ファンクショナリーとエレガンスを両立させる|Valextra CEO グザヴィエ・ルゥジョー
高度な技術を駆使しながらシンプルさを極めていく
QUIの代表が日頃から愛用している財布、カードケース、名刺入れは<Valextra>なんですよ。
ルゥジョー:それはとても素晴らしい選択ですね(笑)。今回の来日はそのような<Valextra>を愛してくれている日本のファンにお会いするのが目的のひとつでもありました。プロダクトに対する感想やニーズなどあらゆる声をリアルに伺いたい。メンズコレクションのお披露目イベントも開催されるので、新作について直接説明したいという思いもありました。
<Valextra>といえば創業者のジョヴァンニ・フォンタナのエンジニア的な視点がオリジナリティでもありますが、どのようなモノづくりを心がけているのでしょうか。
ルゥジョー:プロダクトのシェイプラインやフォルムに妥協しないことが<Valextra>の特徴のひとつであり、そのような創業者が思い描いた建築物に近しいようなアプローチは現在も受け継がれています。心がけているのはカタチとしての美しさを追求しながら、機能面でも日常に寄り添うようなモノづくりです。
美しさと使いやすさを両立させているということですね。
ルゥジョー:<Valextra>のプロダクトはシンプルなデザインが多いですが、機能を満たしながらシンプルであり続けることは難しいことでもあります。シンプルかつエレガントというのは全てが上質でなければ成立しないので、<Valextra>は素材から技法まで徹底的にこだわっています。


イタリアと日本はどちらも伝統技法などを大切にする国ですが、モノづくりにおいて共通点を感じることはありますか。
ルゥジョー:時間をかけて、丁寧にモノづくりをする。そうして完成したプロダクトは多くの工程を経たとは思えないほどにシンプルさを極めている。そこがイタリアと日本で共通するモノづくりの美学のように感じています。<Valextra>にとってのクラフツマンシップとは「見えない複雑さ」です。見た目はシンプルだからこそ穏やかで心地よく感じられる。そうした感覚は、おそらく日本の美意識ともつながっていますね。
「イジィデ」なども見た目は「端正」という表現がぴったりですよね。

イジィデ
ルゥジョー:「イジィデ」のクロージャーは機能で考えたらメタルパーツだけでも十分なのですが、表面にレザーをのせるだけでエレガントな雰囲気がグッと高まります。細部にまで手を加えるからこそ端正な表情が生まれているんだと思います。
クールなブラックパイピングも<Valextra>を象徴する仕上げです。

コスタ仕上げの様子
ルゥジョー:2枚の革を合わせてカットした場合、断面がそのままでは見た目の美しさを損ないます。なので<Valextra>では漆黒のインクを塗っては乾かすという作業を繰り返すコスタ仕上げを施しています。コスタもマットではなくシャイニーに仕上げているのですが、漆黒であっても光を反射するような繊細な表情を生み出すにはわずかなミスも許されません。<Valextra>のプロダクトにはロゴは存在しませんが、代わりに高度な技術を駆使したシャイニーなコスタがブランドロゴと言ってもいいぐらいです。
漆黒の縁取りによって<Valextra>のバッグは構築的な美しさが際立っている印象です。
ルゥジョー:それこそがフォンタナの建築物的な発想なんです。日本のお客さまは美への感度が高い方が多いように感じます。なので、例えば「イジィデ」はストラップを留めるパーツをスライドするだけで挟むことができます。パーツのひとつとして存在しているわけではなく、機能そのものがデザインの役割も果たしています。バックを開ける、閉じる、ストラップを付ける、外すと使うことで喜びを感じられるよう緻密に設計されています。


ラグジュアリーであり続けるために手仕事を駆使する
<Valextra>が理想とする緻密なデザインを実現するために、職人とのコミュニケーションで大切にしていることはありますか。
ルゥジョー:私がCEOだからといって職人たちに「こういうものを作ってほしい」と一方的に指示を出すことはありません。<Valextra>をもっと進化させていくために職人との関係性はフラットで、常に寄り添いながら意見やアイデアをシェアすることが大切だと思っています。私自身が職人たちから学ぶことはすごく多いです。
進化させていくために新たに挑戦したことがあれば教えてください。

