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松本花奈 – 物語に無駄を

Dec 30, 2021 - FILM
中学生のころから映像制作を開始し、現在は大学生ながら10年近いキャリアを誇る映画監督、松本花奈。カツセマサヒコによる長編小説『明け方の若者たち』の映画化を手掛けた彼女に、映画における原作や脚本との向き合い方について聞いた。

小説を読んですぐに映画化を考えた

— まず、『明け方の若者たち』映画化の経緯をお聞きしたいです。

原作のカツセ(マサヒコ)さんとはもともと知り合いだったんです。以前カツセさんがTwitterで恋愛妄想ツイートをされていて、それをショートフィルム化する企画でご一緒して。その流れで「小説を書きました」という連絡をいただき、読んでみたらめちゃくちゃ面白くて。

— 小説の発売からすごいスピードで映画化が進んでいきましたよね。

小説の発売が2020年の6月だったんですけど、そのときに私が「ホリミヤ」というドラマを撮影していて。「ホリミヤ」のプロデューサーも小説を読まれていて、一緒にやりたいという話になったんです。映画化が決まったのは2020年の10月頃でした。

— 小説を読みながら、監督のなかでどんな映画にしたいかイメージが浮かんでいたのでしょうか?

そうですね。作中に出てくるく明大前や高円寺、下北沢などの具体的な地名が自分の生活圏と重なっていることもあって、パッと画が頭に浮かびました。

— 好きな小説や面白い小説ほど、2時間の映画にどのように落とし込んでいくかすごく悩みそうですが、今回はどこを軸に?

「こんなはずじゃなかった」という想いを軸にしました。この言葉に、現代の若者たちが抱える“ままならなさ”が形容されていると思っています。自分も含めて、その“ままならなさ”とどう向き合い、どう生きていくかを考えるキッカケになれば良いな、と。それから、小説では“僕”視点で物語が進んでいきますが、映画では“僕”視点ではない”彼女”や尚人もしっかり描くことで、作品全体に奥行きが出るよう意識しました。

— それぞれの役の背景もしっかり考えていったんですね。

“彼女”に関しては、特に考えました。小説には載っていない「幻の9章」というものがあって。その章は“彼女”視点で、“僕”と出会う前〜出会ってからのことが書かれたものでした。撮影前に(彼女役を演じた)黒島(結菜)さんにもそれを読んでもらって、“彼女”のバックボーンについて話し合いました。

— そうだったんですね。彼女の存在をどのように描くかによって、全体のバランスも変わってきそうです。

そもそも“僕”が“彼女”を好きになったのって何でだろう?と考えた時に、ただ可愛いからとか、居心地が良いから、とかだけではないと思ったんです。“彼女”の生き方への尊敬があるから、ずっと一緒にいたいと願ったはずで。周りに流されることなく、物事の判断基準が自分にある人でいて欲しいと思いました。

 

本音をさらけ出さないことが、いまのリアル

— 本作では、僕と彼女の<恋愛>と、社会人として直面する<理想と現実>という2つの要素が描かれています。映画を作るうえで、そのバランスをどのように考えましたか?

その2つの要素は、“僕”の中で独立したものではなく、影響し合うものだと考えていました。だから、どちらかに偏った描き方をするのではなく、 “僕”の人生の一部分を切り取るような想いでいました。

— <恋愛>や<理想と現実>は多くの人が共感する要素だと思うのですが、そういった普遍的な内容を描きつつ、時代性を取り込むために意識した部分はありますか?

会社のシーンに関しては、モデルになっている会社があったので取材に行き、実際に働いている20代後半~30代前半の人たちにインタビューをして生の声を聞かせてもらいました。あと、自分の周りにも大学を卒業したばかりの友達が結構いたので話を聞かせてもらって、リアルな声を集めていきました。

— 生の声を聞いて、作品のどんな部分に落とし込んでいったんですか?

自分も含めてなんですけど、「うまくいっていない自分をさらけ出したくない」と思っている人が多いことに気が付いて。社会に出たら何者かになれると信じていたからこそ、悩みやモヤっとした気持ちがあったとしても、なんとなくうまくいっている風に装ったり、楽しんだりしている風に演じているというか。友達とか恋人には、あまり本音をさらけ出さないのかなと。“僕”も、将来への不安は常に抱えているけれど、それを前面に出し過ぎない方がリアルだと考えました。

作品のなかの“僕”に関しても、本当はもっともっと悩んでいて、いろいろな感情があると思うんです。でも、あまり暗くなりすぎず、落ち込みすぎないように描く方が、リアルなのかなと思いました。

©カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会

— その、内に秘めてるけど表に出しすぎない感じを、北村匠海さんが見事に演じられていましたね。北村さんとご一緒したことで、イメージが広がったり新たに生み出されたりしたものはありましたか?

今回結構アドリブのシーンがあったんですけど、北村さんが率先して3人の空気を作ってくださったんです。たとえば高円寺での引っ越しのシーンや、居酒屋を出た後にまた飲んでいるシーンはアドリブで演じていただきました。

— もともとそのシーンはアドリブで撮りたいと思っていたんですか?

そうですね。脚本上では「3人が電球を変えている」「3人が缶ビール片手に、喋っている」といったト書きのみが書かれていました。素に近い表情を引き出したかったので、実際に使うのは10秒とか15秒とかであっても、3分間くらいずっとカメラを回したりしていて。

— 脚本づくりの段階から、そういうシーンを入れたいと脚本家に相談を?

相談させて頂いたシーンもありますし、現場で変えていったシーンもあります。

©カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会

— 松本監督も脚本を書かれますが、作品によってご自身で書くのか、今回のように脚本家に任せるのか、その判断軸はどこにあるのでしょう?

