第29回中之島映像劇場「戦争と映像|Wars and Images」、問い直す戦争と記憶
政治学者メアリー・カルドーが「新しい戦争」と呼んだ、20世紀末のグローバリゼーションのなかで立ち上がる組織的暴力。本企画は、アイデンティティ・ポリティクスと結びつくイメージの生産や発表、保存、批評のあり方を、美術館という“記憶の装置”の視点から捉え直す試みだ。戦後80年という節目を背景に、戦争と映像をめぐる問いがあらためて浮かび上がる。
端緒のひとつとなったのは、東京国立近代美術館の企画展「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」(2025年7月15日〜10月26日開催)。1970年に米国から「無期限貸与」という形で“返還”された戦争記録画を含むコレクションを手がかりに、記録と記憶の関係を編み直した同展の射程は、本上映会にも静かに接続している。

亀井文夫、《戦ふ兵隊》、1939年、35mmフィルム、66分、国立映画アーカイブ所蔵

亀井文夫、《戦ふ兵隊》、1939年、35mmフィルム、66分、国立映画アーカイブ所蔵
第1部では、亀井文夫(1908〜1987年)に焦点を当てる。第2次上海事変を記録した《上海》(1938年)、日本占領下の北京を撮影した《北京》(1938年)、武漢攻略作戦を追った《戦ふ兵隊》(1939年)という日中戦争三部作を手がけた映画作家だ。
まず、『戦争映画の誕生』(人文書院、2025年)を上梓した大月功雄(立命館大学人文科学研究所客員研究員)による講演「戦争ドキュメンタリーの詩学―亀井文夫における沈黙の抵抗」を実施。その後、厭戦的な哀感が強いという理由で公開禁止となり、1975年まで上映されなかった《戦ふ兵隊》(1939年、66分、国立映画アーカイブ所蔵)を上映する。
“映像のない終戦”を指摘した大島渚の言葉を反芻しながら、戦時下に撮られた映像の沈黙と抵抗に耳を澄ます時間となるだろう。
第2部では、メディアに媒介された戦争をめぐる現代美術作品を上映する。幕を開けるのは、ハルーン・ファロッキ《消せない火(燃え尽きない火焔)》(1969年、25分)。ベトナム戦争を背景に、軍事技術と産業技術の関係を射抜いた本作は、映像がいかに現実と結びつき、いかに記憶とかかわるのかという問いをいまも投げかけている。

ヒト・シュタイエル、《November》、2004年、シングルチャンネル・ヴィデオ(カラー、サウンド)、25分 Image CC 4.0 Hito Steyerl Image courtesy of the Artist, Andrew Kreps Gallery, New York and Esther Schipper, Berlin Paris Seoul
続くヒト・シュタイエル《November》(2004年、25分)は、トルコにおけるクルド人独立闘争のなかで逮捕された友人アンドレア・ヴォルフの失踪と死を手がかりに、個人の記憶とグローバルに流通する“英雄”のイメージとを交差させる。さらにローレンス・アブ・ハムダン《くるまれた鋼》(2016年、21分47秒)は、2014年にヨルダン川西岸地区で起きた射殺事件を証言や音声データから検証し、観客に「聴く」ことを通して出来事へ向き合う視点をひらく。そしてエルカン・オズケン《紫のモスリン》(2018年、16分28秒)は、ISISの脅威から逃れたヤジディ教徒の女性たちとの協働から生まれ、暴力の記憶に耳を澄ます行為の重みを深く残す。

ローレンス・アブ・ハムダン、《くるまれた鋼》、2016年、シングルチャンネル・ヴィデオ(カラー、サウンド)、21分47秒 edition of 3 + 2 AP © Lawrence Abu Hamdan, courtesy Maureen Paley, London
映像は、何を映し、何を映さなかったのか。過去と現在のあいだに横たわる断絶と連続が、スクリーンの光のなかで交錯する。
【開催情報】
第29回中之島映像劇場「戦争と映像|Wars and Images」
開催日:2026年3月15日(日)
時間:[午前]第1部 11:00-12:50(開場10:45)/[午後]第2部 14:00-15:35(開場13:45)※各部入れ替え制
会場:国立国際美術館 地下1階講堂(〒530-0005 大阪市北区中之島4-2-55)
参加費:無料(各部先着100名)
整理券:当日10:00より地下1階インフォメーションにて配布(1名様につき各部1枚)
主催:国立国際美術館、国立映画アーカイブ
協賛:公益財団法人ダイキン工業現代美術振興財団
お問い合わせ:国立国際美術館 TEL:06-6447-4680(代表)
URL:https://www.nmao.go.jp/
Instagram:@nmaoJP