QUI

ELANESPOIR 清竜人 × イリエナナコ − THE MULTISENSE vol.5

Nov 11, 2021 - FASHION
ファッションデザインとは異なるバックグラウンドを持ったアーティストだからこそ生み出せるファッションの新たな価値に、自身も映画監督やコピーライターとして活動しながらワンピースブランド<瞬殺の国のワンピース>を手掛けるイリエナナコが迫る連載“THE MULTISENSE”。

第5回のゲストは、ファッションブランド<ELANESPOIR(エラネスポワール)>を立ち上げたシンガーソングライターの清竜人。清はクリエイティブディレクターとして、コレクション毎に異なるデザイナーをはじめとしたクリエイター陣を率いる。

時代とコミットする服づくりを

イリエ:<ELANESPOIR(エラネスポワール)>の企みはいつから?

清:2021年AWのローンチが2021年の5月末だったんですけど、その1年前くらいからスタートしました。新型コロナウイルスの影響もあって、アーティスト活動をストップせざるをえない状況で。ちょうど会社(JOHN・L・FLY合同会社)を設立したタイミングとも重なり、新事業としてファッションの分野に挑戦してみることにしました。何かしらの形でアーティスト活動とクロスオーバーできたらいいなと。

イリエ:これまでも竜人さんがやってきたことって、世の中が驚くようなことが多かったですよね。

清:新しいことをするときって、バランスを取るのがすごく難しくて。奇をてらっているように見られる可能性もあるので。まず、自分自身が興味を持ってやりたいと思えて、かつ自分ができることかをシビアに判断しています。

性格的に、さまざまな分野にチャレンジすることとやいろんな人格で活動することはすごく好きなんです。今は音楽とファションという二足の草鞋ですけど、今後はまた違う分野のことにチャレンジして、新しい人格を持ってもいいなと思っています。

イリエ:初の自社事業としてアパレルを選択したのは、業界にどんな可能性を感じたからですか?

清:コロナ禍でアパレル業界は大変なんですけど、我々みたいなスケールの小さいブランドは増えているのが少し面白い状況で。必要なものだけを作っていくスタイルであれば時代ともコミットしているのかなと感じています。

イリエ:あとは単純にファッションが好きというのも理由ですよね。竜人さん自身のファッション遍歴もお聞きしたいです。

清:学生時代は古着屋によく行っていました。歳を重ねると古着のものでもハイエンドなものを選び始めて。それが嫌になるとフォーマルの方に走って、スーツは必ず仕立てる、みたいな。

イリエ:一番ファッションを楽しんでいた時代は?

清:フォーマル期前後は、アイテムをその部位に使わないという変な着方をしていました。ズボンをトップスとして着るとか(笑)。

イリエ:(笑)。音楽とファッションって文化として近しいイメージがあるんですけど、竜人さんはどう感じていますか?

清:切り離せない分野だとは思います。アーティストが表に出る時に何かを着て、それがアイコンになる。例えばマドンナとか。そこもアーティストの才能のひとつというか。音楽はもちろんですけど、その周辺の分野にもアンテナを張っていないと、良いアーティストにはなれないですよね。

イリエ:「アーティストに憧れる」という文化が無くならないでほしいです。

 

流動性と多様性のあるブランドに成長させたい

イリエ:<ELANESPOIR>のコンセプトを一言で表すと何になりますか?

清:「ノーコンセプト」であることがコンセプトですね。<ELANESPOIR>では僕自身がクリエイティブディレクターとして全てを統括し、イニシアティブをとってスタッフィングしています。そうすることでコレクションごとにデザイナーもドラスティックに変えられる。いい意味でデザイナーの個性が出すぎない、流動性と多様性のあるブランドに成長させていきたいんです。

イリエ:なるほど。コレクションごとにデザイナーを変えるという発想の前に、自分でデザインしようと考えたフェーズもありましたか?

清:それは無かったです。基本的に適材適所で運営するのが理想で、できることはすべて自分でやるけれど、できないことはすべて人に任せる形が大事だと思っているので。そこは最初からクリアになっていました。

イリエ:ファーストコレクションのデザイナーの岡本龍星さんはどうやって選ばれたのでしょうか?

清:web上で作品を見つけて、「一緒にやりませんか?」と直接連絡をしました。考えていたコンセプトや構成がファーストインプレッションですごく合致したので、彼にデザインを依頼して良かったと思っています。

イリエ:実際の制作はどのように進行されましたか?

