40年の時を超えて立ち上がる私的なまなざし、潮田登久子写真展「マイハズバンド」
本展で紹介される「マイハズバンド」は、写真家・潮田登久子が夫と幼い娘との日常を撮影した作品群だ。長らく発表されることなく保管されていたネガやプリントは、引っ越しの整理中に偶然見つかり、約40年の時を経て2022年に写真集『マイハズバンド』(torch press刊)として刊行された。静かに眠っていたこれらの写真は大きな反響を呼び、潮田登久子の作品世界を国外にも広く届ける契機となった。
撮影の舞台となったのは、東京・豪徳寺に移築されていた洋館。1888年に建てられたとされる建物の一室、約15畳の空間で家族の生活は営まれていた。風呂はなく、台所は共有という環境のなか、家事や子育てに追われる日々の合間に、潮田は身近な時間を淡々とカメラに収めていく。
写真に写るのは、夫や娘の姿だけではない。食器やカーテンなど日々の暮らしを囲む身近なもの、窓の外に広がる風景など、生活の周囲にある静かな気配もまた画面に宿っている。それらは特別な出来事ではなく、ありふれた日常の断片。しかし写真には、どこかおとぎ話のような空気と静かな親密さが漂う。私的な生活の記録でありながら、見る者に「どこかで見たことのある風景」のような既視感を呼び起こす点も、このシリーズの魅力のひとつだ。
発表することを前提とせず撮られた写真には、作家自身も気づかない感情や視線がそっと滲む。時間という長い熟成を経て現れた「マイハズバンド」は、写真というメディアが内包する記憶や感情の層を静かに浮かび上がらせる作品群ともいえるだろう。
【プロフィール】
潮田 登久子(うしおだ とくこ)
東京都生まれ。1963年、桑沢デザイン研究所リビングデザイン研究科写真専攻卒業。1966年から1978年まで桑沢デザイン研究所および東京造形大学で写真講師を務める。1975年ごろからフリーランスの写真家として活動を開始。1978年に写真家・島尾伸三と結婚し、同年長女・まほが生まれる。代表作に家庭の冷蔵庫を撮影した『冷蔵庫/ICE BOX』、書架をテーマにした『本の景色/BIBLIOTHECA』など。2018年に土門拳賞、日本写真協会作家賞、東川賞国内作家賞を受賞。2019年に桑沢特別賞受賞。2022年には写真集『マイハズバンド』がParis Photo–Aperture PhotoBook Awards 審査員特別賞を受賞。
【開催情報】
展覧会名:フジフイルム スクエア 写真歴史博物館 企画写真展
潮田登久子写真展「マイハズバンド」
会期:2026年4月1日(水)~6月30日(火)
会場:フジフイルム スクエア写真歴史博物館
開館時間:10:00-19:00(最終日は16:00まで、入館は終了10分前まで)
休館日:会期中無休
入館料:無料
主催:富士フイルム株式会社
後援:港区教育委員会
協力:PGI
企画:コンタクト
URL:https://fujifilmsquare.jp/exhibition/260401_05.html
Instagram:@fujifilmsquare_photosalon