イジィデ エディター
ルゥジョー:素材もそのひとつです。新モデルの「イジィデ エディター」にはこれまでの<Valextra>では見られなかったようなソフトレザーを採用しています。職人と意見交換を重ねた結果、横長でリラックス感のあるフォルムを実現するには従来のハードなレザーでは難しいという判断になりました。理想的な素材に辿り着くまでに1年半の時間がかかりました。
進化の表現にはやはり歳月が必要になるんですね。
ルゥジョー:ひとつのプロダクトを世に送り出すためには当然ながら何度もチェックを繰り返します。試作品が完成したら手で持ってみる、ストラップで斜めがけをしてみるなど、日常での使用シーンを想定して機能的に不足はないか、使い勝手は悪くないかなどを細かく確かめます。そういう試行錯誤が時代や流行に左右されない<Valextra>のタイムレスなプロダクトにつながっていると思います。


「イジィデ エディター」は試作品の段階で見直したポイントなどはありますか。
ルゥジョー:バッグのサイズが大きくなればレザーの重さも変わってきて、それはフォルムにも影響を及ぼします。なので美しいプロポーションをキープするためにフォルムのバランスは何度も見直しました。試作品に対して手を入れるポイントは本当に多岐に渡ります。デザインそのものを見直すこともありますから。
「プロダクトとしてもっと良くできるはず」と絶えず探究しているんですね。

モチバッグ
ルゥジョー:「モチバッグ」のジッパーの引き手にはレザーが巻かれていますが、この意匠は<Valextra>のアーカイブからインスピレーションを得ました。かつてはジッパーにレザーを巻き付けるために接着剤を使用していたので技術的にはハードルが高くはなかったのですが、現在はサステナブルな観点から当時の接着剤を使用することはできなくなっています。それでもアイコニックな引き手を再現したくて職人たちとさまざまな方法をリサーチして実現させました。引き手の意匠など細かいことかもしれませんが、こういうちょっと凝ったディテールを日本のお客さまはとても喜んでくれます。
<Valextra>を選ばれるのはどういう方が多いですか。
ルゥジョー:<Valextra>の緻密なモノづくりに共感してもらえているのか顧客にはアーティストやクリエイターの方も多いですが、やはりメインはシンプルだけれど実用性に優れているバッグを求めている方ですね。日本のお客さまは特に機能性と美しさ、上質さというポイントで<Valextra>を選んでくれている印象があります。
効率が重視される時代で、<Valextra>がモノづくりに手間も時間も惜しまない理由はなんでしょうか。
ルゥジョー:それはハイレベルなプロダクトをお届けしたいからです。手仕事を駆使することから大量生産はできないですが、それを非効率だとは思っていません。手仕事でしかできないこともありますし、シンプルかつ緻密な設計のデザインから生まれるプロダクトとお客さまとの間に生まれる感情が最も大切だと思っています。来年で90周年を迎えることも大きな意味があります。これまでのタイムレスな価値を提供してきたという長い歴史があるからこそラグジュアリーを更新しながらも、モノづくりの効率化も大切にしていきたいです。
<Valextra>として今後の展望のようなものがあるなら最後に教えてもらえますか。
ルゥジョー:ブランド名に「EXTRA」とあるように常に既存の枠組みを超えて、最上級に挑み続けたいです。それは技術的なことだけではなく、カスタマーサービスにおいてもです。日本では20を超える店舗で<Valextra>を展開させてもらっていますが、お客さまにしっかりと寄り添うためにもさらに増やしていこうとは思っていません。<Valextra>には時代のニーズに応えてアップデートしてきたプロダクトも数多く存在します。<Valextra>の哲学とフィットするのであれば、これからも全世界のお客さまの要望や声を積極的に汲み取っていきたいと思っています。
プロフィール

グザヴィエ・ルゥジョー
ヴァレクストラ 最高経営責任者(CEO)。ラグジュアリーのプレタポルテ、シューズ、アクセサリー分野において20年以上のキャリアを持つ。2021年にヴァレクストラのCEOに就任し、ミラノに根ざすブランドのレガシーを受け継ぎながら、「美を構築する」という理念のもと、クラフツマンシップ、建築的な造形美、現代的なラグジュアリーのあり方を追求。現職以前はスマイソンのCEOを務めたほか、ロロ・ピアーナ、レミーマルタン、セルジオ・ロッシ、ヴァレクストラにて上級職を歴任。
- Text : Akinori Mukaino(BARK IN STYLE)
- Edit : Y.O(QUI)
- Edit & Interview : Yusuke Soejima(QUI)