白に隠された秘密を纏う、トーマス・マイレンダー「PEROPERO(The White Show)」がAkio Nagasawa Gallery Ginzaで開催
本展は、セルビアで収集された10×15cmの絵葉書サイズ写真群をもとに、大判のシルクスクリーンへと再構成した作品群によって展開される。作品は不可視の白い特殊インクで全面が覆われ、観客の介入によって像が立ち上がる仕掛けだという。液体との接触で可視化される“白”は、イメージに触れる行為そのものを呼び込み、見る者の身体と展示空間を巻き込む。

Reference image (not actual exhibition work), ©︎Thomas Mailaender, Courtesy of Akio Nagasawa Gallery
タイトル「PEROPERO」は“舐める”を想起させる日本語のオノマトペに由来する。同名の作品集『PEROPERO』も同時刊行され、こちらも特殊インクで覆われたページが採用されている。マイレンダーは、展覧会と書籍を“(逸脱的な)行為によって活性化され、触れられ、露わになるオブジェ”と位置づける。イメージに対する独自の《アプロプリエーション(引⽤・転⽤主義)》の実験が、鑑賞の所作にまで拡張される構成だ。

Reference image (not actual exhibition work), ©︎Thomas Mailaender, Courtesy of Akio Nagasawa Gallery

Reference image (not actual exhibition work), ©︎Thomas Mailaender, Courtesy of Akio Nagasawa Gallery

Reference image (not actual exhibition work), ©︎Thomas Mailaender, Courtesy of Akio Nagasawa Gallery

会場では、1950年代から2000年代に流通した感光紙の箱を模したセラミック作品も発表される。写真の黎明期に開発された“エナメルへの写真転写”技法を用いており、像は陶器表面に転写され高温焼成で定着する。光・湿気・酸化に強く「永遠」とも称されるエナメルは、葬送芸術のポートレートにも用いられてきた技法だという。感光紙を収める“箱”そのものにイメージを転写することで、写真の脆弱性とイメージの永続性が密やかな緊張として立ち現れる。見る位置や距離で意味の層がずれ、時にユーモアとしても読み替えられるだろう。
マルセイユ生まれのマイレンダーは、写真を軸にセラミック、サイアノタイプ、コラージュなど多様なメディアで、インターネットや古書・蚤の市から蒐集したイメージを再構築してきた。《The Fun Archaeology》に代表されるアーカイブ的実践(イメージを収集・再構築する手法)は、現代文化の滑稽さと詩情を際立たせる。本展は、その方法が“触れる行為”にまで及ぶ最新章といえる。

Reference image (not actual exhibition work), ©︎Thomas Mailaender, Courtesy of Akio Nagasawa Gallery

Reference image (not actual exhibition work), ©︎Thomas Mailaender, Courtesy of Akio Nagasawa Gallery

Reference image (not actual exhibition work), ©︎Thomas Mailaender, Courtesy of Akio Nagasawa Gallery
白に覆われた像と向き合うことで、観客は気づかぬうちに、作品と関係を持ち始めている。
それは、見ることと触れることの境界が曖昧になる瞬間だ。
【プロフィール】
トーマス・マイレンダー(Thomas Mailaender)
1979年フランス・マルセイユ生まれ。マルセイユとパリを拠点に活動。写真を中心に多様なメディアで制作し、《アプロプリエーション》の実践で知られる。近年の個展に、ヨーロッパ写真美術館(MEP、パリ)での「Les Belles Images」(2024年)、NRWフォーラム(デュッセルドルフ)での回顧展「The Fun Archive」(2017年)。サンフランシスコ近代美術館、テート・モダン、サーチ・ギャラリー、パレ・ド・トーキョー、アルル国際写真フェスティバルなどで発表。
・オフィシャルサイト
・Instagram
【開催情報】
展覧会名:トーマス・マイレンダー「PEROPERO(The White Show)」
会期:2025年9月11日(木)〜10月4日(土)
会場:Akio Nagasawa Gallery Ginza(〒104-0061 東京都中央区銀座4-9-5 銀昭ビル6F)
開館時間:火曜〜土曜 11:00−19:00(※土曜 13:00−14:00 CLOSED)
休館日:日曜、月曜、祝日/臨時休廊:9月18日(木)〜20日(土)
観覧料:無料
問い合わせ:TEL 03-6264-3670
URL:https://www.akionagasawa.com/jp/exhibition/peropero/
関連書籍:トーマス・マイレンダー『PEROPERO』(Akio Nagasawa Publishing、限定500部、価格未定。会場およびオンラインショップにて販売予定)
※画像は全て参考イメージとなり、実際の展⽰作品とは異なる