賞方法がないぐらいで。絵画を鑑賞するのと似ていますよね。
ハリウッドのアクション映画みたいな消化しやすいごちそうも私は大好きですが、ここでやっている映画は自分でがんばって消化しないといけなかったり、自分でおもしろさを発見しなきゃならなかったり、個人の経験と密接に関わってきます。みんなが同じようにおもしろいと思える作品でないからこそ、映像を能動的に咀嚼して「ああ、おもしろかった」と思えた経験って、感じるものがより大きいですし、自分にとって大事な感覚だと思いますし、私はそれにハマちゃいました(笑)。
でも、映画の良いところってボーッとも観られるんで。映像がしみ込むように入ってきて気持ちよく観られたなというのもありますからね。
— 過去にヒットした作品は?
入りきらなかったっていうのは、たとえばブラザーズ・クエイってイギリスのアニメーション作家の作品ですね。あと四谷の30席ぐらいのころはパトリック・ボカノウスキーの『天使』、ジャン=リュック・ゴダールの『ワン・プラス・ワン』とかは入りきれなくて映画館に持っていきましたね。
パトリック・ボカノウスキー『天使』
— QUIにはファッション好きの読者が多いのですが、ファッション映画のようなジャンルもあるのでしょうか?
いま(2019年5月)ちょうどアレキサンダー・マックイーンのドキュメンタリー『マックイーン:モードの反逆児』をやっていますね。ファッションに関連した映画は結構あると思います。
あと、ウチでは2013年に『世界一美しい本を作る男』という、ドイツの出版社シュタイデルのドキュメンタリーもヒットしました。
2015年には山口小夜子のドキュメンタリー『氷の花火 山口小夜子』を上映し、それもすごくヒットしました。「資生堂」感のあるかっこいいチラシとポスターが印象的でしたね。
35mm、16mm、8mmフィルムも上映可能
— 前衛的な作品で知られる建築家の高崎正治氏が設計した建物は、ファサードからして印象的です。
この建物の特徴としては映画館と映像研究所が同じところにあるということ。それが私たちの活動のコンセプトでもあります。
— 1階と地下が映画館になっているんですね。鑑賞する環境へのこだわりを教えてください。
スクリーンは座席に対して大きくとりたいなと。とくに地下の劇場(シアター2)はスクリーンが大きいです。座っていて疲れにくい椅子で、映像に集中して観られるようにと考えています。
あとは通常のデジタルデータ(DCP)で上映している劇場がほとんどなんですけれども、シアター・イメージフォーラムでは35mm、16mmというフィルムの上映も、やろうとおもえば8mmの上映もできます。そういう映画館はだんだん少なくなってきています。それぞれのメディアの存在理由や歴史も含めてきっちりと伝えていきたいというのはありますね。
— 作家を招いてイベントをすることも?
そうですね。たとえばヤスミン・アフマドというマレーシアの監督の没後10周年を記念した特集上映では、彼女の映画音楽を担当していたピート・テオさんや主演女優のシャリファ・アマニさんなどを呼んで一緒にヤスミン・アフマドを偲ぼうといったことを企画しています。いま(2019年5月)上映中のミキ・デザキ監督の『主戦場』でも監督を招いて質疑応答を何度かやって、すごく盛り上がりましたね。
— 観客の熱を感じるエピソードですが、一方シネコン以外では閉館していく映画館も多い。映画館は衰退していると感じますか?
どうなんですかね。よくいわれるのは商業的になっているということ。先日行った韓国でも、スクリーンのほとんどが同一の人気大作映画でしめられていました。経済的に効率はいいんでしょうが、そのせいで弾かれてしまう映画もどんどん増えてしまうので。
一方、マイクロシネマという30〜50席ぐらいの劇場を有志で作って、そこで鑑賞するというのが世界的なトレンドとしてあります。映画の見方も多様化していっているのかなというのは感じます。
僕なんかは家のモニターで映像作品を観るのはかったるくてしょうがない(笑)。だらしないなとは思うんですが、映画館に行って観ないと集中できないですね。
シアター・イメージフォーラム
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2-10-2
TEL:03-5766-0114
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※全席指定席
- Text : Yusuke Takayama
- Photography : Miyuki Kuchiishi