本展は、アーティスト・村山悟郎による東大での連続講義「芸術制作論」の書籍化を契機に企画されたキュレーション展である。

15年以上にわたる創作と研究を背景に、村山は「制作（ポイエーシス）」という概念にフォーカス。ドローイングを中心的な手法としながら、古代思想からAIと人間の創造性までを横断し、「手を動かして考える」という制作知のあり方を多層的に探る。展示には、自身の新作とともに、関連資料や他作家の作品も並び、制作という行為を再考する場が立ち上がる。

展覧会タイトルにある「アブダクション（仮説的推論）」は、論理と直感が交差する思考の運動であり、制作における「小さな創発（micro emergence）」にも通じる。本展ではそのプロセスが、視覚的にも理論的にも立ち現れる。詩作における言葉の連なりや、ドローイングにおける線の痕跡——それらが繊細かつダイナミックに可視化されていく。

ドローイングは単なる造形ではなく、身体と素材の相互作用が生む、知覚の軌跡。そしてそれは、鑑賞者の読み解きによってさらに拡張していく。生命や機械、さらには知覚そのものへと開かれた制作知の射程が、展示空間の中でどのように姿を見せるのか。見る者の想像力が試される、密度の高い時間となりそうだ。
制作が〈私〉を形づくる——そんな静かな衝撃を、ぜひ体感してほしい。

Goro Murayama Three colour systems and double pattern coupling #1, 2025, Paper-mounted canvas, Japanese paper, coloured pencils, acrylic, (H)162.0 x (W)112.0 cm, ©︎ Goro Murayama, Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art and the artist, Photo by Shu Nakagawa

Goro Murayama Three material colour systems, 2025, Iron, cobalt, titanium, acrylic on paper, (H)104.0 x (W)79.0 cm, ©︎ Goro Murayama, Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art and the artist, Photo by Shu Nakagawa

村山悟郎（むらやま・ごろう）
1983 年、東京⽣まれ。アーティスト。博⼠(美術)。絵画を学び、⽣命システムや科学哲学を理論的背景として、 ⼈間の制作⾏為（ポイエーシス）の時間性や創発性を探求している。代表作「織物絵画」に⾒られるように、⾃ ⼰組織的なプロセスやパターンを、絵画やドローイングをとおして表現している。また近年は科学者とのコラボ レーションによって、AIのパターン認識/⽣成や、⼈間のAIにたいする感性的理解を探るなど、表現領域を拡張 しつづけている。 2010 年、shiseido art egg 賞を受賞。2010-11 年、ロンドン芸術⼤学チェルシーカレッジ MAファインアートコ ース（交換留学）、2015 年、東京芸術⼤学美術研究科博⼠後期課程美術専攻油画(壁画)研究領域修了。2015-17 年、⽂化庁新進芸術家海外研修員としてウィーンにて滞在制作（ウィーン⼤学間⽂化哲学研究室客員研究員）。 2024 年に東京⼤学⽐較⽂学⽐較⽂化で客員准教授を務め、現在は武蔵野美術⼤学映像学科および東北芸術⼯科⼤ 学⼤学院で⾮常勤講師を務めている。
Instagram：＠goromurayama

村⼭悟郎｜制作知のアブダクション
会期：2025年10月11日（土）〜11月9日（日）
レセプション：10月11日（土）15:00〜18:00　※作家在廊予定
会場：Takuro Someya Contemporary Art
住所：〒140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex I 3F
開廊時間：火〜土 11:00〜18:00
休廊日：日曜・月曜・祝日
観覧料：無料
公式サイト：https://tsca.jp/ja
Instagram：＠tsca_tokyo