作家・新井 碧による個展「AVOWAL」が Tokyo International Gallery(品川・天王洲)にて開催
新井の作品は、無意識的なストロークの蓄積によって制作され、その繰り返しによって生まれる痕跡には、自身の身体の時間が内包されている。私たちが無意識に呼吸をし、心臓が脈打つように、生かされている身体と絵画の関係性に向き合い、生命とその有限性、さらにはその先にある時間の在り方について問いかけている。
今回の展覧会では、より身体の機能にフォーカスしたモチーフを描いた新シリーズの作品を含めた展示により、これまでの変化を感じていただくことができる。新井が描いた痕跡を辿り、想像を広げる中で、ぜひその内包された時間をご体感いただきたい。
展覧会開催にあたり文化研究者の山本浩貴氏による寄稿も掲載
戦後アメリカで強い影響力を保持した美術批評家ハロルド・ローゼンバーグは、「行為と行為者」(1970年)を含む一連の著作で、絵画のイメージとは、作家が自らの身体を通じて真摯に素材と格闘する現場で生起する、緊張関係を孕んだ出来事の痕跡であると論じた。新井碧が紡ぎ出す絵画のイメージもまた、彼女の身体が、その手や指が宿す記憶や欲望の半ば無意識的な表出であり、そのような表出としての多彩なストロークの徹底した反復と集積が結果的に構成する連続した行為の記録としてある。新井の作品は、原理的には無限の可能性が許容されているキャンバスという平面に刻印された、輪郭に規定された人間の身体が不可避的に備える有限性の徴である。加えて、彼女は、具象と抽象とを問わず平面作品が必然的に帯びる、絵画という領域が内在化してきた様々な種類の「階層構造」——構図上の「地と図」、鑑賞者の視線を誘導する「中心と周辺」、あるいは異なる画材のあいだのヒエラルキー——に対して意識的な挑戦を企てている。
ローゼンバーグの主張は激しい賛否両論を招きつつも、抽象表現主義の絵画を解釈するアクション・ペインティングの理論を確立し、欧米を主軸に据えたモダニズム美術批評を牽引する重要な人物の一人となった。しかし、それまでの美術史の語りの刷新を企図する、1970年代以降に発展したニュー・アート・ヒストリーの観点から眺めると、新井の芸術実践は、白人男性を行為の主体として「自然に」想定してきたモダニズムを批判的な立ち位置から審問しつつ、その絵画構造に関する更新を志向するものとなっている。これまでの規範的な美術批評の言説に現れる「普遍的な」身体とは異なる、女性の、そして必ずしも「力強い」とは言えない体躯を用いて制作する彼女が、自身の身体と誠実に向き合う創作の過程で生まれる絵画は、近代美術を拘束してきた西洋・男性中心的なモダニズムの鉄鎖の漸次的な解体を伴いながら、私たちの眼前に新しいイメージ、すなわち身体的無意識と行為的出来事の残響を示すことになるだろう。
文化研究者 山本 浩貴
開催概要
会期:2024年6月1日(土) – 29日(土)
会場:Tokyo International Gallery
開館時間:12:00 – 18:00
休館日:日・月曜日
入館料:無料
https://tokyointernationalgallery.co.jp/ja/