熊谷は、自身の生い立ちや家族史と向き合いながら、富裕と貧困、生と死といった普遍的テーマを作品に昇華してきた。今回の展覧会では、キリスト教信者の中で派生した「天国泥棒」という言葉に着目。死の間際に洗礼を受けて天国に入る者への複雑な感情を、自責と他責、赦しと怒りが交錯する人間の根源的な感情として描き出す。

三連画《Itʼs OK. Itʼs OK. Itʼs OK.》は、児童虐待を暗示する擦り切れた子ども靴と花瓶の花、そしてマリア像が静かな祈りを湛えながら、現代の社会問題を射抜く。一方、《Say yes to me》では、男が纏うシャツの柄に見える銃口の先が、もう一方の画面に描かれた子鹿に向けられており、信仰と暴力、崇高さと残酷さのあいだに漂う緊張感を生み出している。

熊谷亜莉沙《Itʼs OK. Itʼs OK. Itʼs OK.》2025 年 油彩、パネル、3 点組 中央：109 x 145 cm 左右：各33.5 x 22.2 cm © Arisa Kumagai / Courtesy of Gallery Koyanagi Photo by Hikari Okawara

熊谷亜莉沙《Say yes to me》2025 年 油彩、パネル、2 点組 各97 x 195 cm © Arisa Kumagai / Courtesy of Gallery Koyanagi Photo by Hikari Okawara

熊谷亜莉沙《Pool side》2025 年 紙、木炭、CHOCOPEN 30 x 42.3 x 2.5 cm (frame) © Arisa Kumagai / Courtesy of Gallery Koyanagi Photo by Hikari Okawara

熊谷亜莉沙 《Pool side》 2025 年 紙、木炭、CHOCOPEN 30 x 42.3 x 2.5 cm (frame) © Arisa Kumagai / Courtesy of Gallery Koyanagi Photo by Hikari Okawara

作品ブックレット『白無垢／White Witch』も会期中に販売される予定で、その一部にはオリジナルドローイングが付属。ブックレットのタイトルは、日本における女性の通過儀礼としての「白無垢」と、魔女という存在を交差させて再解釈することに由来して付けられ、熊谷の詩と絵画が一体となった表現が展開される。

レセプションとアーティスト・トークは8月23日（土）17:00から19:00に開催予定。熊谷の深くパーソナルな問いと、それが紡ぎ出す普遍的な感情に触れる機会となるだろう。

熊谷亜莉沙
1991年大阪生まれ。2013年京都造形芸術大学洋画コース卒業、2015年同大学大学院総合造形領域修了。カラヴァッジョを想起させる明暗表現と多層的な黒の描写によって、個人的背景を普遍性へと昇華する作品を制作。国内外の展覧会に多数参加し、2022年には第1回「MIMOCA EYE」入選。作品は東京都現代美術館に収蔵されている。
Instagram：＠arisakumagai_art

熊谷亜莉沙「天国泥棒」
会期：2025年8月23日（土）－10月11日（土）
会場：ギャラリー小柳
住所：東京都中央区銀座1-7-5 小柳ビル9F
開廊時間：12:00－19:00
休廊日：日曜・月曜・祝日
観覧料：無料
オープニング・レセプション：2025年8月23日（土）17:00－19:00
URL：http://www.gallerykoyanagi.com
Instagram：@gallerykoyanagi