上田暁子による個展「Fishing as a Mole Does ‒ Until Stone Becomes Water ‒『もぐらのように釣りをする ‒ 石が水になるまで ‒』」、7/26(土)よりKOTARO NUKAGAで開催
1983年生まれの上田は、絵画を単なる再現や表象としてではなく、事象が変質し変容する過程や、その瞬間に立ち現れる出来事として捉えてきた。2009年の「シェル美術賞展」、2010年の「VOCA展」での受賞を経て注目を集め、2018年にはPOLA美術振興財団の在外研修員としてベルギーに留学。このベルギー滞在は、上田にとって大きな転機となった。本展では、その滞在中および前後に制作された作品が紹介される。

上田暁子《もぐらのように釣りをする》2025
展覧会タイトル「Fishing as a Mole Does ‒ Until Stone Becomes Water ‒『もぐらのように釣りをする ‒ 石が水になるまで ‒』」は、上田の制作プロセスを象徴する。「もぐらのように釣りをする」という言葉には、視覚に頼らず掘り進むもぐらのように、描く対象や方法を定めずに始める姿勢と、静かに見えないものを捉えようとする「釣り」の比喩が込められている。そして副題「石が水になるまで」は、物質の流動性や、地質学的時間における変容の可能性を示唆するものである。


注目は、ベルギー滞在中に構築した独自のプロトコルに基づき制作された「DÉJÀ-MAIS-VU」シリーズである。キャンバスに筆で描いた痕跡を背景色で塗り込めて輪郭だけを残すという手法は、「既に見た(déjà-vu)」ものと「まだ見ぬ(jamais vu)」ものとを往還させる試みであり、絵画を出来事の痕跡として捉えると同時に、出来事を呼び起こす場として機能させている。また、同時期に学んだ石版画技法も上田の制作に大きな影響を与えた。版を重ねて刷るプロセスや、石灰石という素材が持つ地層的な時間感覚は、物質や時間、変容に対する思考に新たな視点をもたらしている。



本展の会場である天王洲という土地もまた、かつては砂州であり、江戸時代には海防のための台場として構想され、大正期には造船所へと転じ、昭和には埋立地として陸地化され、現在は現代アートの街として知られる。上田の作品と天王洲の地層はいずれも、「出来事の痕跡」であり「出来事を呼び起こす場」としての潜在性を帯びる。本展は、絵画というメディウムを通して、記憶をたどり、まだ見ぬ未来に思いを馳せるようなきっかけになるかもしれない。
【開催情報】
展覧会名:「Fishing as a Mole Does ‒ Until Stone Becomes Water ‒『もぐらのように釣りをする ‒ 石が水になるまで ‒』」
会期:2025年7月26日(土)〜9月13日(土)
会場:KOTARO NUKAGA(天王洲)
住所:〒140-0002 東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA Art Complex II 1F
開廊時間:11:30〜18:00(火〜土)
休廊日:日・月・祝、夏季休廊(8月10日〜8月18日)
オープニングレセプション:7月26日(土)16:00〜18:00(上田在廊予定)
オープニングイベント:7月26日(土)17:00〜17:30(パフォーマンスプロジェクト「EN ROUTE」開催)