トーキョーアーツアンドスペースレジデンス2026 成果発表展「はだしであるく」開催、国内外13組のアーティストが“人間と世界の関係性”を問い直す
本展では、「海外クリエーター招聘プログラム」「国内クリエーター制作交流プログラム」「二都市間交流事業プログラム」に参加したアーティストたちが、それぞれの滞在先でのリサーチをもとに制作した作品を展示する。AIやテクノロジー、気候変動、土地や記憶、人間と自然の関係など、多様なテーマを横断しながら、現代社会における新たな視点を提示する。
第1期では、「テクノロジーと人間のかたち」をテーマに、アナイス・カレニン、アレクシア・アヒレオス、エドゥアルド・カスティーリョ・ビヌエサ、ノガミカツキの4名が参加。テクノロジーが人間の認識や社会に与える影響を、それぞれのリサーチや芸術実践を通して考察する作品を発表する。
アナイス・カレニン 《Ancestralidade: planta》2023 撮影:竹久直樹
アナイス・カレニンは、植民地時代以前から伝わる知識体系を研究し、感覚的な方法論を用いて人間と植物の関係を問い直している。東京滞在中は、江戸時代から近代化に至る技術史を調査し、知の構築と同時に形成された薬草や鉱物に対する体系化と収奪的まなざしを考察するとともに、祖先の知と人工知能との交差点を探究。本展では、新植民地主義的な論理を超えて信仰と知を再編成する立体作品を発表する。
アレクシア・アヒレオス 《The Fox Who Tricked the Superintelligence & Other Storie》2025- 撮影:Loucas STAVROU
アヒレオスは、歴史、文化、地政学と、テクノロジーを取り巻く権力構造の関係性を研究するアーティスト、研究者。東京滞在中には、プレイヤー同士が協働して新たな「民話」を創造し、ビッグテック企業が AI や未来について語るユートピア的「神話」に異議を唱える参加型カードゲームを制作した。本展では、プレイされる度に各地で生まれたさまざまな物語とカードゲームを展示する。
エドゥアルド・カスティーリョ・ビヌエサ 《RAINMAKERS》2026 映像より抜粋
建築家、リサーチャー、映像作家のカスティーリョ・ビヌエサは、気候、テクノロジー、地政学が重なる領域に着目し、空間技術と視覚文化が現代における統治のあり方や生態系の変容に与える影響を探究している。東京での滞在中は、日本が主導し2050年までに気象制御の開発を目指す「ムーンショット目標 8」を軸にリサーチを行った。今回発表する映像インスタレーションでは、大気に対して観測と介入の境界がますます曖昧になりつつある現状に焦点を当てている。
ノガミカツキ 《Post-Body Rehearsal》2025 撮影:間庭裕基
ノガミはデジタル社会において、身体と記憶により形成される、オンラインとオフラインそれぞれのアイデンティティを追究している。TOKAS レジデンシー滞在中は、自身の日記をもとに翌日の日記をAIに書かせ、それに応じて生活を変えるインタラクティブな試みや、アバターとリアルな身体とのズレに着目する VR パフォーマンスを行った。本展ではこれらのアーカイブと合わせて、自身の感情の記憶メディアとして滞在中から制作していた音楽作品を発表する。
あわせて、ブリュッセル、ケベック、バーゼルで滞在制作を行った池添俊、井上拓哉、村上郁も新作を展示。映像や絵画、インスタレーションを通じて、地域社会や自然、人との関係性を多角的に読み解く。
映画と現代美術の領域を横断して活動する池添は、社会や歴史の中で取りこぼされやすい個人の話や記憶を収集し、普遍的な物語へと再構成。滞在先であるヘール(ベルギー)では、700 年以上にわたり、精神疾患のある人々と地域住民が共に暮らす里親制度が受け継がれている。本展では、現地でのインタビューをもとに、「健常/病」をひとつの連続体として捉え直し、境界を問い直す映像インスタレーションを発表する。
旅で出合う風景や人々を起点に絵画制作を行い、「普遍性」の概念を探究している。各々がイメージする「肌色」に絵具を混色してもらう参加型プロジェクトをケベックにて行った井上は、多様性を国の基盤とする文化的差異と、普遍性を問うこと自体が内包する暴力性を実感したと話す。自己の視点だけに留まらず、他者との関係性を織り込み、「私が見ていないもの」を問うように制作した
絵画作品を展示する。
「散歩」と称した、直感と理論を組み合わせたリサーチを通じて、技術を介した人間と自然の関係を考察する村上は、バーゼルの紙漉きと印刷の歴史を調査し、雑草を用いた紙づくりを行った。その過程で定期的な水換えが植物繊維の状態維持を助けたことから、自然の力と人の手による制御や管理の関係に着目。本展では、水の循環システムと映像を組み合わせた立体作品を中心に発表予定だ。
