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椿正雄のレコード・レコメン はじめてのレコードdig(ディグ)

Mar 8, 2021 - MUSIC

レコードの時代が再びやってきた

1980年代初頭に誕生した“CD”ことコンパクトディスク。その勢いはすさまじく、レコードで音楽を聴く生活がウソだったかのように、あっという間に文化を一変させてしまった。しかし、時が過ぎた2020年のこと。なんと30年以上ぶりにCDとレコードの売上が逆転し、再びレコードの時代がやってきたのである。

レコードってどこか惹かれるカッコよさがあると思う。CDよりも大きなジャケットだから?レコード盤が回るあのアナログな感じ?どことなく音楽“ツウ”な雰囲気が出せるから?理由ははっきりわからないけど、カッコいいのは間違いない!でも、いざレコードを買うとなると、なかなかハードルが高いのが現実。レコードに興味はあるけれど、どこでどうやって買ったらいいか分からない人も多いはず。

今回は、そんな悩みを抱えるレコード入門者に向けて、レコードのプロがレコードの買い方を伝授。アドバイスをくれるのは、下北沢で1982年から営業する老舗レコード店、Flash Disc Ranch(フラッシュ・ ディスク・ランチ)のオーナー 椿正雄。さっそく教えて、椿さん。

“偶然出会える”のがレコード店のよさ

まず、レコード店って古本屋さんと一緒で、ものすごいたくさんの種類のレコードがある。でも、これだけたくさんのレコードが並んでいても、世界で流通するすべてのレコードの種類と比べたら、その1%にも満たない数なんだよね。だから、現行品は別だけど、目当てのレコードを探しに、ふらっとレコード店さんに入って、探しているものがドンピシャで見つかる確率はすごく低いと思った方がいい。もしピンポイントで探している場合は、商品検索ができるネット通販の方が手っ取り早いかな。

今回はそうではなく、レコード店でレコードを買う醍醐味を紹介したいと思う。

レコード店では、ピンポイントで狙っていた音楽以外の音楽とも出会うことができる。これが最大の魅力。それにはまず、自分の気に入った曲に“近い曲”を探してみることが大事。つぎに、その気になった曲(レコード)を現物として手に入れてみること。手に入れてみて、はじめて気づく発見が必ずあるから。そして、そのレコードを繰り返し聴いてみること。一回聴いただけではピンと来ないかもしれない。何回か聴いて、はじめて分かる良さっていうのが必ずある。そうやって聴いていると、自分の狙い通りのものだけをリサーチして買っていくだけでは絶対に踏み込めない領域にいけるはず。だから、多少の失敗も含めて、とりあえずレコードをゲットして、たくさん聴いてみることが重要。次は、きっかけとなる自分の気になる曲をどうやって見つけていくのか、その方法を紹介したいと思う。

気になる曲の見つけ方

1.音楽のプロに相談してみる

まず、一つ目の方法として挙げられるのが、レコード店の店員さんに相談してみるという方法。

とにかく音楽をたくさん知っているプロだから手っ取り早い。相談する際のポイントなんだけど、店側の者としてお願いしたいのは、なるべく具体的な手がかりを一つでも多く教えてほしいかな。「カッコイイ音楽!アツい音楽!を教えて」っていわれても、その感覚は人それぞれだから、それはむずかしい(笑)。曲名と歌手名が分かれば、それに越したことはないけれど、「メインの楽器がピアノである」や「ボーカルが女性である」とか。あとは、「あのイベントでかかっていた音楽」や「こんなお店で流れていたBGM」とか教えてもらえれば、どんな現場でどんな曲が使われているかの傾向はだいたい把握しているから、少しずつ音楽を絞り込んでいける。完全一致で当てるのは難しいかもしれないけど、近しいテイストの音楽は紹介できると思うよ。

「店員のオススメを聴いたけど、なんかちょっと違う・・・」なんてことも場合によってはあるかもしれない。だけど、そういう音楽も今後の糧と思って、まずは聴きこんでみることが大事!意外な発見があったり、何年後かに「あっ!あの時紹介してくれた音楽か!」なんて繋がったりすることがあるからさ。