明確に判断基準を決めているわけではありません。今回でいうと脚本家の小寺和久さんとお茶をした時に、大恋愛をされているという話を聞いて(笑)とても沼に入られていたんです。話を聞きながら私の中で、“僕”と小寺さんが重なる部分があって……。主人公にここまで共感できる人はいないんじゃないかと思い、ぜひ小寺さんに書いて頂きたい!とお願いしました。

— 小寺和久さんとは、『過ぎて行け、延滞10代』や「21世紀の女の子」の一篇『愛はどこにも消えない』などでも組まれていますね。

これまでも何度か小寺さんとご一緒させて頂く中で、いつか長編商業映画を一緒にやろう、という目標を掲げていました。その夢がこんなに早く叶うとは思わず、嬉しかったです。

実際に商業作品で一緒に作ってみていかがでした?

とっても楽しかったです!脚本を作る期間は短かったのですが、少なくとも一週間に一回は会って、打ち合わせをして、改稿を重ねてを繰り返して。濃密な時間でした。

— 監督と脚本家はある程度関係性が構築できていた方が、良い作品に繋がりやすい?

そうですね。人間同士なので、合う・合わないはあると思います。

 

無駄に思えるようなシーンがあると面白い

— 映画化できるコンテンツって世の中にたくさんありますが、その中で映画化したい・したくないと思う判断基準はどこにあるんですか?

自分では思いつかないようなことが書かれているとハッとしますね。そういう視点もあるんだという部分に惹かれて、映画化したらどうなるんだろうと考えます。

— 小説の『明け方の若者たち』では、どの部分に一番惹かれました?

どんな形であれ、“僕”が“彼女”にここまでのめり込めることが素敵だなと思いました。たとえ自分がボロボロになったとしても、“彼女”を好きでい続けたその気持ちを肯定したくなりました。

©カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会

— 小説から脚本に落とし込んでいくときに、どのように変えていくんですか?

小説と脚本では、セリフの作り方が違う気がしています。『明け方の若者たち』に限らず、小説のセリフはキャラクターがわかるように書かれていて、セリフだけで読むと少し誇張されている感じがしていて。映像の脚本にするときはそこまで誇張せずに、もう少し抑えていいと思っています。

— なるほど。映像の場合は誰が話しているか、視覚的にも明確ですしね。ちなみに、松本監督が思う良い脚本ってどんな脚本ですか?

一見無駄に思えるようなシーンがあるかどうかです。停滞しているシーンとか、結局あのシーン何だったんだけ?と感じるシーンがあると面白いですね。物語を追っていくだけでなく、息抜きになるようなシーンがあると良い脚本だなと思います。

— 作品を作っていくなかで、迷ったり悩んだりしたことはありましたか?

タイトルにもある明け方のシーンにはこだわりました。明け方って、本当に刻一刻と陽が変わっていくんですよ。まだ暗いかなー、なんてボーッとしていると数分後にはもうすっかり太陽が昇ってきていて。だから実際に撮影できる時間は、30分もない位でした。高円寺での“僕”、“彼女”、尚人の3人のシーンでは、深夜から集まってリハーサルを何度も行い、本番に備えました。

撮影風景

— あと、キリンジの「エイリアンズ」、きのこ帝国の「東京」、マカロニえんぴつの「ヤングアダルト」など、音楽の入れ方がすごく効果的でした。今回音楽の入れ方でこだわったところは?

特に物語の前半は、”僕”が自分の考えていることをあまり口に出さないので、曲で心情を補ってあげるように作りました。「ヤングアダルト」は小説「明け方の若者たち」をドンピシャで象徴する曲だと、カツセさんともお話していました。

— 松本監督は、ドラマやミュージックビデオなど、いろいろな作品を作られていますが、映画はどのような形で作り続けていきたいと考えていますか?

このメンバーで、その時にしか撮れなかったと強く感じる、刹那的な瞬間が映し出されている映画を作り続けていきたいと思います。

 

 

Profile _ 松本花奈(まつもと・はな)
1998年生まれ。大阪府出身。慶應義塾大学総合政策学部在学中。初長編監督作品 映画『真夏の夢』が史上最年少の16歳でゆうばり国際ファンタスティック映画祭に正式出品。翌年、同映画祭にて映画『脱脱脱脱17』が審査員特別賞・観客賞を受賞。 第29回東京国際映画祭フェスティバルナビゲーターに就任。2018年4月にTBS『情熱大陸』に出演する。山戸結希監督が企画・プロデュースを手掛け、総勢15名の新進映画監督が集結したオムニバス映画『21世紀の女の子』にも参加。映画、TV、MV、広告、写真と幅広いジャンルで活動中。主な監督作に『キスカム!~COME ON,KISS ME AGAIN!~』(2020年)、実写 『ホリミヤ』(2021年)など。
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Information

映画『明け方の若者たち』

2021年12月31日(金)より全国ロードショー

「私と飲んだ方が、楽しいかもよ?笑」その16文字から始まった、沼のような5年間-。大注目の実力派若手キャストと新進気鋭の監督が描く20代の青春譚。

出演:北村匠海、黒島結菜、井上祐貴、楽駆、菅原健、高橋春織、三島ゆたか、岩本淳、境浩一朗、永島聖羅、わちみなみ、新田さちか、木崎絹子、田原イサヲ、寺田ムロラン、宮島はるか、佐津川愛美、山中崇、高橋ひとみ / 濱田マリ
監督:松本花奈
脚本:小寺和久
原作:カツセマサヒコ「明け方の若者たち」(幻冬舎文庫)
主題歌:マカロニえんぴつ「ハッピーエンドへの期待は」(TOY’S FACTORY)

©カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会

  • Photography : Naoto Ikuma(QUI / STUDIO UNI)
  • Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
  • Text : Sayaka Yabe
  • Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)