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「PROJECT MRT ー Natureless Solution/太陽と土と糞から切り離したテクノロジーの再考」、バイオ・アートの先駆者がYCAMで“食の未来”を問う

Oct 6, 2025
山口情報芸術センター[YCAM]にて、オロン・カッツ、イオナット・ズール、スティーブ・ベリックによる新作インスタレーションの展覧会「PROJECT MRT ー Natureless Solution/太陽と土と糞から切り離したテクノロジーの再考」を開催する。会期は2025年10月11日(土)から2026年2月23日(月・祝)まで。(PHOTO:Daniel James Grant 提供:アーティスト)

「PROJECT MRT ー Natureless Solution/太陽と土と糞から切り離したテクノロジーの再考」、バイオ・アートの先駆者がYCAMで“食の未来”を問う

Oct 6, 2025 - NEWS
山口情報芸術センター[YCAM]にて、オロン・カッツ、イオナット・ズール、スティーブ・ベリックによる新作インスタレーションの展覧会「PROJECT MRT ー Natureless Solution/太陽と土と糞から切り離したテクノロジーの再考」を開催する。会期は2025年10月11日(土)から2026年2月23日(月・祝)まで。(PHOTO:Daniel James Grant 提供:アーティスト)

本展は、自然要素を人工代替に置き換える農業技術(AgTech)をめぐる継続的なリサーチ過程を、パフォーマティブで実験的なインスタレーションとして公開する。相互に連携し循環する食料生産装置を会場に設置し、会期中の運用と実験的パフォーマンスを通じて、「Natureless Solution(自然を介さずに成立する食の未来)」という挑発的な問いを観客の前に浮かび上がらせる。

展示では、微生物が発酵する際の熱を活用するコンポストインキュベーターがガス濃度や温度を測定・可視化するセンサー群とともに稼働し、ハイドロポニックス(水耕栽培)やアクアポニック・システム(水産養殖と水耕栽培を組み合わせた魚菜共生システム)、ソーラ・パネルシステム、さらにマウス筋細胞由来の人工肉を培養し、その養分を肥料に変換する装置など、多層的に絡み合うシステムが広がる。各装置には独自開発センサーが取り付けられ、分解効率や生態系バランス、環境条件がリアルタイムに監視される。食料生産において、データそのものが評価の中心となっていく現状を、ラボ的環境のインスタレーションで批評的に追体験できる構成だ。

提供:アーティスト

提供:アーティスト

提供:アーティスト

タイトルの「MRT」は「Metabolic Rift Technologies」の略。カール・マルクスが提唱し、アメリカの社会学者ジョン・ベラミー・フォスターが現代に発展させた、人間社会と自然との間に生じる構造的な断絶を表す概念「メタボリック・リフト」を参照しつつ、「技術(Technologies)」の視点を重ねた造語。食と倫理、社会と技術、自然と人間の関係に生じる断絶をめぐって、実験と運用を織り交ぜながら、私たち自身の“食べる”未来像がにじむ。

YCAMは2021年から「食と倫理リサーチ・プロジェクト」を推進してきた。本展では、オロン・カッツ、イオナット・ズール、スティーブ・ベリックの3名が、YCAMとのコラボレーションにより研究を深め、その成果を新作インスタレーションとして展開する。さらに地域の生産者や研究者とも連携し、会期中に実験的かつ循環型の食料生産を実践する。その過程で得られた知見や成果を公開し共有することで、食に関する倫理・技術・社会の交差点に対して問いを投げかける試みとなっている。

発酵熱を可視化する装置や人工的に制御された栽培システム、培養肉のプロセスまで──会場に広がるのは“ネイチャーレス”な食の風景だ。そこに示される未来は、解決策なのか、それとももうひとつの裂け目なのか。観客はその問いのただ中に立つことになる。

左から、スティーブ・ベリック、イオナット・ズール、オロン・カッツ(提供:アーティスト)

【作家プロフィール】

オロン・カッツ|Oron Catts
西オーストラリア大学(UWA)人間科学部「SymbioticA: The Centre of Excellence in Biological Arts」の共同創設者兼ディレクターであり、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートでコンテスタブル・デザインの教授を務めた。イオナット・ズールと共にTissue Culture & Art Projectを設立。ハーバード大学医学部の組織工学・臓器製作研究所の研究員(2000~2001年)。

イオナット・ズール|Ionat Zurr
西オーストラリア大学(UWA)デザイン学部の美術学科長、SymbioticAのアカデミック・コーディネーター。アーティスト、研究者、キュレーター、講師であり、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートのデザイン・インタラクションの客員講師でもある。1996年、オロン・カッツとともにTissue Culture & Art Projectを設立し、生きた人工組織を使ったアート制作のパイオニアである。アートと生物学の学際的プログラムである理学修士課程(生物学アート)を創設。

スティーブ・ベリック|Steve Berrick
コードを駆使し、パフォーマンスやインスタレーションのための高度にテクニカルなインタラクティブ・システムのデザインを専門とする。彼の作品は、観客をインタラクションの中心に置き、しばしば触覚的な創造的プロセスを促進し、それをコラボレーティブなデジタル・プレイグラウンドに反映させる。ロボットデザイン、テクノロジーデザイン、クラウドソースによる場所の活性化を可能にするソフトウェアで賞を受賞している。

【開催情報】
展覧会名:オロン・カッツ+イオナット・ズール+スティーブ・ベリック
PROJECT MRT—Natureless Solution/太陽と土と糞から切り離したテクノロジーの再考
YCAMとのコラボレーション
会期:2025年10月11日(土)〜2026年2月23日(月・祝)
会場:山口情報芸術センター[YCAM] ホワイエ、中庭、2階ギャラリー
開館時間:10:00〜19:00
休館日:火曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12/29〜1/3)
観覧料:入場無料
主催:山口市、公益財団法人山口市文化振興財団/助成:令和7年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業
URL:www.ycam.jp
Instagram:@ycam_jp

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