QUI

FEATURE

iD 泉澤祐希 × イリエナナコ − THE MULTISENSE vol.1

May 19, 2021
服が売れない時代。その一方で服作りのハードルは低くなり、数多のブランドが泡のように生まれては消えてゆく。ファッションの価値が揺らぐいま、ファッションに本気で取り組むアーティストは何を考えているのか。ファッションデザインとは異なるバックグラウンドを持っている彼らだからこそ生み出せる新たな価値に、自身も映画監督やコピーライターとして活動しながらワンピースブランド<瞬殺の国のワンピース>を手掛けるイリエナナコが迫る新連載“THE MULTISENSE”。

初回のゲストは6歳から子役として活動を始め、その高い演技力に定評のある俳優、泉澤祐希。XLARGE(エクストララージ)デザイナーの土井翔太とともに手掛けるファッションブランド<iD(アイディー)>について。

iD 泉澤祐希 × イリエナナコ − THE MULTISENSE vol.1

May 19, 2021 - FEATURE
服が売れない時代。その一方で服作りのハードルは低くなり、数多のブランドが泡のように生まれては消えてゆく。ファッションの価値が揺らぐいま、ファッションに本気で取り組むアーティストは何を考えているのか。ファッションデザインとは異なるバックグラウンドを持っている彼らだからこそ生み出せる新たな価値に、自身も映画監督やコピーライターとして活動しながらワンピースブランド<瞬殺の国のワンピース>を手掛けるイリエナナコが迫る新連載“THE MULTISENSE”。

初回のゲストは6歳から子役として活動を始め、その高い演技力に定評のある俳優、泉澤祐希。XLARGE(エクストララージ)デザイナーの土井翔太とともに手掛けるファッションブランド<iD(アイディー)>について。

ある偶然の出会いから始まったブランド<iD>

イリエナナコ(以下、イリエ):泉澤さんがご自身のブランド<iD>を立ち上げたのはいつですか?

泉澤祐希(以下、泉澤):動き出したのは一昨年くらいで、去年の自分の誕生日だった2020年6月11日に販売をスタートしました。

イリエ:意外とまだそんなに経ってないんですね。ブランドを始めたきっかけはなんですか?

泉澤:<iD>には相方がいて、XLARGEというストリートブランドのデザイナーをやっている土井翔太くんと一緒に始めたんです。あるとき翔太くんからインスタで「もしよかったらXLARGEの服を着てくれませんか?」というDMをもらったことをきっかけに仲良くなって。

イリエ:Instagramで。2人はもともと知り合いだったわけではなかったんですね。

泉澤:そうです。ただ、初めて会った瞬間から意気投合しました(笑)。「実は俺、服を作りたいんです」という話をして、自分のなかに「こういうものが着たい」という明確なイメージがあったのでそれを伝えたんです。そしたらすぐに翔太くんがデザインしてくれて。「俺がやりたいのはこれです!」ということで<iD>が始まりました。

イリエ:そういう出会い、めちゃくちゃ感動しますよね。<iD>というブランド名の由来はなんですか?

泉澤:ブランド名は翔太くんが提案してくれて。単純に泉澤と土井の頭文字を取ったっていうのもあるし、時代にもマッチしているかなと思って即決でした。

イリエ:お2人はそれぞれどういう役割を担当しているんでしょうか?

泉澤:ブランドの基本的な部分は、何事も2人で決めています。制作に関しては自分の中で浮かんだイメージを画像や絵で伝えて、それを翔太くんがグラフィックに起こしてくれるという流れですね。翔太くんは本当に仕事が早くて、その当日か翌日にはレスポンスをくれて「そうそう、これこれ!」って(笑)。

イリエ:コラージュっぽいものとか、グラフィティっぽいものとかいろいろなデザインがありますが、そうやって泉澤さんの頭の中にあるものをカタチにしていっているんですね。アイテムのラインナップは最初からある程度決めていたんですか?

泉澤:Tシャツから始めたので「Tシャツだけでもいいんじゃない?」という話もしていたんですけど、だんだん欲がでてきていろんなアイテムを作るようになりました。パターンも自分たちでやって、形も好きなものがつくれたらアツいなと。

イリエ:いまは役者の仕事と並行して洋服づくりをされていますが、アイテムの展開日などを設定してそこに向けて進行しているのでしょうか?