第2期には、ベルリンで戦争遺構を調査した宇佐美奈緒、韓国出身のアーティスト・作曲家のガン・ドンフン、台湾のアート・サイエンス・コレクティブSynphysica、台北でリサーチを行ったハラサオリ、メキシコのディエゴ・ペレス、ヘルシンキで土地とケアをテーマに制作した水野渚が参加。映像、ゲーム、パフォーマンス、彫刻など多彩なメディアを用い、人間と社会、自然との関わりを探る作品を展開する。
宇佐美奈緒 《Silence and Oblivion》2025 撮影:Leonard NEUBERGER
宇佐美はフェミニズム研究にもとづき、映像やパフォーマンスのほか、ビデオゲームで他者の視点や身体感覚に迫る表現を追究している。ベルリンでは地下壕や強制収容所などの戦争遺構を訪れ、肉体的・精神的に抑圧された身体をリサーチした。本展で発表するビデオゲーム作品は、戦時中密かに執筆を続けた作家らが自らの著書の焚書に立ち会う場面をモチーフに、人間と書籍の温度を 3Dコンピュータ・グラフィクス化し、追体験する機会を提供する。同時期に滞在した振付家・パフォーマーの小林萌が振付し、
ガン・ドンフン 《Binary Composition for Two Cellos》2024 撮影:Ivan MURZIN
ガンは、音や音楽が歴史を通じて社会でどのように消費、誤用されてきたかを探究する、アーティスト、作曲家、研究者。東京滞在中は、近代化の過程で東アジアへ西洋音楽が流入した影響で生じた音楽的ヒエラルキーや当時の音楽教育について、ポストコロニアル的視点から考察を深めた。300年前に西洋でメロディーが生まれ、歌詞や役割を変容させながら各地へ伝わり、現在も日韓両国でよく知られている童謡をモチーフに作品を発表する。
Synphysica はアートと科学をとおして、人間と非人間的システムの相互作用について探求するコレクティブ。生体信号を可視化することで、人間の知覚を超えた環境を顕在化させ、生命の主観的な視点からその輪郭を捉えようと試みている。東京滞在中は日本庭園や森林を調査し、管理された環境と生態学的な観点の緊張関係を考察。本展ではこれらをもとに、実際の草木を用いて人間と自然が対話する空間を立ち上げる。
ハラサオリ 《P wave》2021 撮影:NAKAYAMA Yunosuke
ハラは、空間や社会に内包される「振付」的な事象へ応答するように、パフォーマンス作品を発表する。台北では地震と人の関係をリサーチする中で、重層的に存在する軍事的緊張や情報戦などの異なる「揺れ/揺さぶり」と、全国防災訓練などの制度的反復に触れた。本展では、映像、写真、パフォーマンスをとおして「危機を記憶し、備える身体」への想像力を拡張し、災害や戦争といったあらゆるカタストロフィと身体の問題へ接続することを目指す。
ディエゴ・ペレス 《Sumida fountain I》2025
撮影:間庭裕基
ペレスは、素材や地域の歴史、日常生活との関係や他者との交流を起点に、絵画や写真、彫刻などさまざまな手法で制作を行う。東京滞在中は特に墨田区周辺を散策し、日々目にしたものの記録に専念する中で、街並みの変化やビルが立ち並ぶ様子に関心を抱き、自身の記憶やイメージと重ね合わせるように陶芸作品を制作した。また日本庭園から着想し、じょうろ職人と協働して制作した、水が循環する銅の彫刻を展示する。
水野 渚 ツアーワークショップの様子 2025 撮影:Mikko LUOSTARINEN
人と土地との関係性やケアのあり方を探究する水野は、元ごみ処理場の埋立地で、現在は動植物に開かれた豊かな生態系をもつヴオサーリ丘陵に着目した。土壌専門家や丘陵の清掃員などから話を聞いて知見を深め、ツアーワークショップを実施。地質学者と土地の歴史に触れ、歩く中で出合った風景や音と各々の感情を起点に、参加者と協働して音響詩を制作。本展ではその記録と記憶から生まれた物語を通じて、人と土地とのより多様で包摂的な関わり方の可能性を提示する。
展覧会タイトル「はだしであるく」には、既存の価値観や前提から一歩離れ、自らの感覚で世界と向き合うという姿勢が込められている。TOKASのレジデンス・プログラムを通じて育まれた対話や経験をもとに、多様な文化や社会を横断するアーティストたちの視点を紹介する機会となる。
開催概要
トーキョーアーツアンドスペースレジデンス2026 成果発表展「はだしであるく」
会期:第1期:2026年6月27日(土)~8月2日(日)
第2期:2026年8月15日(土)~9月20日(日)
会場:TOKAS本郷
参加アーティスト
第1期:アナイス・カレニン、アレクシア・アヒレオス、池添俊、井上拓哉、エドゥアルド・カスティーリョ・ビヌエサ、ノガミカツキ、村上郁
第2期:宇佐美奈緒、ガン・ドンフン、Synphysica、ハラサオリ、ディエゴ・ペレス、水野渚




