長嶋由季 個展「太陽が眠るとき、月は踊りだす」、AKIINOUEにて開催中
長嶋由季は、17世紀のイタリアで発展したモノタイプという版画技法を用い、繊細かつ力強い画面を創出する作家だ。版に直接絵具をのせて転写するモノタイプは、同じ作品を複製できない——その一度きりの表現を通して、偶然と必然、記憶と身体の痕跡が重なり合う。今回の展覧会では、新作モノタイプペインティング約20点が披露される。

Installation view: When the sun sleeps, the moon dances, AKIINOUE, Tokyo, Japan, 2025 ©Yuki Nagashima Photo by Ken Kato Courtesy of AKIINOUE

Installation view: When the sun sleeps, the moon dances, AKIINOUE, Tokyo, Japan, 2025 ©Yuki Nagashima Photo by Ken Kato Courtesy of AKIINOUE
本展タイトル「太陽が眠るとき、月は踊りだす」は、もし太陽が眠ったとしたら、月は踊っているかもしれない——という長嶋の空想から生まれた。彼女は、手の届かない奇跡の連続としてこの世界を俯瞰し、絵を描くことでそれを「解釈」している。

Installation view: When the sun sleeps, the moon dances, AKIINOUE, Tokyo, Japan, 2025 ©Yuki Nagashima Photo by Ken Kato Courtesy of AKIINOUE

Installation view: When the sun sleeps, the moon dances, AKIINOUE, Tokyo, Japan, 2025 ©Yuki Nagashima Photo by Ken Kato Courtesy of AKIINOUE
本展に寄せた日本美術史研究者、学芸員の春木晶子氏のテキストでは、作品に込められた感覚と技法の本質が丁寧に語られている。
作品には、「あなたは満月」「私は地球」「おやすみ、太陽」など、宇宙と個を重ねる詩的なタイトルが並び、私たちの奥底にある記憶や傷をそっと呼び起こす。モノタイプでは、絵の具を塗り重ね、転写を繰り返す過程すら画面に刻まれる。取り消せない行為の蓄積と、それに対する静かな受容が、画面に定着している。

Installation view: When the sun sleeps, the moon dances, AKIINOUE, Tokyo, Japan, 2025 ©Yuki Nagashima Photo by Ken Kato Courtesy of AKIINOUE
人並みの幸福を望みながら、それだけではもの足りない——そんな現代的な欲望と矛盾を映し出す長嶋の作品は、観る者の感情を揺さぶり、生き方そのものを問うてくる。
この春開廊したAKIINOUEでの本展は、長嶋にとっても初の本格的な個展。静かで深い問いに向き合う時間を、ぜひ体感してほしい。
【作家プロフィール】
長嶋由季(1989年東京生まれ)。多摩美術大学大学院修了後、アメリカ・Zea Mays Printmaking、フィンランド・Ratamo Printmaking and Photography Centreなど国内外のレジデンスに参加。作品は国立台湾美術館、ユヴァスキュラ市美術館などに収蔵。
Instagram:https://www.instagram.com/yukinagashima/
【開催情報】
展覧会名:「太陽が眠るとき、月は踊りだす」
会期:2025年7月12日(土)〜8月9日(土)
会場:AKIINOUE(東京都渋谷区代官山町2−3 THE ROWS 2F)
開館時間:11:00〜19:00
休廊日:日曜・月曜・祝日
観覧料:無料
問い合わせ:info@akiinoue.com
公式サイト:akiinoue.com
Instagram:https://www.instagram.com/akiinoue_tokyo