2.自分自身で調べてみる

二つ目は、自分で“下調べ”をしてみる方法。

例えば、好きなアーティストがいる場合には、その歌手名を検索してみる。そうすると、自分の好きな音楽のジャンルが見えてくるはず。オルタナティブロックなのかジャズなのか、ファンクなのか。それだけで、かなりの絞り込みができる。多くのレコード店は、音楽のジャンルによって在庫が分けられているから、自分の気になるコーナーを探せば、好みの曲に出会える可能性が高い。

例外的に、年代別にレコードを置いている店もある。実はこれも有効な分け方。1980年代になると、新たに“80’s(エイティーズ)”ってジャンルができたほど、音楽のジャンル横断が大きく進んだ。だから、80年代のHIPHOPとブルースっていうのは、一見異なるジャンルの音楽にみえて、意外と共通点があったりするんだよね。80年代に限らずとも、60年代のポップスとジャズにも共通点があったりする。だから、同年代の音楽であれば、ジャンルが違っていても、気に入った曲が見つかる可能性がある。これはファッションに置き換えても言えると思うんだけど、時代によってファッションのトレンドがあるように、音楽にも時代ごとにその空気感が現れるんだよね。

3.“ジャケ買い”

最後に紹介するのが、いちばんレコード店ならではの買い方といえるかな。それは、ジャケットからレコードを選ぶという方法。

通称、”ジャケ買い”。ジャケ買いとは、名前も曲も全く知らないアーティストのレコードのジャケットだけを見て、ピンときたものを買うこと。もちろん、ジャケットはかっこいいけど、曲は・・・これ?(笑)みたいなレコードも多く存在するよ。例えば、今度は洋服の通販をイメージすると分かりやすいかも。商品画像を見て選んで、実物が届いたら、「あれ?なんかイメージと違う・・・」みたいなことも全然ある。でも、ひとつのヒントとして、1970年代以前のレコードのジャケットは、なんとなく音楽とリンクしていることが多かったりする。ジャケットをアートとして考えていたのがその頃までで、セールスに結びつかない方向で凝ったものに仕上がっていることが多い。それ以降は、ジャケットを“広告”として捉えるようになり、売るための手段として力を入れるようになっていったんだよね。その結果、さっき言ったギャップが起こりうるってこと。

なにはともあれ、ポイントはジャケ買いのあと。実際にレコードを聴いてみて、自分の好みの曲やアーティストに出会うことができたら、まずは「ジャケ買い成功」といえるかもしれない。でも、どんな音楽であれ、しっかりと音楽を聴いて楽しむことがなにより重要!実際、予想もしなかった音楽で出鼻をくじかれることも少なくない(笑)そういう時でも、まずは聴いて、音楽を理解しようとしてみることが大切。どんなレコードでも、家に連れて帰って、ちゃんと聴く。そこまでするのがジャケ買いの極意!

今、試しに“ジャケ買い”してみる?椿さんの提案で、急遽“ジャケ買い”をすることになったQUI編集部。無数にある在庫の中から、ビビッとくるジャケットのレコードをひたすらにディグる。いろいろなジャケットがあってめちゃくちゃ楽しい!ちなみにFlash Disc Ranchは、ジャンルによって在庫が分けられている。

はじめてのジャケ買い

J.Douglas Edwardsの『VIVA LA DIFFERENCE』

裸なのにオシャレをしているセクシーな後ろ姿にやられて選んだ1枚。ドキドキしながらジャケットを裏返してみると・・・表側と同じ後ろ姿で一安心。どんな曲が入っているのか想像がつかない。

いいね!すごいジャケットだね(笑)。でも、これは音楽のレコードではなく、セールスの極意を伝えるための講義が収録された、参考書ならぬ「参考レコード」なんだ。だから収録されているのは、音楽じゃなくてセールストーク。このレコードが置いてあったのは、喋りや朗読といった音楽以外のレコードが集められたコーナー。そのコーナーにどんなレコードが置いてあるのかがわからなければ、それはお店の人に聞いた方がいいかもしれないね。実は、こういう“喋り”が録音されたレコードっていうのは、どういうわけか奇抜なジャケットが多い傾向にあるかな。

