Rick Owens 2027年春夏メンズコレクション──脅威を、どう処理するのか。
「脅威」という言葉から始まるショー
「STONE」に寄せたステートメントを、<Rick Owens>は次の一文から始めている。
WE ARE ALL PROCESSING MENACE.
SOME OF US ARM.
SOME OF US TRAIN.
SOME OF US TURN AWAY.
SOME OF US TURN TO STONE
「私たちは皆、脅威を処理している。武装する者もいれば、鍛える者もいる。目を背ける者もいれば、石になる者もいる。」
<Rick Owens>は、今季の世界を「MENACE(脅威)」という言葉から語り始めた。
ここでいう「脅威」が何を指すのかは具体的には説明されていない。戦争や気候危機、あるいは現代社会に漂う漠然とした不安──さまざまな解釈が可能だが、そのどれかに限定することもない。むしろ「脅威」は、現代を生きる私たちがそれぞれ異なるかたちで向き合っている状況そのものを指しているようにも思える。
興味深いのは、その後に続く言葉だ。「脅威」に対する一つの正解を示すのではなく、「武装する」「鍛える」「目を背ける」「石になる」と、人間の異なる応答を並列に提示する。そこに優劣や善悪はない。ただ、脅威に直面したとき、人はそれぞれ異なる振る舞いを選ぶという事実だけが示されている。
では、「STONE」は、この「脅威」をどのように描いたのだろうか。
「STONE」を形づくる衣服
ショーに並んだ LOOK の巨大なショルダーや張り出したシルエットは、「MENACE」という言葉が持つ威圧的なニュアンスとも響き合っている。「MENACE」という言葉を受けて眺めると、それらは脅威を可視化した装いのようにも見えてくる。
しかし、ショーの記憶とともにコレクションに寄せられたステートメントを読み進めると、<Rick Owens>が繰り返し語っているのは、象徴的なイメージではなく、衣服の機能や構造についてだった。
<adidas>との協業によるCLIMACOOLシステムは、その象徴ともいえる。内蔵ファンとアイスベストを組み合わせたジャケットやショーツは、レース前にランナーの身体を効率よく冷却するために開発されたものだという。猛暑という現実に、いかに適応させるか。そのための技術が、今回のコレクションの中核に据えられていた。
また、ショー後半に登場したフォームとラテックスによるチャップスは、「テンセグリティ」という構造概念をもとに制作されている。テンセグリティとは、圧縮材と張力材が均衡を保つことで構造を成立させる考え方であり、<Rick Owens>は、人間の骨と結合組織にも共通する原理として紹介している。建築や工学の概念を引用しながら、身体そのものを一つの構造として捉えようとする試みである。
一方、レザー製エポレットを備えたコート、ジャケットや鋭いショルダーラインを持つテーラリングには、「権威と信頼の象徴」という意味が与えられている。ショーを構成する衣服は、身体の機能や構造、そして身体がまとう意味にまで目を向けながら、それぞれ異なる方法で人間の身体を描いていた。
こうしてショーを振り返ると、「MENACE」というテーマは、単に脅威をイメージとして表現するためのものではなかったことが浮かび上がってくる。<Rick Owens>が衣服を通して繰り返し提示していたのは、脅威そのものではなく、それに向き合う人間の身体だった。
世界の変化に応答する衣服
「STONE」で提示された衣服からは、<Rick Owens>が一貫して向き合っているものが見えてくる。彼の衣服は、身体を美しく見せるためだけでも、奇抜なシルエットを生み出すためだけのものでもない。身体の輪郭や、存在感を書き換えることで、その身体と世界との関係そのものを問い直そうとしている。
これまでも誇張されたショルダーやプラットフォームブーツ、身体を包み込むレザーやラテックスなど、繰り返し身体のあり方を更新するような衣服を発表してきたが、それらは造形的な実験であると同時に、人間は変化しつづける世界とどのように向き合うのかという問いを衣服によって考え続けてきた軌跡とも読むことができる。
だからこそ、「STONE」が更新したのは身体そのものではない。世界が変化したとき、人間と世界の関係を衣服によってどのように結び直すことができるのか。その方法を改めて提示したのである。
脅威を、どう処理するのか
「MENACE」は確かにコレクションの出発点となっている。しかし、<Rick Owens>が示そうとしたのは、脅威そのものを表象することではなく、その世界を人間はどのように受け止め処理していくのかという問いだった。
だからこそ、ショーリリースの冒頭には記されていたのは、この言葉だったのだ。
「WE ARE ALL PROCESSING MENACE.」
武装する者もいれば、鍛える者もいる。目を背ける者もいれば、石になる者もいる。そのどれもが、脅威を前にした人間の「処理」の仕方である。
そして「STONE」で提示された衣服もまた、その処理の方法の一つとして存在していたのではないだろうか。
衣服だけで世界を変えることはできないかもしれない。しかし、変化した世界を人間がどのように受け止め、どう向き合っていくのか。そのプロセスに働きかけることはできる。
「STONE」は、脅威という世界認識のなかで、人間はいかにその世界を処理していくのか。そして、そのプロセスにファッションはどのように関わることができるのか。そのことを問いかけたコレクションだったように思えた。
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Rick Owens
ウェブサイト:https://www.rickowens.eu/
インスタグラム:@rickowensonline
- Text : Shun Okabe(QUI)
- Edit : Charles Kawamoto(QUI)





