「田中信太郎――意味から遠く離れて」が世田谷美術館で開催、東京の美術館で初個展
1960年代以降の日本美術をたどるうえで、田中信太郎は見過ごすことのできない作家のひとりだ。ネオ・ダダの活動に加わったのち、作風を大きく転換し、ハートの形を援用した作品やネオン管を用いた作品など、シンプルな形態による表現で注目を集めた。制作者の感情から距離をとりながら、造形そのもののあり方を問い続けたその仕事は、当時の美術動向とも交差しつつ、独自の位置を築いていく。
その後は、パリ青年ビエンナーレやヴェネチア・ビエンナーレなど海外の国際展にも参加する一方で、制作の場を東京から日立へ移し、美術界の喧騒から離れた環境を選んだ。大病を経たのちの1985年には再び作風を大きく変化させ、色彩を伴う、平面と立体を組み合わせた複合的な作品へと展開していく。ひとつの様式にとどまらず、つねに別のかたちを探り続けた歩みが、田中信太郎という作家の輪郭をより鮮やかにしている。

田中信太郎 《無題D》 1972年 田中信太郎アトリエ 撮影:野口浩史

田中信太郎 《Pianissimo-A》 1974年 東京国立近代美術館
会場では、日本国内では未発表の1970年の絵画作品から、晩年に探求していた平面作品、亡くなるまで継続して制作された金属によるドローイングまで、アトリエに遺された作品を中心に40点弱を紹介する。ヴェネチア・ビエンナーレ出品作をはじめ、これまでまとまって触れる機会の少なかった作品も含まれ、変化を重ねながら続いた実践をあらためて見渡せる構成となる。あわせて、1960年代から70年代にかけて祖師谷にアトリエを構えていた時期の作品図面や資料も展示される。

田中信太郎 《同体積:銅》 1980年 田中信太郎アトリエ 撮影:吉山裕次郎

田中信太郎 《長いソナタ》 1988年 株式会社アートフロントギャラリー 撮影:田村融市郎
19歳で篠原有司男に出会い、ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズへの参加以後、田中信太郎が作風を変えながら独自の表現を深めていく流れを時系列でたどれるのも、この回顧展の見どころのひとつだ。前衛美術の熱気のなかから出発しながら、その後は流行や潮流に回収されることなく、自身の視線を足場にしながら作品を更新し続けた。初期から晩年までを通して眺めることで、単純な造形のなかに張りつめた思考が潜んでいたことや、静かな画面や構成の背後に、視ることそのものへの意識が通っていたことにも触れられるだろう。
田中信太郎を語るうえで、デザイナー倉俣史朗との関係も見逃せない。ふたりは1967年に出会い、その後は「西武百貨店カプセルコーナー」やグループ「サイレンサー」など、複数の場面で関わりを持った。1986年に倉俣が手がけた旧ブリヂストン本社ビルのロビーデザインでは、田中の彫刻作品も設置されている。ジャンルを横断しながら交わされた感覚の往復をたどることは、田中の造形を別の角度から見るきっかけにもなりそうだ。

田中信太郎 《彼岸の陽炎、あるいは子宮の彼方から》 1992-93年 田中信太郎アトリエ 撮影:田村融市郎

田中信太郎 《偏光》 1999年 田中信太郎アトリエ 撮影:吉山裕次郎
回顧展の機会が限られてきた作家であるだけに、本展は田中信太郎の作品にあらためて向き合う貴重な機会となる。
プロフィール

日立のアトリエにて 2003年 撮影:大谷健二
田中信太郎
1940年に東京で生まれる。太平洋戦争末期に日立市に疎開し、高校卒業まで同地で暮らす。上京後、ネオ・ダダ、反芸術の洗礼を受け、前衛美術家として活動を開始。1960年代後半よりミニマル・アートを彷彿とさせる作品へと転換し、1970年の「人間と物質」、1972年のヴェネチア・ビエンナーレなど主要な国際展に参加した。1985年以降は平面と立体を組み合わせた作品を発表し、2019年に亡くなるまで、独自の思想に裏打ちされた作品を制作し続けた。
開催情報
田中信太郎――意味から遠く離れて
会期:2026年4月25日(土)〜2026年6月28日(日)
会場:世田谷美術館
住所:〒157-0075 東京都世田谷区砧公園1-2
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日
※ただし、5月4日(月・祝)は開館、5月7日(木)は休館。
観覧料:一般1,400円(1,200円)、65歳以上1,200円(1,000円)、大高生800円(600円)、中小生500円(300円)、未就学児無料
※( )内は20名以上の団体料金。事前に電話で問い合わせ。
※障害者の方は500円。ただし、小中高大学生の障害者の方は無料。介助者(当該障害者の方1名につき1名)は無料。
※高校生、大学生、専門学校生、65歳以上の方、各種手帳を持つ方は、証明できるものを要提示。
※本展のオンラインチケットは4月7日(火)12:00より販売。
TEL:03-3415-6011
ウェブサイト:https://www.setagayaartmuseum.or.jp/
Instagram:@setagayaartmuseum
X:@setabi_official