ところで、なんでこんな変わり種がうちの店に置いてあるかっていうと、音楽をつくる人たち向けの素材として置いてあるんだよね。この声をサンプリングして、ビートと組み合わせれば、れっきとしたオリジナルのクラブミュージックに仕上がるってわけ。この類のレコードをチョイスしたけど内容が分かってなさそうなお客さんには、念のため、お知らせをしているよ。さっき、「ピンと来ない曲でもちゃんと聴くべきだって言ったけど、さすがにこれは例外だからね(笑)。

Cameo(キャメオ)の『Machismo』

最近気になっていたファンクのコーナーを探していると、バイオレンスな姿の男性が目に飛び込んできた。バックにいるシュールなポーズの男性二人も魅力的。この3人組はどんな音楽を奏でるのだろうか。

CAMEO はファンクのバンド。元々8人いたメンバーも、生演奏から打ち込みにシフトしていくなかで、この頃には3人に減ってしまって・・。実は、この前作のアルバム『Word Up!』がヒット作。だいたい、ヒット作の次作っていうのは、こけちゃう作品が多いんだけど、このアルバム『Machismo』も例外ではなく、前作に比べて伸び悩んでいたのが事実(笑)。

ヒット作品にはそれなりの値段がついていることが少なくないけど、そうでないアルバムは比較的手に取りやすい値段で店頭に並んでいることが多い。だから、レコード初心者はまずは安価なレコードの中から選ぶのもポイントかな。この『Machismo』を聴いたら、Cameoの音楽のスタイルが分かるでしょ。そういうヒントが得られただけで、ジャケ買いは成功といえると思う。このアルバムの収録曲をよく見ると、JAZZ界のレジェンド Miles Davis(マイルス・デイヴィス)を迎えた曲も収録されているね!

Steve Hackett(スティーブ・ハケット)の『Please Don’t Touch』

昔から好きなロックのジャンルを探していると、ファンタジー感たっぷりのイラストが描かれたジャケットを発見。かわいらしいジャケットの中身は、クラシックやカントリーしかイメージできない。ほんとうにこれ、ロックなの?

これはGenesis(ジェネシス)っていうバンドのギタリスト、Steve Hackett(スティーブ・ハケット)の2作目となるソロアルバム。Genesisで他に有名なメンバーを挙げると、Phil Collins(フィル・コリンズ)がいるかな。曲を聴くと分かるけど、聴いている人に訴えかけるような叙情的な音楽がプログレッシブロックの特徴。プログレッシブロックにもいろいろテイストがあるんだけど、ロックをベースに、クラシックとジャズ、そして民謡の要素をミックスした音楽と言われているよ。プログレッシブロックというジャンルが確立したのは1972年頃で、このアルバムは1978年のもの。

少し話は変わるけど、一般的に1982年までのレコードは蓋然的に商品価値があるとされているかな。その理由は、“レコードらしい音”がするから。レコードの魅力を表す要素として「音が良い」ってよく言われてると思うけど、そのレコードっていうのは82年までのものを指しているかな。

 

はじめてのジャケ買い、おつかれさまでした!

”レコード集め”っていうのは、一つの旅というか放浪みたいなもので、10人いれば10人なりの旅の仕方、放浪の仕方があると思う。人気のあるスポットや多くの人が通るポイントはあっても、それぞれの辿り方や行き着く先、そして、それに自分でどんな価値を見出してるのかがまるで違う。“自分の感覚”を頼りに、個性的な旅をしているお客さんに出会えることが、この商売をしていて一番楽しい時のひとつかな。ノウハウ的に捉えて、効率よくゲームをクリアするかのように“賢く”レコードを買っている人もいるけれど、それじゃあせっかくの自分だけの旅を十分に楽しめないかな。みんなも自分だけの旅を存分に楽しんでね!

 

取材協力:Flash Disc Ranch(フラッシュ・ ディスク・ランチ)

 

  • text&edit : Keidai Shimizu
  • photo : Makiko Higuchi