泉澤:いえ、イメージが降りてきたらすぐ翔太くんに連絡をして……という感じですごく自由に進めています。ただ思い付きすぎて、グラフィックのデザインがめちゃめちゃ溜まってきてしまっているんです(笑)。

イリエ:「いまのものを、いま出さないと」という感じですよね。私のやっている<瞬殺の国のワンピース>というブランドも立ち上げのときはアパレル業界のリズムにあわせてSSとAWで出していこうとしていたのですが、チームで話しあってそこに合わせるのはやめました。コンセプトがあるブランドなので、そのスケジュールに囚われなくてもいいんじゃないかって。

泉澤:そうですね。自分自身も展示会とかで半年以上先の服を見てもよく分かんないということがあるので、作ったらすぐ出したい、すぐ着たいんです。

 

子どもの頃から持ち続けたファッションへの想い

イリエ:泉澤さんは昔から洋服やファッションがお好きだったんですか?

泉澤:兄の影響もあって、小さな頃から好きでしたね。

イリエ:服のテイストや趣味は昔からあまり変わっていませんか?

泉澤:基本は一緒です。でも、学生時代に比べたらキレイにはなりました。ヒップホップが好きなので、高校生の頃はラッパーに憧れてパンツは腰の下ではいていました(笑)。

イリエ:実は私もエミネムオタクで、歌詞を全部書き出していたんです。

泉澤:えー!!

イリエ:エミネムを歌えるJKだったので(笑)。泉澤さんはそもそも、昔から服作りをしたいという想いがあったんですか?

泉澤:ありました。中学生の頃からずっと洋服屋をやりたくて。その気持ちが強かったので、大学も経営学部に進みました。

イリエ:本気ですね。

泉澤:本当はインポートもののセレクトショップをやりたかったのですが、現実的に考えて「潰れるな…」と。それでいまの時代の流れだと、オンラインショップがいいかもなと思うようになったんです。

イリエ:その頃からいまのように、役者業と同時進行でやろうとしていたのでしょうか?それとも、もう服の方に進もうと?

泉澤:最初は服の方へ進もうと思っていました。だから中学や高校の時はあまり役者の仕事はしていなかったんです。でもある時、事務所の社長に進路のことを相談したら、「役者をやりながらでも服はできるじゃないか」と言われて。役者である程度作品に出るようになってからの方が、洋服を知ってもらえる機会は増えるぞと。

イリエ:素晴らしい助言ですね(笑)。いま実際にやってみて、両方やることが正解だと感じていますか?

泉澤:正直なところ、役者を続けていなかったらいまのように自分の服が売れていなかったかもしれないなとは思います。

イリエ:でも難しいのは、服作りとか役者業とかいくつかのことをやっていると、1本に120%を注ぐ人たちとはまた少し違うじゃないですか。その部分についてはどう思っていますか?

泉澤:あまり気にしたことはないですね。<iD>は2人とも「好きなことをやろう」「やりたいことは全部やろう」というスタンスなので、役者をやることも重荷にはなっていなくて。イリエさんは(ファッションの他の仕事を重荷に)感じますか?

イリエ:私は、いまのスタンスの方が逆に振り切りやすいなと思っています。もちろん売れなければいけないのですが、自分の好きな世界を突き止めよういう方がやりやすいというか、むしろ研ぎ澄まされる。

泉澤:自分もあまり「売れるものを作る」という意識は無いんですよね。自分たちの世界観、頭の中にあるものをグラフィックに描写していく、脳内公表みたいな感じなので(笑)。

イリエ:めちゃわかります。私の活動、全部が脳内公表です(笑)。身体の中をペロッと出して、こんな状態ですみたいな。

 

俳優と服づくりを両立する理由

イリエ:(iDの服は)ドラマや映画の撮影現場に着て行くこともあるんですか?

泉澤:毎日着て行っています(笑)。自分たちが着たいものを作っているので。

イリエ:着ていくことで自分自身が広告塔になるし、話の始まりになりますよね。

泉澤:現場で衣装さんとかが興味を持ってくれることもあって、そういうのは嬉しいですね。

イリエ:役者の仕事でいろんな人に会ったり、いろんなところを訪れたりすることも多いと思うんですけど、そういうことが服づくりに反映されることも?

