鴨居は1928年石川県金沢市に生まれたが、本籍地が父の故郷である長崎県平戸市田平町であることから、同館では長崎ゆかりの画家としてたびたび顕彰されてきた。今回の展覧会は、2006年以来、実に19年ぶりの開催となる。

展示は全6章構成。ギャンブルに興じる男たちを描いた初期の群像表現、自画像を通して自己と向き合った作品群、スペイン時代に生まれた村人たちの肖像、苦悩の末にたどり着いた女性像、唯一の風景モティーフとして描かれた教会、さらには挿絵を手がけたユーモアあふれる『弥縫録』まで──鴨居の画業を時間軸とともにたどることができる。

鴨居玲《サイコロ》1969年頃、長崎県美術館蔵

鴨居玲《勲章》1985年、笠間日動美術館蔵

なかでも注目は、1971年からスペイン・ラ・マンチャ地方で過ごした日々に生まれた《私の村の酔っぱらい》をはじめとする一連の作品。酔っ払い、踊る人々、老人や傷痍軍人といった村人たちの姿には、人生の哀しみと刹那的な喜びが共存し、生きることのリアリティが立ち上がってくる。鴨居芸術の頂点とも呼ばれるこの時代の作品群は、見る者の心を静かに揺らす。

鴨居玲《私の村の酔っぱらい(A)》1973年、笠間日動美術館蔵

もうひとつ印象的なのが、ヨーロッパから帰国後に描かれた女性像の数々だ。それまでの内面をえぐるような表現から一転、どこか神性すら漂うこれらの作品では、人間の姿が観念的なフォルムとして描かれている。本人は「裸婦が描けない」と苦悩を漏らしたというが、その葛藤もまた画面に滲む。

鴨居玲《白い人》1980年、ひろしま美術館蔵

そして、人間以外を描いた唯一の主題が教会だった。カトリック教国であるスペインやフランスで繰り返し描かれた建築は、扉も窓もない閉ざされた姿で描かれている。鴨居自身、「なぜ自分が無宗教であるかという問いから始まった」と語っており、その疑問は、どこにもすがれない孤独として画面に沈んでいるようにも見える。若い頃に洗礼を受け、信仰を持って生きた姉・羊子との対比のなかで、信じる対象を持てなかった弟の姿が、無言の構造物としてそこにある。

鴨居玲《教会》1978年、石川県立美術館蔵

鴨居玲の絵には、今の私たちに通じるものがある。描かれているのは過去ではなく、いまを生きる感情だ。

【開催情報】
展覧会名：没後40年　鴨居玲展　見えないものを描く
会期：2025年11月22日（土）～2026年2月1日（日）
会場：長崎県美術館 企画展示室
開館時間：10:00～20:00（1月2日・3日は18:00まで）※最終入場は閉館の30分前まで
休館日：11月25日（火）、12月8日（月）、12月22日（月）、12月29日（月）～2026年1月1日（元日）、1月13日（火）、1月26日（月）
観覧料：一般1,300円（1,100円）、大学生・70歳以上1,100円（900円）、高校生以下無料
※（ ）内は前売りおよび15名以上の団体料金
※身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、障害福祉サービス受給者証、地域相談支援受給者証、特定疾患医療受給者証、特定医療費（指定難病）医療受給者証、先天性血液凝固因子障害等医療受給者証、小児慢性特定疾病医療受給者証の提示者および介護者1名は5割減額
※会期中、本展観覧券でコレクション展にも入場可
※前売券は10月31日（金）～11月21日（金）まで販売
URL：https://www.nagasaki-museum.jp/

◆前売券
販売期間：10月31日（金）～11月21日（金）
販 売 所：チケットぴあ(Pコード687－355)、ローソンチケット（Lコード84290）、セブンチケット（セブン-イレブン）、CNプレイガイド（ファミリーマート）、イープラス（eplus.jp）、好文堂書店、紀伊國屋書店 長崎店、メトロ書店 長崎本店、くさの書店チトセピア店、長崎県美術館