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濱口竜介 – 映画という偶然と想像

Dec 16, 2021 - FILM
カンヌ、ヴェネチア、ベルリンと世界の名だたる映画祭にもその名を刻む映画監督、濱口竜介。最新作であり、自身初の短編集である映画『偶然と想像』に込めた想い、そこで感じた表現の可能性について。

物事を偶然と捉えるか、必然と捉えるか

— 映画『偶然と想像』は“偶然”と“想像”がテーマになっています。濱口監督は“偶然”と“想像”をどのように捉えていますか?

“あるもの”と“ないもの”ですね。“偶然”は現実に存在するもので、反対に“想像”は現実にないからこそしてしまう。現実を記録してフィクションを作っていく映画というものは、現実とフィクションのちょうど間だと思っていて。それを一言で言うと「偶然と想像」になるのかなと。

— 「映画は“偶然と想像”だ」と気付いたのには何かきっかけが?

もともと“偶然”というテーマにすごく興味があって、始めは“偶然”だけをテーマに映画を作っていたんです。だけど今回の3話の脚本を書いたときに、3話ともどうしても“想像”が入ってきて。それがすごく興味深かった。偶然が起こると、どうしても「あれがなかったら?」という発想が生まれる。“偶然”を通じて、「今ある世界」と「ありえたかもしれない世界」を“想像”することになるんですよね。

©︎ 2021 NEOPA / Fictive

— “偶然”を作品として“作る”ということは難しくなかったですか?

映画というのは、現場で起きる偶然を捉えるのが得意なメディアなんです。例えば鳥が飛んできて画面に入ってしまうとか。そういう偶然が起きると、その時空間はかけがえのない一回きりのものに見えるし、そういうものを捉えるのは映画撮影にとって本質的に重要なことです。だけどおっしゃる通り、物語に入れるとなると一段と難しい。どうしても現実の“ふり”をしているように見えてしまうので。観ている人は「それを起こしたのは語り手ですよね?」と思って、すごく冷めた気持ちにさせられてしまう。

ではどうすればいいかというと、できるだけ作り物であるということを隠さない。現実の“ふり”をすることをやめる。また、タイトルにも入れて「偶然」についての物語だとあらかじめ知っておいてもらう。そうすると、観客は「この偶然が起きたあと、どうするんだろう」という視点で見てくれるのではないかなと思って。

— 今作の現場で起こった偶然はありましたか?

映画の中では風が吹くことも素敵な偶然で、「ここで風が吹いたら素敵だろうな」というシーンもあったのですが、そう望んでいると起こらなかったりもする。狙って偶然を起こすのはやっぱりすごく難しい。それでも偶然を信じてみることは大事です。そのことで思いもよらない世界を見ることができる。そういうことを伝えられる作品になったのではないかなと思います。

©︎ 2021 NEOPA / Fictive

— 濱口監督の人生で起こった印象的な“偶然”はありますか?

この映画を作ったことでよく聞かれるのですが、ないんです。というのも、それが“偶然”だと認識していないから。他に選びようもなかったような、必然でしかなかった気がしているんです。インタビューなどで人生を振り返っていると、「よく、そこでそう動きましたね」みたいなことを言われるのですが、自分にとっては自然なことで。自然と自分がそう動くように気持ちが固まっていくから、偶然というよりも必然だと感じているんです。

— 『偶然と想像』に出てくる3つの偶然は、必然だと思いますか?

これにはいろんな捉え方があると思っていて。物事を偶然と捉えるか、必然と捉えるかは永遠のテーマです。主観的な視点では偶然だけど、神の視点のようなところから見たら必然だったりするわけで。一概に偶然か必然かは決められない。それをどう捉えるかは、出来事をあとから振り返ったときに決まるものだと思うんです。そう考えると、この3つの話の偶然は、話が終わったあとに「あれは一つの必然だったな」と思えるような偶然のあり方になっているのではという気がしています。

©︎ 2021 NEOPA / Fictive

 

言葉や言葉の意味によって生じる影響が面白い

— 『偶然と想像』に限らず、濱口監督の作品で描かれる登場人物は、関係性が魅力的です。監督が不思議な関係の人々を描くのにはどのような理由が?

名付けられないものに興味があるんです。例えば「恋人」とか「家族」とか「友人」とか、いろいろな関係がありますけど、名前の付かない関係ってたまにありますよね。ちょっとした知り合いだった人と偶然会って、ものすごく深い話をしてしまうとか。そういうものになぜか惹かれるんです。

— そういう関係を作品として描くことで、見えてきたものはありますか?

