没後10年にして初回顧展、特別展「中西夏之 緩やかにみつめるためにいつまでも佇む、装置」が3/14(土)開幕
中西夏之は、絵画という営みを根底から問いなおそうとした画家だ。絵画はいかにして立ち上がるのか、そもそも絵画の存在する場所とはどこなのか。こうした問いに貫かれた彼の作品は、具象や抽象といった既存の枠組みに収まるものではない。あらゆる自明の理をいったん括弧に入れたうえで、あらためて「絵画」を立ち上げなおそうとする思考が、その制作の根にあった。
本展は、中西の半世紀以上にわたる制作の軌跡を振り返り、その特異な絵画理念と実践を浮かび上がらせることを試みる。画家を志しながらも、1960年代前半には前衛美術家集団「ハイレッド・センター」の一員として活動し、絵画から距離を取った時期があった。その後、舞踏家・土方巽との出会いを契機に、再び絵画へと向かっていく。この迂回路こそが、中西の絵画観を形づくる重要な背景となっている。
展示は4章構成で展開される。
第1章「生体と物質の錬金術」では、1950年代末から1960年代にかけての活動に焦点を当てる。東京藝術大学卒業後に絵画制作を始めた中西は、反芸術の動きが活発化する時代のなかで、絵画の「中断」を経験する。「ハイレッド・センター」でのパフォーマンスや、土方巽との関係性を通じて展開された、絵画の外部での仕事が紹介される。

《韻 YS》1959年 個人蔵 ©NATSUYUKI NAKANISHI

《コンパクト・オブジェ》1962年 国立国際美術館蔵 ©NATSUYUKI NAKANISHI
第2章「絵のある場所と絵の形」では、1960年代後半以降、画家として活動を再開した時期の仕事が取り上げられる。舞踏との協働を続けながら制作された絵画は、目に見えるものを再現することにも、目に見えないものを可視化することにも重きを置いていない。その実践は、「絵画を描くこと」そのものを問題にする試みとして立ち上がってくる。
第3章「無限遠点からの弧線」では、1970年代以降に理論的な洗練を深めていく過程が示される。その出発点の一つに位置づけられるのが、「弓形が触れて」という連作である。画面上に取り付けられた竹弓は、作家自身が、画家と、画家が描くべき世界、そして画家が向き合う画面との位置関係を図示するための道具だと語っている。この連作において中西は、画家が「どこで」「どこに」立ち、描くのかという問題に粘り強く向き合っていった。

《弓形が触れて Ⅲ》1978年 国立国際美術館蔵 ©NATSUYUKI NAKANISHI

《紫・むらさき XVIII》1983年 国立国際美術館蔵 ©NATSUYUKI NAKANISHI

《中央の速い白 XIII》1990年 千葉市美術館蔵 ©NATSUYUKI NAKANISHI
第4章「想像的地表にあふれる光」では、シリーズを単位として展開されてきた中西の制作を俯瞰する。シリーズごとに投げかけられる問いはさまざまだが、後年の中西自身の言葉を借りるならば、その制作全体は「光・時・色の三位一体」を追究する営みだったと要約することができるだろう。眩しい光や、移ろう時間として立ち現れてくるこの世界を、画家は絵具の色彩によってどのように受け止めうるのか。50年以上にわたる制作の軌跡をたどることで、私たちは、当たり前のように受け止めてきた「絵画」という行為そのものを、あらためて問い直すことになる。

《背・円 – I 05》2005年 個人蔵 ©NATSUYUKI NAKANISHI

《擦れ違い/S字型還元》2011年 茨城県近代美術館蔵 ©NATSUYUKI NAKANISHI
中西がかつて残した「緩やかにみつめるためにいつまでも佇む、装置」という言葉は、本展全体を貫く導きの糸となる。没後10年という節目に、その問いに向き合う時間は、絵画の前に立ち止まり、考えるための余白を与えてくれるはずだ。
【開催情報】
展覧会名:特別展「中西夏之 緩やかにみつめるためにいつまでも佇む、装置」
会期:2026年3月14日(土)~6月14日(日)
会場:国立国際美術館 地下3階展示室(〒530-0005 大阪市北区中之島4-2-55)
開館時間:10:00~17:00、金曜は20:00まで(入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(ただし5月4日は開館)、5月7日
観覧料:一般1,500円(1,300円)、大学生900円(800円)
※()内は20名以上の団体および夜間割引料金(対象時間:金曜17:00~20:00)
※高校生以下・18歳未満無料(要証明)
※心身に障がいのある方とその付添者1名無料(要証明)
主催:国立国際美術館、読売新聞社、美術館連絡協議会
協賛:公益財団法人ダイキン工業現代美術振興財団
協力:SCAI THE BATHHOUSE
助成:公益財団法人ポーラ美術振興財団
URL:https://www.nmao.go.jp/
お問い合わせ:国立国際美術館 06-6447-4680(代表)