清:デザインもスチールもムービーも、僕がまずプロットや資料を作ったうえで打ち合わせを重ねて、それを作品に落とし込んでもらっています。服のディテールに関しては専門家ではないので、デザイン的な意思は尊重しつつ「こういう形にできないか」と意見交換をしています。

イリエ:ファーストコレクションのテーマ「Social dance(ソーシャルダンス)」はどういう流れから発想を?

清:コロナ禍の時代に「ソーシャルディスタンス」という概念が生まれて、人と人との距離を意識するようになった。その時代の変化から人と人との距離がつくる美しさについて考えるうちに、ソーシャルダンス=社交ダンスというアイデアが浮かびました。

人と人とが近付いたり離れたりすることで、美を追求するパフォーマンスアートってすごく時代性があるし、伝わるものがあるのではないかと。その概念を洋服に落とし込めたらきっと面白いものになると思ってスタートしました。

イリエ:ブランドの立ち上げや服作りで難しかったことや、予想外のことはありましたか?

清:腐るほどありましたね(笑)。何の知見もコネクションもないゼロからのスタートだったので。名刺を作って、いろんな会社にアポイントをとって、打ち合わせに行って…と、人生で初めてサラリーマンみたいな動きをしました。

縫製業者を選ぶにしても生地を選ぶにしても、数ある手札のなかから1つを選べる方が良いと思ったので、本当にいろんな会社の方に会いに行きました。飛び込みで営業に行って、ちょっとずつ情報を収集して、どんどん輪が広がっていって。すごく大変だったんですけどファーストコレクションを経てようやく知見がたまってきたので、次回からはもう少し楽に進めていけるかなと。

イリエ:探りながら進めていくことってすごく意味がありますよね。その姿勢は音楽のお仕事でも同じですか?

清:音楽を作るときはアーティストの人格なので、全然違いますね。ちゃんとしすぎると作品作りでは悪影響だったりするんです。そこは本当に難しいバランスなんですけど、自分に多少わがままでないと良いものづくりはできないと思うので。

イリエ:音楽活動がブランドづくりに影響を与えたことも?

清:コレクションムービーに音楽をあてるなど実務的な部分はもちろん、感性的な部分もきっとありますよね。でも自分の色は出しつつ、<ELANESPOIR>はあまり清竜人的では無い方が面白いと思っていて。ファッションブランドとして認知・評価されたいので、僕とブランドの距離感や線引きは慎重に進めていきたいと考えています。

 

洋服の裏にある社会的なメッセージも問われてくる

イリエ:<ELANESPOIR>のローンチ後、世の中のリアクションはいかがでしたか?

清:ファーストコレクションは名刺代わりにしたかったので、世界観やコンセプトをプロダクトに落とし込んで提示できたというところは手応えを感じています。

コロナ以降にブランドを立ち上げる方が増えた中で、ファッションブランドとして一線を画した挑戦をしていきたいと強く思っていました。アーティストの物販、グッズの延長線上の見せ方はしたくなかったので、ものづくり、リリース、プロモーションなどをスタッフと計算しながら戦略的に進めていって、印象づくりもある程度成功したのではないでしょうか。

イリエ:アーティストグッズの延長線上にならないために、どんなところが肝だと考えていますか?

清:プロダクトとプロモーションの印象がすごく大きいと思っています。音楽の場合、販売する音源に落とし込むまで作詞、作曲、編曲、ミキシング……とさまざまな工程があるんですけど、1人で全部やる人もいて。全部やるという良さもあるんですけど、工程ごとに使う脳が全然違うんです。各工程でマインドやスタンスなどのモードを変えていかないと、クオリティが下がってしまうことがあって。

アーティストが違う分野に取り組むときって、求められていることとしなければいけないことの切り替えを意識的にできるか否かというところが、世の中に伝わっていくように感じています。そこを曖昧にして、具体的なイメージや戦略を立てずにやってしまうと、あまりいい印象を抱かれないということも有り得ると思うんです。

イリエ:竜人さんのなかでその1つの答えが、クリエイティブディレクターとしてブランドに携わるということだったんですね。

清:そうですね。一発だけで世の中に認めてもらうのは難しいので、素敵なブランドだと思ってもらえるように5年10年とコンスタントにコレクションを継続していくことが大事だなと考えています。

イリエ:ブランドとしての展望を教えてください。

清:流動的なことのが<ELANESPOIR>の大きなメリットなので、前回のコレクションの延長線上で何かをやるのではなく、いろんな形で展開できた方が良いと思っています。あまり惰性的にものづくりをしても面白くないですし。