「これが一番大事なんじゃないかな」ということですね。名前のない関係の人と深く話をしてしまうことって、他者と分かり合う喜びを知るということだと思うんです。翻ってそれは実は、恋人や家族、友人との間にも起こることなんだとも思います。親しい人との間でも、相手の知らなかった面を発見したときに深い驚きと、ときに喜びを得られる。だからどんな相手とも“他者として出会う”ということが大事なんじゃないかなと。

— 濱口監督の映画はダイアローグを大切にされている印象があります。作品をつくっていく中で気付いたことはありますか?

言葉は本当に面白いものだなと思います。役者さんにとって、そのセリフを言うモチベーションって、基本的にはないわけで。あくまでもそのセリフはキャラクターのものであって、役者さんのものではないはずですが、その言葉を口にしたことでその人の身体に起きる変化はあるような気がしていて。もしかしたら、言われた相手の反応を見て起きているのかもしれないですが。そういう言葉や言葉の意味によって生じる影響は、演出をしていて、ますます面白いなと感じています。

©︎ 2021 NEOPA / Fictive

 

短編は、観客の想像力が支えてくれる

— 今作は濱口監督にとって初の短編集です。監督は「このスタイルをライフワークとしたい」と思っているそうですね。

はい。今回の3話は、どれも長編としては成立しないような話だけど、短編という形だと飛び込める。短編映画っていろいろな面でチャレンジしやすい場なんですよね。ただ、それを日本の商業映画の現場の中で作っていくというのは難しい。だけど短編集というスタイルであれば作り続けられると今回作って思いました。長編を作っていくことと並行して、短編集という形で実験をしていけたらと。

— 今回3話作ってみていかがでしたか?

改めて、短編というものは本当に面白いなと思いました。長編とは全く違いますね。物量として短いということは、描けないことが増えます。でも描けないことが増えることにより、観客の想像力に支えてもらう部分が必然的に増えるんです。先日、東京フィルメックスで上映してもらったのですが、そのときにめちゃくちゃ笑いが起きていて。自分の今までの作品でこんなにレスポンスが返ってくることはなかったので、短編はむしろ、観客と結びつきやすいものなのかもしれないと思いました。

— 想像力に委ねる部分が多い点では、監督にとって鍛えられるということも?

そういう部分もあると思います。その場合、見せ過ぎても見せなさ過ぎてもダメでしょうし。そのラインをシビアに考えるようになります。そしてその感覚を、長編に持ち込めたら面白いだろうなとも。これから先、短編と長編を順繰りに撮っていけたらと思っています。

 

Profile _ 濱口竜介(はまぐち・りゅうすけ)
1978年神奈川県生まれ。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスに出品され話題を呼ぶ。その後は日韓共同制作『THE DEPTHS』(10)、東日本大震災の被害を受けた人々の「語り」をとらえた『なみのおと』、『なみのこえ』、東北地方の民話の記録『うたうひと』(11~13/共同監督:酒井耕)、4時間を超える虚構と現実が交錯する意欲作『親密さ』(12)などを監督。15年、映像ワークショップに参加した演技経験のない4人の女性を主演に起用した5時間17分の長編『ハッピーアワー』が、ロカルノ、ナント、シンガポールほか国際映画祭で主要賞を受賞。商業映画デビュー作『寝ても覚めても』(18)がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、共同脚本を手掛けた黒沢清監督作『スパイの妻〈劇場版〉』(20)ではヴェネチア国際映画祭銀獅子賞に輝く。本作『偶然と想像』は第71回ベルリン国際映画祭にて銀熊賞(審査員グランプリ)受賞。一足先に劇場公開された『ドライブ・マイ・カー』(21)では、第74回カンヌ国際映画祭にて脚本賞に加え、国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞も同時受賞。今、世界から最も注目される映画作家の一人として躍進を続けている。

 


 

Information

映画『偶然と想像』

2021年12月17日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー

第71回ベルリン国際映画祭審査員グランプリ受賞。濱口竜介、初の短編集。驚きと戸惑いの映画体験がいま、始まる—。

監督・脚本:濱口竜介
出演:古川琴音、中島歩、玄理、渋川清彦、森郁月、甲斐翔真、占部房子、河井青葉

配給:Incline

『偶然と想像』公式サイト

©2021 NEOPA / fictive

  • Photography : Naoto Ikuma(QUI / STUDIO UNI)
  • Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
  • Text : Chie Kobayashi
  • Edit : Sayaka Yabe
  • Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)