東京都美術館で開催中「つくるよろこび 生きるための DIY」、創造と生の交差点を体験する展覧会
日曜大工や住民主体のまちづくりといった実践からも親しまれる「DIY(Do It Yourself)」に新たな視点を与える本展は、5組の現代作家と2組の建築家による作品や実践を通して、DIYが「生きること」といかに結びついているかを探るもの。震災や経済的な事情といった喪失の経験から生まれる創造、生活の知恵としての工夫、そして誰もが持つ創造性にフォーカスする。
若木くるみは、木版画を基盤にしながら、空き缶や歯磨き粉のチューブといった身近な日用品を版に用いた作品を発表。自身の生活空間にある素材から新たなイメージを生み出すことで、版画という表現の再構築を試みる。

若木くるみ 《CAN ベルスープ》 2024 年 空き缶を用いた版画 作家蔵
瀬尾夏美は、東日本大震災後の被災地での記録活動を起点に、災禍の記憶を抱えて生きる人々の営みに目を向ける。ドローイングや文章を通して、土地や人びとの記憶に触れる繊細な表現を展開する。

瀬尾夏美 《地底に咲く》 2015 年 ドローイング 作家蔵
野口健吾は、日本各地の都市に暮らす路上生活者に取材し、その姿を写真に収めてきた。「庵の人々」シリーズでは、ブルーシートや廃材で作られた住居の構造と、そこに宿る生きる工夫を視覚化する。

野口健吾 《庵の人々 神奈川県横浜市港北区》 2012 年 写真 作家蔵
ロンドンを拠点とするアーティスト・デュオ、ダンヒル&オブライエンは、彫刻制作の工程を解体し、装置や共同作業、パフォーマンスを組み込んだインスタレーションを制作。DIY的発想で予期せぬ創造を生み出す。

ダンヒル&オブライエン 《装置:ムーアの木槌 V1》 2024 年 作家蔵
久村卓は、ヘルニアの経験をきっかけに「軽やかさ」を重視した制作に取り組み、手芸やクラフトといった技法を用いた作品を展開。衣服や家具を素材に、美術の制度そのものを問うような佇まいを見せる。

久村卓 《PLUS_Ralph Lauren_yellow striped shirt》 2025 年 シャツに刺繍、アプリケ 作家蔵
伊藤聡宏設計考作所は、長野県を拠点に空き家活用や地場技術の紹介、手工芸・農業を含めた地域との関係性を建築を軸に探る実践を行う。今回は、来場者の思考を促す場づくりを提案する。

伊藤聡宏設計考作所 とおいちギャラリー(奈良井宿)
スタジオメガネ建築設計事務所は、多摩ニュータウンに根ざし、アートや地域住民との協働による文化的な拠点「STOA」を運営。未完成なまま変化し続ける空間を重視し、本展でも対話のためのプラットフォームを構想する。

スタジオメガネ建築設計事務所 小豆島に展開するSTOA の改修風景
また、実際に手を動かして体験できる参加型作品も登場。見るだけにとどまらず、「つくる・話す・考える」ことを通じて展覧会そのものに関与できる構成となっている。
手を動かすことの喜びが、自らの「生」を見つめ直す手がかりになるかもしれない。美術の領域を越え、現代における「よりよく生きる」方法を問いかける、思索的で実験的な展覧会である。
【開催情報】
展覧会名:つくるよろこび 生きるための DIY
会期:2025年7月24日(木)~10月8日(水)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・B・C
開室時間:9:30~17:30(金曜は20:00まで、入室は閉室の30分前まで)
休室日:月曜日、9月16日(火)
※8月11日(月・祝)、9月15日(月・祝)、9月22日(月)は開室
観覧料:一般1,100円/大学生・専門学校生700円/65歳以上800円
※18歳以下、高校生以下、各種手帳保持者とその付添い1名は無料
公式サイト:https://www.tobikan.jp/diy
主催:東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)
助成:大和日英基金