タカ・イシイギャラリー京都にてマルタン・マルジェラの美術作品による個展が開催
本展は、東京の九段ハウスで同時期に開催される個展とあわせて、作家にとって日本で初めての展覧会となる。マルジェラは2009年以降、積極的に、自身の視覚表現の射程をファッションの外部へ拡張させてきた。本展では、2018年から2025年にかけて制作された約14点の近作を発表する。
マルジェラによる実践の根底にあるのは、人間の身体への継続的な探究。そこで身体は、視覚的体制と触覚的体制というふたつの競合的な枠組みが収斂する、歴史的な負荷を帯びた場として位置付けられる。彼の作品は、顕在化と秘匿の狭間、露見と保護の狭間の緊張関係、つまり古典彫刻から現代美術に至るまで身体表象を形成してきた力学を再活性化させるものなのだ。

Martin Margiela, “TOPS & BOTTOMS (Faun / top)”, 2023, composite plaster, 117 x 39 x 39 cm
© Martin Margiela. Courtesy of Bernier/Eliades
Photo: “We Document Art”
《Tops & Bottoms》と題された連作では、ルーヴル美術館に収蔵されている大理石彫刻に基づいて、規範的な裸像が現代の下着の形状で切り出されている。下着の本来の機能を反転させ、その内部にあるものを露見させることで、これらの彫刻は魅惑と疎外の狭間に緊張を生み出す。
カーペットやシリコンといった素材が巧みに用いられることで、本展の各作品は特徴的なテクスチャーを帯びており、それが接触の感覚をより活性化させる。この枠組みにおいて、フェティシズムはコンセプチュアルな戦略として機能している。そこでは、身体の断片や物質的な痕跡は欲望や記憶の場となっており、それによって私たちの注意の対象は、生きた身体から物質の残余へと移行する。

Front: Martin Margiela, “BARRIER Sculpture (white)”, 2024 polypropylene, synthetic fur, 100 x 150 x 150 cm
Back: Martin Margiela, “BARRIER Mural (white)”, 2024, polypropylene, synthetic fur, 100 x 150 x 30 cm
© Martin Margiela. Courtesy of Bernier/Eliades
Photo: “We Document Art”
シュルレアリスムやポップ・アートといった歴史的なアートの潮流と共鳴するように、マルジェラは日常的な物体に特別な関心を寄せ、鋭い観察眼に基づいて、日々の生活の中にある素材に取り組んできた。《Barrier Sculpture》では、都市の環境で一般的に見られる保護バリケードの形状が用いられているが、奇妙なことに、それはフェイクファーで覆われている。こうした再文脈化のプロセスによって、それぞれの物体は通常の機能を超えて引き上げられ、詩的で不可解なアーティファクトとなる。この取り組みにおいてファウンド・オブジェクトは、潜在している可能性を顕在化させるレディメイドとして扱われている。マルジェラによるミニマルかつ深遠な介入は、ありふれたものをその慎ましい起源の痕跡を残したまま異様なものに作り変えることで、丹念な注視や循環的な更新の実践を促す。一連の作品が示すように、物体の生は直線的でも有限でもない。それは常に、新たな文脈に置かれることで、変異と再活性化の可能性に開かれている。
断片化は、マルジェラの全作品を通じて反復的に現れる特徴だが、それには常に不完全性の感覚が伴っており、そこから両義性と不可解性に満ちた様々なナラティブが立ち上がる。展示空間の入口近く、石のテーブルに置かれた《Black Nail Polish》は、爪のような形をした、ニンフェンブルク磁器製の焼成用具5点で構成されている。しかし焼成から生み出されるはずの物体は、明らかに不在のまま。
同様に、組み立て前のプラモデルを思わせる《Kit (Black)》が促すのは、まだ実現されていない完成形を想像によって投影することだ。マルジェラの見えないもの、差し控えられたものへの継続的な取り組みは、鑑賞者を不完全性や沈黙に、そして存在と空虚の狭間の捉えがたい境界に直面させる。この文脈において、秘匿や不在が帯びるのは否定性ではなく、作品を想定外の共振や不意の顕在化へと開く、生成的な力として働くのだ。
開催概要
会期:2026年4月17日(金)-5月16日(土)
会場:タカ・イシイギャラリー 京都
予約フォーム:https://airrsv.net/takaishiigallerykyoto/calendar
※要予約。
マルタン・マルジェラについて
1957年ベルギー・ルーヴェン生まれ。ハッセルトのシントルーカス芸術学校で学んだのち、1977年にアントワープ王立芸術学院に入学。現在はフランスとベルギーを拠点に活動。主な個展に、Bernier/Eliades(アテネ、ブリュッセル、2024年)、ロッテミュージアム(ソウル、2022年)、MWOODS(北京、2022年)、ラファイエット・アンティシパシオン(パリ、2021年)など。主なグループ展として「Fashion & Interiors. A Gendered Affair.」モード博物館(アントワープ、2025年)、「The City Collection Antwerp: In/Sight」M HKA(アントワープ、2024年)、「Echo. Wrapped in Memory」モード博物館(アントワープ、2023年)、「L’homme qui marche / Verkorperung des sperrigen」クンストハレ・ビーレフェルト(2019年)など。