あと、いろんな人と出会って、新しい価値観や洋服業界のいろはを学べたことが、すごくいい経験になったんです。だからまだ関わっていない分野の方々や企業などと手を結んでクリエイトしていきたいなと。

イリエ:他の人からの影響で、意外な展開に転がっていくこともありますよね。

清:ありますね。最近は年齢とキャリアを重ねてきたこともあり、周りの意見を聞いてマイナーチェンジしたり、作品の構成を少し変えてみたり。20代は全てのものづくりがワンマンだったんですけど。

あとはスタッフィングも大切だと思っていて。制作チームは一定期間で抜本的に変えています。自分の作品だけでなく、スタッフィングも含めてデトックスするみたいな。

イリエ:慣れてるスタッフも変えてしまう。

清:もちろんツーカーな人の方がやりやすいんですけど、新しい人とやることで大きな影響がもらえたり、刺激を受けたりするんですよね。だから居心地が良くなりはじめたら、あえて居心地の悪いところへ移動するようにしています。

イリエ:先ほど流動的なことが<ELANESPOIR>のメリットだとお話されていましたが、どんな部分を流動的に変えていこうと考えていますか?

清:トンマナをドラスティックに変えていくこともあるでしょうし、アパレルブランドですけど「今季はアクセサリーだけをやる」とか、商品の内容が良くも悪くも定まらないブランドになると思うんです。

取り扱うアイテムを変えていくことによって、全然関わったことのない媒体にアプローチをかけられる面白さも生まれるなと。洋服とは関係のない媒体にアプローチできるようなアイテムを作っていくのもいいですよね。

イリエ:プロモーションから発想してプロダクトをつくる逆転の発想で面白いです。

清:全く違う業界の方と話すと、自分のまわりで接している人ってみんな似ているんだなって感じるんです。枠組みから外れてやっているつもりでも、俯瞰で見るとなんだかんだみんな同じ円のなかでやっていることもあって。固定観念って思っている以上に強いので、円を把握してそこから一歩外へ出て柔軟にやっていけたらと思っています。

イリエ:本当に自由度の高いブランドになっていきそうですね。流動的な中でも「これだけは外せない」というDNAのような部分もあるんですか?

清:僕自身がしっかりとイニシアティブを持って、プロダクトを作っていくというところです。今後スケールが少しずつ大きくなっていった場合、関わるスタッフも増えて、自ずと自分の意思が入る部分が小さくなっていくこともあるでしょう。それ自体が悪いことではないんですけど、枝葉が何であれ幹の部分に必ず僕がいることがすごく大事だなと。

これからの時代、ファッションブランドとして洋服が優れていることはもちろん大事なんですけど、それだけではない部分が求められる時代になっていくと思うので。洋服の裏にある社会的なメッセージも問われてくると感じていて。コレクションごとに表現は変わっても、その裏にある強いメッセージや芯を欠かさずにものづくりをして、そのメッセージを好きになってもらうことがファッションブランドとしての正しい在り方かなと思っています。

 

 

Profile _

左:清竜人(きよし・りゅうじん)
1989年5月27日生まれ。2009年にシンガーソングライターとしてデビューし、これまで手掛けた楽曲は150曲を超える。自身の活動に加え、多数の楽曲提供を行っており、各アーティストの魅力を最大限に引き出すプロデュース能力は、業界からの厚い信頼、リスナーからの高い評価を得ている。さらに、近年はCM・舞台音楽監督、俳優、ナレーターなど、一つの分野に留まることなく活動の場を拡げており、2020年には自身が代表を務める会社を設立。翌年5月にファッションブランド<ELANESPOIR>を立ち上げ、Creative Directorとしても活躍。以後、多岐にわたる事業の準備を行ないながら、様々な企業やプロダクトのディレクションを引き受けている。
Instagram Twitter ELANESPOIR(お問い合わせ contact@johnlfly.com

右:イリエナナコ
東京生まれ。コピーライティング、クリエイティブディレクション等の仕事のほか、映画制作、絵の作品「図」シリーズの発表、言葉の作品の展示等、作家活動を行なっている。映画監督作に『愛しのダディー殺害計画』など。最新作『謝肉祭まで』が2021年12月より公開。2021SSよりワンピースブランド<瞬殺の国のワンピース>スタート。

Instagram Twitter www.irienanako.com 瞬殺の国のワンピース

  • Photography : Kei Matsuura(QUI / STUDIO UNI)
  • Styling : Iori
  • Hair&Make-up : Seiya Ohta
  • Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
  • Interview : Nanako Irie
  • Text : Sayaka Yabe
  • Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)