「たった一枚のプラカード」が放つ、生の力と尊厳の声──国立国際美術館で特別展「プラカードのために」11/1(土)から開催
本展は、美術家・田部光子(1933–2024)が1961年に記した同名の文章を出発点に、「生きること」と「尊厳」をめぐる思索を、7名の作家の作品を通して探る展覧会である。
田部はその文章のなかで、「大衆のエネルギーを受け止められるだけのプラカードを作り、そのたった一枚のプラカードの誕生によって社会を変える可能性」を語った。社会の矛盾や抑圧のただ中にあってもなお、希望を見出そうとする彼女の言葉と実践は、同年の代表作《プラカード》や《人工胎盤》に結実する。本展では、これらを含む田部の作品28点が展示される。

田部光子《プラカード》1961年、東京都現代美術館蔵

《プラカード》、《人工胎盤》前の田部光子、1961年、「九州派展」、銀座画廊、東京
また、本展では、田部に加えて現代を生きる6名の作家──牛島智子、志賀理江子、金川晋吾、谷澤紗和子、飯山由貴、笹岡由梨子──が参加する。牛島は地域や日常に根ざした素材を用い、「変形和紙文字」を取り入れた新作インスタレーション《ひとりデモタイ―箒*筆*ろうそく》を発表。志賀は震災後の経験をもとに、人間の精神の根源に迫る映像作品《風の吹くとき》(2022–2025)を再編集して展示する。金川は「家族」や「信仰」を軸に、自身の身体と生を通して社会の規範を見つめ直すシリーズ「祈り/長崎」と「明るくていい部屋」を出品。谷澤は陶紙による「ちいさいこえ」シリーズや、美術史上で周縁化されてきた女性たちとの対話を試みる新作インスタレーションを展開する。飯山は他者の声に耳を傾け、共に行動する記録的実践をもとに、《海の観音さまに会いにいく》(2014/2020)などを紹介。笹岡は人形劇やCG、自作の歌を用いた《Working Animals》で、労働と存在の意味を軽やかに問いかける。

牛島智子個展「トリへのへんしん」展示風景、2022 年、旧八女郡役所 写真:長野聡史 ©Nagano Satoshi

志賀理江子《風の吹くとき》2022-2025年 ©liekoshiga

金川晋吾《祈り/長崎、セルフポートレート》2022年 ©Shingo Kanagawa

谷澤紗和子個展「ちいさいこえ」展示風景、2023年、FINCH ARTS ©Sawako Tanizawa, Photo by Haruka Oka, Courtesy of FINCH ARTS

飯山由貴《海の観音さまに会いにいく》2014/2020年、写真:宮澤響、飯山由貴 ©Iiyama Yuki

笹岡由梨子個展「Animale」展示風景、2025年、PHD Group、香港 Courtesy of the artist and PHD Group. Photo by Felix SC Wong.
7名それぞれの実践は、異なる時代や背景を持ちながらも、社会の中で覆い隠されてきた経験や感情を見つめ、そこに潜む尊厳を掘り起こす試みとして響き合う。展示空間では、声や映像、素材が交錯し、重なり合うことで、「たった一枚のプラカード」に託された抵抗と希望のエネルギーが立ち上がる。静かでありながらも確かな力をもつ表現の瞬間を、ぜひ会場で体感してほしい。
【出展作家】
田部光子、牛島智子、志賀理江子、金川晋吾、谷澤紗和子、飯山由貴、笹岡由梨子
【開催情報】
展覧会名:特別展「プラカードのために」
会期:2025年11月1日(土)‒2026年2月15日(日)
会場:国立国際美術館 地下3階展示室(大阪市北区中之島4-2-55)
開館時間:10:00‒17:00(金曜は20:00まで、入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(11月3日・11月24日・1月12日は開館)、11月4日、11月25日、1月13日、年末年始(12月28日–1月5日)
観覧料:一般1,500円(1,300円)/大学生900円(800円)
※()内は団体および夜間割引料金(対象:金曜17:00‒20:00)
※高校生以下・18歳未満無料、障がい者と付添者1名無料(要証明)
※本料金で、同時開催の「コレクション2」も観覧可能
主催:国立国際美術館
協賛:公益財団法人ダイキン工業現代美術振興財団
問い合わせ:06-6447-4680(国立国際美術館)
公式サイト:https://www.nmao.go.jp/