杉浦邦恵は、日本とアメリカ、自然と人工、写真と絵画などの二項対立を内包しながら、それらを対立させることなく共存させる創作スタイルで知られる作家だ。彼女は写真を絵画や彫刻と同等の表現と捉え、メディアの境界を越える姿勢を一貫して貫いてきた。

六本木会場では、シカゴ美術館附属美術大学在学中に制作された《Cko》シリーズ（1966～1967年）をはじめ、初期の代表作が展示される。魚眼レンズを使ったヌード撮影、カラーとモノクロのネガを重ね合わせ、ソラリゼーションや漂白剤による筆塗りなど、意図と偶然を融合させた実験的手法が特徴だ。続いて《フォトキャンバス》シリーズ（1968～1972年）から「Untitled 3」（1970年）などが並び、写真乳剤を塗布したキャンバスにネガを露光・現像し、グラファイトで加筆した作品が披露される。
また1990年代から2000年代にかけてのX線写真シリーズと融合した近作、「Fever」（2021年）、「Nina’s Pelvis & Leg」（2024年）、「Oral」（2022年）なども展示。医療用ネガを素材とし、人体の内部構造を詩的かつ象徴的に表現している。

京橋会場では、1980年以降取り組まれてきたフォトグラム作品を中心に紹介。「The Kitten Papers」（1992年）では、夜中に生きる子猫の気配を写真に定着させている。光と影のコントラストを巧みに用い、日本的な儚さと東洋と西洋の文化的融合を感じさせる作品群となっている。その他、「Attenuated Head」（1986年）をはじめ、花を主題にした「ボタニカス」「切花」「スタックス」などのシリーズも展示される。

Kunié Sugiura “Fever”, 2021 Pigment print, acrylic on canvas 106.6 x 142.2 cm
© Kunié Sugiura / Courtesy of Taka Ishii Gallery

杉浦邦恵
名古屋市生まれ。現在ニューヨークを拠点に活動。1967 年シカゴ美術館附属美術大学学士課程修了。同大学在学中、コンセプチュアル・フォトグラファーであるケネス・ジョセフソンに師事したことを契機に、以後、50 年近く写真による多様な表現を提示し続けてきた。60 年代のカラー写真、70 年代のキャンバス上に写真とアクリルを塗付した写真作品、80 年代から始まる日常生活のモチーフを定着させたフォトグラムなど、写真とその他の媒体との関係、写真における「もの」とその抽象化の表現について探究を続けている。人生をとりまく時や光、うつろう自然の儚さとその記憶を捉えた杉浦の作品には、具象性と抽象性、即興と構築といった相反要素が共存している。主な個展として「Kunié Sugiura: Photopainting」サンフランシスコ近代美術館（開催中～2025 年9 月14 日）、「杉浦邦恵 うつくしい実験／ニューヨークとの50 年」東京都写真美術館（2018 年）、「Time Emit」Visual Arts Center of New Jersey（サミット、2008 年）、「Dark Matters / Light Affairs」カリフォルニア大学リチャード・L・ネルソンギャラリー&ファインアーツコレクション（デイヴィス、2001 年）などがある。これまでに、第23 回東川賞 国内作家賞（2007 年）、Artist ‘s Fellowship, New York Foundation for the Arts（1998 年）を受賞。作品は、デンバー美術館、ボストン美術館、ニューヨーク近代美術館、東京都写真美術館に収蔵されている。

杉浦邦恵の個展「境界と共存」
会期：2025年7月19日（土）～8月23日（土）

会場：タカ・イシイギャラリー 六本木
住所：〒106-0032 東京都港区六本木 6-5-24 complex665 3F
営業時間（六本木）：12:00-19:00（日・月・祝 休廊）

会場：タカ・イシイギャラリー 京橋
住所：〒104-0031 東京都中央区京橋 1-7-1 TODA BUILDING 3F
営業時間（京橋）：11:00-19:00（日・月・祝 休廊）

URL：www.takaishiigallery.com
Instagram:@takaishiigallery