泉澤:わりと影響されているかもしれないですね。神社へ行ったときに「この木の感じをデザインに入れられないかな」とか、銭湯へ行ったときに「この銭湯の服作りたいな」とか。

イリエ:そうなんですね。……ちなみに私は全く影響されません(笑)。いま世の中の流れとしてはどちらかというとシンプルでモノトーンな服が主流ですけど、<瞬殺の国のワンピース>に関しては全部無視しようと。

泉澤:なるほど(笑)。

イリエ:<iD>の立ち上げからそろそろ1年が経ちますが、ブランドへの反響は想定と比べていかがですか?

泉澤:思った以上にいいです。まわりの俳優の友人も着てくれたりするので、そういう部分でも有利なんですよね。

イリエ:事務所の社長は正しかった(笑)。でも他の人から、そこに対する“やっかみ”みたいなものってありませんか?

泉澤:そういうのは気にならないというか。自分たちがやっていることはファッションっていうよりも、好きなことの延長にあるものなんです。だからもし俳優としての人気だけで売れてると言われても、「すんません。そんなつもりじゃなかったんですよね」ってぐらいの話で(笑)。

イリエ:泉澤さんは俳優とファッションブランドという二本柱で苦になることがないんですね。

泉澤:まったくないですね。自分の中で洋服というものが大きな存在だったんで、服をつくれるということがプラスにしかなっていないです。毎日<iD>で過ごしているから、着る服にも迷わなくなりましたし(笑)。

イリエ:ちなみに洋服の他に好きなものはありますか?

泉澤:ゲームです。休みのときは家から出ないで、起きた瞬間にコントローラーをつけて、ゲームをやって、ごはんを食べながらゲームをやって…みたいな感じです(笑)。

イリエ:ストイック(笑)。そのゲームのテイストを服の方に取り込んでみたいと考えることはありますか?

泉澤:もちろんありますよ。でもそれがなかなか難しい……。

イリエ:自分のブランドなので、自分の好きなものをぶち込んでいきたいですよね。私も次のシーズンはコラボしたい相手がいるんです。わたしが大好きな工具メーカーのマキタさんなんですけど。マキタさんのワンピースを作りたいなと。

泉澤:すごいのができそうですね(笑)。あと僕は役者の要素もグラフィックに投影したいなと思っているんです。

イリエ:え、どういうことですか?

泉澤:役の時と普段の時の二面性というか。「何でこういう風になれるんだろう?」という部分を表現したくて。これもなんとなくのイメージはあるんですけど、まだうまくまとまらない状態です。

イリエ:では最後に、<iD>が目指すところを教えてください。

泉澤:海外でも販売したいですね。あとは、好きなラッパーの方に着てもらえたらうれしいな。海外だったら、ウィズ・カリファとかトラヴィス・スコットとか。夢のまた夢ですけど。

Profile _

左:泉澤祐希(いずみさわ・ゆうき)
千葉県出身。2014年に主演を務めた「東京が戦場になった日」(NHK)以降、幅広く活躍。主な映画出演作に『過ぐる日のやまねこ』(14)、『君と100回目の恋』(17)、『サバイバルファミリー』(17)、『マスカレード・ホテル』(19)、『今日から俺は!!劇場版』(20) 、テレビドラマでは「ひよっこ」(17)、「わたし、定時で帰ります」(19)、「少年寅次郎」(19)「青のSP-学校内警察・嶋田隆平-」(21)などがある。

Instagram Twitter iD

右:イリエナナコ
東京生まれ。コピーライティング、クリエイティブディレクション等の仕事のほか、映画制作、絵の作品「図」シリーズの発表、言葉の作品の展示等、作家活動を行なっている。映画監督作に『愛しのダディー殺害計画』など。2021SSよりワンピースブランド<瞬殺の国のワンピース>スタート。

Instagram Twitter www.irienanako.com 瞬殺の国のワンピース

 


 

Information

泉澤祐希さん出演映画『マスカレード・ナイト』9月17日(金)公開予定

潜入捜査官×ホテルマン 正反対のバディが再びスクリーンに!

『マスカレード・ナイト』公式サイト

  • Photography : Kenta Karima
  • Styling : Yuki Izumisawa(iD)
  • Hair&Make-up : Akira Nagano
  • Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
  • Interview : Nanako irie
  • Text : Sayaka Yabe
  • Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)

NEW ARRIVALS

Recommend