LOEWE 2026年秋冬コレクション──クラフトを“遊び”へと解き放つ、終わりなきものづくりの実験
今季の重要なキーワード“遊び”を単なるムードとして受け取ると、コレクションの意図は十分に伝わらないだろう。むしろ“遊び”が指し示すものはクラフトという概念そのものをどのように更新するかという問いに近い。新クリエイティブ ディレクターのジャック・マッコローとラザロ・ヘルナンデスが<LOEWE>で2シーズン目に示したのは、ブランドの核であるクラフトマンシップを実験的なプロセスとして扱う態度だった。

ショー空間では、ドイツ・ケルンを拠点に活動するアーティスト、コジマ・フォン・ボニンとの協働が強い印象を残した。ヤドカリやタコ、ブルドッグ、セントバーナードといった彼女の作品に繰り返し登場する動物たちは、巨大なシューズボックスの上に座り、観客と同じようにランウェイを見守る存在として配置された。彼らは展示物でありながら観客でもあるという二重の役割を担い、ショーという空間の中で見る者と見られるものの関係を曖昧にする。このユーモラスでどこか不穏な動物たちは、彼女の作品に通底する皮肉と批評性を体現する存在でもある。衣服の裏地には彼女のファウンドファブリックが使われ、光沢のあるラテックスの表面には花柄やギンガムが手描きで再現されるなど、アートと衣服の関係は舞台装置のレベルにとどまらず、コレクションそのものに組み込まれている。

<LOEWE>は長くレザーを中心とする職人技によって価値を築いてきたブランドだ。今季のコレクションでは、そのクラフトは完成度の高さを誇示するものではなく、試行錯誤の過程そのものとして扱われている。デザイナー自身が語るように、ものづくりとは知的でプロセス志向の営みであり、その核心には遊び心がある。結果よりも、そこに至るまでの過程が重要であるという姿勢は、今回のコレクションの素材操作や構造実験の多くに表れている。
象徴的なのがラテックスを用いた衣服だ。レースやリボンをあしらったスリップドレスやパジャマトップは、まず衣服そのものではなく“型”として再解釈され、そのレプリカが3Dプリントされたのち、光沢を帯びたラテックスを流し込んで成形される。完成した衣服は布の柔らかさを思わせるフォルムを保ちながら、同時に粘性を感じさせる工業素材の質感を露わにする。ここで行われているのは衣服がどのような工程で成立しているのかをいったん分解し、それを別の物質で再構築する操作である。布、縫製、ドレープといった衣服の要素は一度“型”として抽出され、異なる物質へと転換される。その結果、見た目には衣服でありながら触覚的にはまったく異なる存在が生まれる。このズレが、衣服というもののリアリティを揺さぶる。

同様の発想はコートにも見られる。袖やポケット、留め具といった構成要素が細かく型取りされ、ラテックスの表面にだまし絵のような立体感を作り出している。遠目には伝統的なコートに見えるが、近づくとそれが一枚の素材として成形されていることに気づく。衣服の構造を一度抽象化し、それを別の素材で再提示するこの手法は、衣服の“つくられ方”そのものを可視化する行為でもある。

今季のコレクションでは、衣服が布という前提から離れ、より広い意味での物質として扱われている点も印象的だ。ラテックスのドレスは液体が固まったかのような質感を持ち、一方でパーカやスカーフは空気を含んだインフレータブルなボリュームへと変換されている。レーザーカットと接着による工業的プロセスによって密閉された構造は、衣服というより空気の容器のようにも見える。衣服は固体として存在するものという前提を離れ、液体や空気といった異なる物質状態を想起させるものへと拡張されている。

<LOEWE>にとってレザーはブランドの基盤であるが、今季のコレクションではそのレザーも従来の役割から大きく逸脱している。タータン柄のセーターやドレスは実際には極細のレザー糸で編まれており、ニットに見えるテクスチャーがレザーによって再現されている。ラッカー仕上げのレザーをループ状に加工したブークレコートも同様に、本来はウールが担う質感を別の素材で再構築する試みと言える。パステル染めのシアリングで仕立てられたコートやコーデュロイパンツは、プードルのトリミング技術を用いてグラデーションに刈り込まれており、仕上げの工程そのものが視覚的な装飾として前面に現れている。素材の役割を入れ替えながら、その可能性を拡張する姿勢は、<LOEWE>のクラフトを伝統の再現ではなく研究対象として扱う態度を示している。

バッグのラインアップにもブランドの節目が反映されている。2026年に創業180周年を迎える<LOEWE>は、その節目を記念する「Amazona 180」を発表した。フォン・ボニンの彫刻を思わせる犬やヤドカリのチャームが添えられたこのバッグは、従来よりも大きなダッフルサイズへと拡張されている。一方で「Flamenco Clutch」はブルーとホワイトのモザイクを思わせるパターンで再解釈され、ブランドのシグネチャーであるレザーのインターシャ技法が改めて強調された。さらに今季は新作の「Whisker Bag」が登場し、構築的なトップと柔らかくドレープするボディという対照的な要素を組み合わせることで、ハードとソフトのバランスを探るデザインが提示された。
ジャック・マッコロー、ラザロ・ヘルナンデス
今季を語るうえで避けて通れないのが、ジョナサン・アンダーソンの後を受けた新体制としての位置づけだ。ジョナサンが築いた<LOEWE>は、クラフトとアートを結びつけるコンセプチュアルなブランドとして強いイメージを確立していた。ジャックとラザロはその路線を否定しているわけではないが、彼らの関心はより制作過程そのものに向けられているように見える。完成されたコンセプトを打ち出すのではなく、素材や構造を試行錯誤するプロセスそのものをコレクションの中心に据える。その姿勢を象徴するように、彼らはゲーム理論の言葉を引用している。「有限のゲームは勝つために行われる。無限のゲームは遊び続けるために行われる。」この言葉が示唆するように、今回の<LOEWE>が見せたのは、可能性を更新し続けるためのクラフトだった。2026年秋冬コレクションは、その“遊び”のルールを敷いたシーズンだと言えるだろう。今後そのルールの上にどのようなコレクションが繰り広げられるのか今から楽しみでならない。
LOEWE 2026AW COLLECTION RUNWAY
LOEWE
Web:https://www.loewe.com/
Instagram:https://www.instagram.com/loewe/
- All Photo : LOEWE
- Edit & Text : Yukako Musha(QUI)


